2nd season 「Time」 

□幸福
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 バショウによって肩を外され、小竜が床をのた打ち回り、俺が抑えているわずかな隙にマチが関節をはめこんだ。
 高熱。
コイツの平熱は低い。それは、隠れ里に二人旅をしたクロロも知っている。一般の体温計ではエラ−が出る。闇の住人の間で「アイスド−ル」と呼ばれるには、氷の視線以外にも、もっと生々しい理由が有る訳だ。ピカの首筋から肩、肘から指先を重点的にタッチしながら思う。
 ピカの上を通り過ぎて行った顔も知らぬ男たち・・・・ある時は取引で、ある時はノストラ−ドが金の為に貸し出して・・・・問い詰め、センリツが遠慮がちにポツリポツリとこぼす言葉からも、ピカがどうゆう扱いを受け、それに耐えてきたのか容易に想像が出来た。

「くそっ!」

 もしも、ピカが女ならば、その行為の先には責任が生まれる。だが、男なのだ。ありえない、オレはノンケだ。話を聞いた時点では、誰もがそう思う。だが、ピカを見て気が変わる。
 一切の睦言も無駄な声もあげない。眼を抉り取られないギリギリのところで、情報を訊きだす。レオリオが暗黙のうちに自分に架した ”顔と手首から先には、痕が残らないように扱う ” という、決まり事は闇でも共通のものに成っていく・・。

「かげ・・こい!」

それは、心分身の霊界獣がようやく発した言葉だった。
打ち明けたピカの本心。
そして、それをまるで恥じるように、群青色の虹彩で隠した。ギリギリにならないと、呼ばれない。

「黒の円が欲しい」

欲しがらなければ発動しない黒の円。
おまえな!
どれだけギリギリなのか?!

 

 衝撃だった。

伸びた髪、薄い胸、静脈がどう走っているのか丸見えの深海魚のように浮き上がった手首。
(ピカ!食べていないのか?寝ていないのか?!)
離れていた時間を無言で語られた。

もう離れてはいけない。俺はお前の影なのだから。
そして、自由に動け。やりたいようにしろ。俺がバックアップしてやる。行きつく先が地獄でもかまわない。とっくに捕まった。嵌ったんだ。この天使の顔をした悪魔に。

第一印象はお互いに最悪だった。ヨ−ダめ、俺に寂しかろう〜と愛玩人形を寄越しやがった!正直、そう思ったさ。庵までたどり着いた時点で弟子入りは合格だ。アカメの人形ではない。れっきとしたヒトだ。その内側に持つ、そこらの雑魚よりも数段上の細やかな感受性と自らの努力で身につけた知性。そして、決して本人の口からは語られない、クルタでの自分の地位。裏試験と絶対時間の開眼に至る修行の日々・・・。
ピカが緋の眼になり、自分はウサギだとカミングアウトした時点で、俺に心を開いたと解釈した。
ダレモワタシノキモチヲワカルモノカ!繰り返される拒絶の呪文は、裏返せばいい。お願いだ、私を解り愛してほしい!そうか・・・コイツの態度や言葉は裏返せばいい。取扱い方法がわかった。

少なくとも、取引相手とは別の気持ちだと伝わるといい。それとも、俺の欲求を満たしてやってもいい・・と、ぬくもりの礼だったのかも知れない。

レオリオは、どうやって教え込んだ? 『離れていても、心近くに』これを英語ではどう言うんだ?そもそも、俺の言葉は、ピカにどれぐらいの深さで伝わっているのだろうか?

 俺は、裏返さず、真っ直ぐに伝える。ピカ、お前に届くまで、いつまでも、何度でも。

「お前は、ひとりじゃない!」(俺を影と認めろ!そうしないと俺が生きていけないんだ、気がつけ!ピカ)

 


 そろそろ、目覚める。



傍に居ない方がいいと判断し、部屋を出た。












 目覚めると、そこには貴様の気配だけがあった。今まで寝ずの番だった筈だ。その証拠に、私は着替えさせられている。
(小竜?)
(ワカ様っ、気が付いた?もう平気?)
(なにをはしゃいでいる?)
(シャドウが来てくれて嬉しい)
(そうか。お前には、命令するだけでうるさい存在かと思ったが?)
(シャドウはワカ様を大好きみたいだよ?)
(だまれ!)
(・・・・)

久しぶりに会ったのだ。自分がどうしていたのかふつう、喋るだろう。それが一切ない。何が言えない?そうか・・私を殺しに来たこと、言える筈が無い。ハイそうですかとヤラレル気も無い。
 残念だが、貴様に私は殺せない。だが、何を吹き込まれたのか解らない。保険だ。鎖で繋いでおく。



未来軸に一緒に飛んでやる。




この言葉は、今でも有効か?








 時間軸は止まらない。刻々と終焉に迫る。


 どこまでも私に付いてくるらしい。ああ。ついてこい!
私の鞘。私の影。


 (小竜に声を借りず、自分の声で、伝えよう・・)
もう、その必要は無いのだろうが・・・。どうして自分はもっと素直になれなかったのだろう?せめて貴様の前で。

 送信出来なかったメ−ルを保存した。
















 飛行船を乗り継ぎ、港町に到着した。

俺はサングラスをしていたし、待ち合わせの場所にはシャルひとりだった。

「無事だったんだ!」

押し黙ったままの俺に、シャルが反応した。

「そう・・クラピカは、ダメだったんだね?」

俺は一瞬、返事に困る。肉体がという意味ならばそうだ。
精神がとか意思がという意味ならば、ここに居る。サングラスの弦に指をかけたが、取るのは辞めた。これは切り札だ。
クロロ以下、蜘蛛全員が揃ったところで、そうでないと効果は無い。
しばらくの沈黙の後、俺は静かに頷いておいた。



これには、シャルはヒュッと息をのんだ。 ヤツの癖だ。
冷静に見えて、よくみると結構わかりやすいリアクションをしている。どこかのだれかさんとは大違いだ。まぁ、あれを見抜けるほど鍛えられたせいで、シャルのリアクションを見えるようになったのだが・・。

黙って差し出されたのは、ピカの携帯だった。

あの状態の現場から、よく探し出したものだ。

(どうやって?)視線だけを送る。

「現場に戻っちゃいけないって、解ってた。でも、これだけはどうしても、探しておきたかったんだ。クラピカって、何でもメモって携帯に入れてたから・・意味・・解るよね?
オレが作った携帯だから最初の指紋認証は外せたんだ。でも・・」

「####」

ピッ♪

「嘘っ!暗証番号、知ってるの?さすがだね?」

さっきから、シャルはひとりで喋っている。

未送信のメ−ルを探る。(許せ、ピカ。知りたいんだ。お前の本心を)

そこには、俺宛てのメ−ルが列をなしていた。何通も。何通も。全部、同じ言葉だ。



    



『Together wherever we go.』

 ずっと いっしょに いようね





どうやら、 俺は、 泣いているらしい・・。






      -- 完 --























海月









暗証番号は あてずっぽうだ
シャルの手製
漢字変換機能は無い
だからピカからのメ−ルは数字だらけだった

旅団である以上レオリオや一次試験の仲間は要らない
ピカにしては珍しい
恐ろしく素直な言葉をいくつか思い出す


影、来い!
かげこい
kagekoi
母音でいく
1452

『いろは歌、それで私が分からなければ!(貴様は私の影ではない)』

さらに逆転か?シャッフルか?

『・・・・昨日の質問も、まだ受け付けてはくれないのか
・・ビスケとはたくさん喋っていた様子だったが
・・私は、良い弟子では無いからか?・・邪魔したな・・』

そして、ガン見しやがった

これだ! 

良い子に
4152

これで開けば ちょっと嬉しいが・・・

ピッ♪

!! あきやがった







『Together wherever we go.』

 ずっと いっしょに いようね

『Together wherever we go.』

 ずっと いっしょに いようね

『Together wherever we go.』

 ずっと いっしょに いようね





いくつもいくつも

繰り返し読んでいくにつれ

俺の心は満たされた



   ピカ


ああ ずっとだ





夜空には

海月のような ぼんやりした月が浮かんでいる

ピカが 笑っている

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