短編   Leave

□Leave  列車にて
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今、私はクロロと隠れ里に向かっている。列車は個室を取った。不安定な私を心配しているのか?単なる興味か?シャドウの指図か?円を張っている。
 会話は、特に無い。規則正しい列車の揺れと、自分の鼓動がうるさい。





 風の音。近づく足音。ドアの開け閉めのクセ。耳を澄ますということが、どうゆうことなのか三日目ぐらいで解って来た。『視覚』これにどれだけ頼っていただろう?自分の間合い(パ−ソナルスペ−ス)に円を張ってみた。頭の中にまず白地図を作る。これを動きながら埋めていく作業を繰り返す。生活動線はこれで足りた。気配を肌や鼻や耳で感じる。耳に『凝』を使う。コツが判った。ただし、食欲が失せた。見えないと食べる作業に苦労する。予想の味とずれた場合、特にがっかりだった。そして、何をどれだけ食べたのか判らない。面倒になった。

 そして、自分を良く思わない人物の小さなオ−ラに気が付いた。なるほど・・・シャドウの老婆心はこれか。
 バショウとセンリツを護衛から外した。内通者と思われ、面倒を起しかねない。 センリツは勘がいいからコルの話しが多分、判るだろう。・・・問題は、バショウだ。彼は自分の感情が表に出やすい。好き嫌いがハッキリしている。正直で繊細。そして、嘘がつけない。目標をハッキリと示してやる。努力を惜しまないタイプだ。上がってきたそのときには、それなりの褒美を渡さねばなるまい。
 
 護衛を外した訳を直接、話そう。

中庭に、手あわせに呼んでみた。体術を交えつつ、話しが出来ればよしとした。風の音、遠くの列車の音もハッキリ聴こえる。

 いきなりだった。何かが放物線を描き飛んだ?思いのほか
大きな音をたてて落下したのだ。とっさに振り向く。
 
        後ろを、捕られた。

        思考が停止する。
        身体が、動かない。


心臓の鎖がビシッと反応し、【影】が発動!

 その後のバショウの態度で、シャドウの動揺が痛いほど判った。おそらく、私の取り扱いの説明もいくつか話したのだろう・・。










本部へ発つ前夜、
「ピカが判らない。お前の心は今、どこにある・・」

シャドウの搾り出すような小さな声だった。私の瞳を覗き込むのが癖だが、今、それが出来ない。裏が読めないという意味なのか?
(貴様を私のお守りから外してやると言っているのだ。それが何故解らない?)
 しばらく、返事を待っているふうだったが、沈黙でそれを返した。これには、堪えたらしい。

翌朝、静かに旅立っていた。

何とも形容しがたい、半身を削ぎ落とされたような痛みが襲った。物凄い喪失感。私は、護られ、甘えていたのだ。
”Ready  or  not.” どこかで   
”Here  I  come.”と、返事があるかも知れない。
居る筈の無いシャドウを探し回った。


夢とも現実とも言いがたい思考の世界に逃げ込んでしまった。










ペアの念のMP(ミステリ−ポイント)についてずっと考えていた。
 @アイコンタクトで【Revers】する。
 A鎖を繋ぐ
 B指令を出す
通常、この順番での発動だが、「free の場合でも来れなくは無い」と断言された。「アンテナがピカに向いているからな」(おそらく、これは暗示だ)
そして、私の体調に関係なく【影】はすごいパワ−を発揮する。その後も私が休む時間、ずっと円を張ることができるのだ。どこからそのスタミナが沸くのか?「ピカ限定」と、笑って言うが、そんな誓約が可能なのか?影になったまま、【触手】【盾】【変り身】それに【網】もある。いったい何種類の技を持っているのだろうか。影になる前の念も、そのまま有効なのだ。
そのひとつが私に掛けている【呪文】のような操作の念。クロロですら外せなかった。何の仕掛けが施されている?とうとう聞きそびれたままだ。



 やはり、【影】に頼りすぎている自分を自覚した。
        (離れて正解だ)
二人で発動する念だが、シャドウと私が0.5と0.5に成ってはいけない。最低でも1+1=2 ひとりひとりが充実すればパワ−ポイントとミステリ−ポイントの加算で3にも4にも成るのだ。ひとりでも、しゃんと自分の足で立っていなければならない。しかも、旅団の大所帯を養っていかなければならないのだ。

 自分オリジナルは、未来軸。だが、これは技ではない。
単なる持ち時間だ。紫は、とうぶん封印だ。記憶が飛ぶほど疲れ、軸が大幅に削られるのだから・・。
 いきなり途切れた軸の先端。パックリと深く口を開けたブラックホ−ルが頭に浮かんだ。
 
 目眩いがした。指先が冷えていく。貧血だ。

 


 原点に戻ろう。何が正しくて、どこが間違っているのか。
 私自身、見えなくなっているものが見えてくるといい。
 旅団の私を、里は受け入れてくれるのだろうか・・・。




「・・ピカ?」
「クラピカ?」  クロロが呼んでいる。
「ずっと、だんまりだね。気分でも悪いの?」
「・・・いや」
「そう。遠慮しないで。気持ち悪くなりそうな時は言って」
私は、黙ってうなずいた。
「乗換えだ。行こう」
「ああ」

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