2nd season 「Time」 

□年齢差
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暗号は、できるだけ短く、だがその中に貴様を信頼しているというメッセ−ジを入れなければ・・フッと浮かんだ文句に自分で笑ってしまった。『ピカの影、来い』まさか私が言うことも無いだろう〜。ほかに思いつかず、すぐさまこれに決めた。「影、師匠、貴様」この三語、さらに接触、そしてゼスチャ−をクロロによって禁止された。接触が叶わないのならば、手のひらに指で綴る指文字はダメだ。試しに唄を歌ってみる。喉も何もかもカラカラだ。カサカサした小さな声しか出なかった。貴様、無事なのか?応答しろ。
「七草なずな 唐土の鳥が 日本の国に渡らぬ先に とんとんとととん・・」
反応するか?
耳を澄ます。
かすれた声で、返事があった。
「芹 薺 御形 繁縷 仏の座 菘 蘿蔔 春の七草」
 よし、シンクロした。お前の国の言葉でいく。頭の中に、このあたりのチャンネルを開いておけ。



 次にレオリオだ。
私の器をメンテナンスしろ。失血死など笑えない。これ以上は無理だ。意識を保てない。私の血液型は知っているだろう?独特の交渉術で旅団を煙に巻け、時間を稼げ。
(寒い。レオリオ・・私が還れるように、してくれ!)
(もう、着く。あきらめるな!)
(おまえに任せる)
(おい!?)
 いきなり、ノブナガという男に抱え上げられ、脳みそが揺れる感覚に襲われる。私はたまらず、意識が薄れるギリギリで、とうとう過去軸に逃げ込んだ。自分でもズルいと思う。他力本願だ。こんな時に、シズクとコルまでも、当てにしているのだから。すべてが私の憶測。その中のどれかひとつでも、予測に反する事態となれば、私はアウト。これは、デスゲ−ムだ。













軸に侵入者二名。私のアンテナが触れる。

来た。シズクとコルだ。

私は逃げ回った。会いたくない。どんな顔をして?何を話せというのだ?どれほどの覚悟で、他人の軸に割り込んできたのか、軸を操るタイプの具現ならば、解っている。だが、相手は蜘蛛。どうしても素直になれない・・。

一気にスピ−ドを上げ、過去に逃げ込む。さらに絶になりやり過ごした。

シズクだった。思いのほか動きが速い。遅れて?いや、慎重にあたりを確認しながら後ろからコルが追いかけてくる。油断した。絶が緩んだ一瞬、腕を掴まれた。

「止まって」話をさせて
「つっ・・」こちらには何も話す気は無い!
「どうして?」シズクとふたりで迎えに来たのに
「What is the purpose of life?」言うつもりもない本音だった
「!!」

言葉を飲み込んだ。

私の軸の中で、古い記憶に入り込んだシズクがトラップに突っ込んだらしい。線路や高速道路の様にいくつもに分岐している。その中の本線だけが私の記憶。分岐は、もしもこうしていれば、とか、やってはいけないこと、もしくは選ばなかった道なのだ。記憶を逆走すれば、本線しか通らないが、一度古い時間までさかのぼり、あわてて戻ろうとすると、これに引っかかるのだ。本人ならば実際、自分がやってきた事だから、間違うはずもない。労せずして、たくさんのトラップを拵えてしまったのだった。選ぶべき道が分岐しすぎている・・おそらく、あの時期だろう・・。このままシズクを私の記憶の迷路に閉じ込めておくことも出来ない。異分子、そこに居る筈のない間違った記憶を排他すべく、線路そのものが細くねじれ折れ曲がりはじめる。足元の透明な宇宙(そら)に枕木のように刻々と刻まれるTimeは、記憶そのものを無くす残り時間を示していた。緊迫した。このまま二人の異端児を私の記憶に取り込んだままだと、記憶障害の影響は、計り知れない。






















「コル、動くな!」これ以上ややこしくしないでくれ。
「わかった」
時間をさかのぼる。みつけた!
時間の道が折れ曲がり、どうすることもできずに居た。
『私だ』
軸の道がひらける。
シズクの意識を抱えてコルの待つ時刻まで戻った。
さらに現在の時刻に帰る。できるだけゆっくり、
シズクの落とした記憶をコルと二人で拾い集めながら。
 廃ビルが見えてきた。
クロロの姿を確認すると、私の足が止まった。
「シズクを頼む」
「行こうよ」
「だめだ・・」行けない
コルは、残念そうにシズクを連れて戻った。
 すぐ近くまで来たのだが、そこでの器の扱いに不満があった。
 バカな。
 私の身体を、大勢に晒すなど・・お前、患者の立場を考えろ。師匠も師匠だ。そんな方法では、オ−ラの無駄遣いだとは思わないのか?そうか・・わたしが欲しがらない限り、発動しない。だから、今、貴様は指示待ちなのだな?
 ここから聞こえるか?試してやる。
(レオリオ、聞こえたとおりに師匠に言ってくれ、できるだけ小さな声で、しかも偉そうにだ)
「黒の円を、小さく頼む」

 クロロがようやくその場の空気を読んだ。

「輸血が終わるまでの時間を俺が保障する・・」
よし、クロロが部屋から出た。
滑り込むように、そっと本体に還った。
 


















 暗号は百人一首とした。さらに唄詠み順に整理された番号をひらかな50音表にあてはめる、よく使うパタ−ンで。
 今こそ、ペアの念の威力をクロロに見せつけてやる!!

 「Please・・・」

思ったとうりだ。クロロが勝利を確信した。縫いとめられた両手首を、盗賊の極意を取り出す為に一瞬、外した!
(チャンス!)これを待っていたんだ。右手の鎖が踊り出た。既に瞳は緋色。今までで最速の色変わりをし、絶対時間に到達した。

「天津風雲の通ひ路吹きとじよ!」
「をとめの姿しばしとどめむ!!」【影】発動。

 優位に立っていると確信していたクロロは、初動が遅れたのだ。影から盗賊の極意を受け取った。
 
 ここからは、私だけのオプショナルツア−だ。緋の眼のまま、影を正面から見据える。あきれるほど早口で、唱え手首を返し鍵を外した。

「I break the ties between master and servant.」

そちらから見れば、まるでadios!と手を振られたように見えたかも知れない。
おびえるような、信じられないという眼だった。説明しているヒマは無かった。



「Wait!」

ただひとことを残し、私は未来軸へ飛んだ。盗賊の極意。こんなもの!一週間後の時刻へ置き去りにしてやった。私は手ぶらでさらに未来へ飛んだ。確かめたいことがある。紫〜緋色へ変色させる度に、跳ね上がる心拍数。3本の時間軸を行き来する間、ラルゴのリズムで死なない程度に打つ心臓。これは、あとどれぐらいもつのだろうか?緋の眼を集め終えられるのだろうか?
 群青色の宇宙(そら)が足元に広がる。何もない空間に一本、線路が真っ直ぐに伸びているのだ。レ−ルの下に等間隔で敷かれた枕木には時刻が刻まれている。さらに先へ。

 見てしまった。

 




 
足元の私は、緋の眼。既にヒトでは無かった。しかも全力!?壊していいと言われて喜んでいる。放電の後、はるか上空から眼下を見下している。黒い小さな人影を眼の端で捉えた。鷹の眼が獲物を狙うようにその物体の倍率、照準があう。ピンポイントで捉えたそれは、シャドウ?貴様か!再び広角に画面が映し出される。吹き付ける風に青い鱗がバリバリと剥がれ落ち生まれてこのかた陽の光を浴びたことも無い真っ白な肌が剥き出しになった。

いきなり線路は途絶えている。パックリと、ただ、暗黒が広がっていた。いや、それだけじゃない。じっとたたずむつもりでも、意思をもった生き物の様だ。波打ち際で伏流水が足元の砂を浚っていく・・そんな優しいものではない。足を掴み引きずり込まれる。まるでブラックホ−ルだ。
 
 ぞくぞくした。これほどまでに、私の残り時間は少ないのか?愕然とする。これ以上先を見てはいけない。

「Weit!」

ヤツはおそらく、よく躾けられた警察犬のような眼で円を張り、器をあたため、時間ごとに向きを変え、身体を拭き、髪を手で梳き待っている。
 還る場所。
 決心が固まった。
現在の軸が平衡して走る。全力で戻り、軸を乗り換えた。鳥のように飛んでいると表現すべきか?

 バサッ

ぶざまに地面に降りたような羽音を立ててしまった。


 ようやく目を開けて見る。目の前に逢いたかった漆黒の瞳があった。その瞳には私だけが映っていた。親子ほどの年齢差、白い肌と黄色い肌。言葉の壁。それらすべてを取り払い、私は影を「鞘」としてはじめて認めた。
 貴様・・・カタコトの英語よりも実に雄弁。その舌は、優しく、なめらかに私を絡め取り、くすぐり、入り込んだ。こんなにも私を愛してくれている。
 
 私は・・私は・・まだすべてを明かしてはいない。

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