長編   隠者の書

□隠者の書「急」流転
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 ワカ様!
 過去軸?それとも未来軸?どっちに離脱したの?
 第一、本体がこんなじゃ、迎えに行けない。

 魔界のヒト!そして、すべての精霊よ!
 お願いする!小竜にオ−ラを分けて!





バラバラバラッ 青い鱗が剥がれ落ち竜の姿から半獣へ、
そしてヒトの姿に変化した。なおも、大地からのオ−ラが小竜の廻りを湯気の様に集まっている。
(二人を連れて行きたいのです。お願い。もっと力を!)
これまでの下手くそな変化とは比べられないくらい、人間らしく成った。華奢な身体がやや、肉付きが良くなった。
(護りたいのです!お願い!)





 シャドウの言うとおりだ。こんな、ドロドロのままじゃいけない。安心して隠れられる場所、乾いた服。今、必要なのはそれだ。
 今なら、キット飛べる。これをシャドウの言語で伝えなければ・・。頭の中で言葉を組み立てる。日本語は最後の語尾で命令にも聞こえるし、疑問形にも聞こえる。発音が難しい。母音が5つしかない。濁音と破裂音・・心の中で2回言ってみる・・。多分、これで大丈夫・・。

思い切って発音した。その声は自分でも驚くほど、ワカ様の声にそっくりだった。



「シャドウ!空間移動をする。庵の座標を教えてくれ」




シャドウが顔を上げた。











幼き日 ふるさとの山にむつみたる 細渓川の忘られるかも


3月30日  満月  月齢14.3  大潮

すっかり、この場所に慣れた。少し、クルタの里に似ている。落ち着く。シャドウが山全体に円を張っている。すごい力だ。
 満開の桜を吹き抜ける風の音、スズメの鳴き声。川のせせらぎ。ねぇ、聞こえてる?


 


「人と成り、その短い一生を送るか、龍と成り、千年もの長き命でその土地を守るか、それは主人の決めること。小竜は従うのみじゃ」

 長龍は千年の命を主人から定められた。怪鳥として、生き字引きとして、事実を正確に次代に伝えるのがその役目だ。
 千年・・。その間にどれだけの生き物の生き死にを見て来たのだろう?生まれた瞬間から、まっすぐに死に向かって走り出す哀れなヒトや動物の姿を。
 そこに感情は存在しないのか?ナゼ?冷静で居られるの?
「逢えたら、真っ先に伝えよ!昼と夜とで色を変える光と」
あの声には、間違いなく感情がこもっていた。そして、何よりも、数少ない竜である私を手元から放した。長龍の胴に守られ、ただ、泣いてばかりの小さな私を。
(長龍!お願い!教えて。命よりも令を優先?なぜ?)
「死は全く怖くない。一番恐れるのは、この怒りがやがて風化してしまわないかということだ」ワカ様はそう言うけれど、目の前のシャドウは自分だってボロボロなのに、こんなに貴方を生に留めておきたいみたいだよ?限定の念って何?
ワカ様が死んだら、シャドウはどうなるの?私はふたりとも助けたいんだ!
 第一、ワカ様の心分身のくせに、主人無しの千年の命なんて・・・要らない!!
 未来軸の先端って何?
 その先は、小竜の分をお使いください。
(お願い、ワカ様。命令して!)

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