短編   Leave

□Leave 旅団編
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 帰るなり、シャドウが黒の円の中にクラピカを閉じ込めてしまった。クロロはなぜか口を利かない。シャルは、クロロの態度からいろいろな推測を頭に並べた。そして、整理した。
 シャルは、団員を食堂に集めた。

「説明しろっ!シャル!」
フィンクスが浴びせた罵声に、一瞬ヤバイ空気になった。
ここは、クロロが一言。
「まず、今日、明日ぐらいまで、一切、シャドウを刺激しないでくれ。これは命令だ」
大きな声だった。これには全員が固まった。
「バショウ、補足しろ」
今のクロロの発言を、と、いう意味だ。
「シャドウの念はクラピカを護ることに特化している。今、クラピカが壊れている状態、でも、かろうじて生きている状態。これは、シャドウにとってもギリギリなんだ。だから、危ない。刺激すれば、暴走するんだ」

あとは、シャル、喋れ・・と、クロロが視線を流し、自分はソファに深々と身をしずめた。

「今回、クラピカは、ある意味、6年前のクルタ襲撃の件を昇華 sublimate したかったんだと思う」
「そんなに、キッチリ、置いておけるもんかい?」
「そこだ。 昇華しようと、努力したんだ。クラピカは、今、生きている方を優先したんだよ。それで、ぶっ壊れた」
「はぁ?」
「里に二人で行った割には、シャドウが戻ったと聞いたとたん、強行軍で戻って来ただろう?シャドウはクラピカの師匠ってこともあるけれど、ペアの念を発動するほどの仲なんだ。ひとりでは置いておけない訳がキットそこにあるんだよ。」
「だから、自分が里に出る時、シャドウにも外出させたのかぃ?」
「クラピカの読みは、もっと深いはず。団長とクラピカの留守に、もし、おれ達が束になってシャドウにかかったらどうなると思う?」
「センリツとバショウにも同じことが言えるんじゃねぇか?」
「だから、クラピカは団長と二人で里に行く必要があったんだよ。おれの言う事はみんなが効かないのもわかった上で。センリツとバショウには、ちがう意味での信頼を持っている。レアタイプの補充は旅団としても有り難い。センリツにおれ達が手を出せないのは承知。 だが、操作は、おれとかぶっているし、クラピカの師匠ってだけのシャドウは年齢も高く、浮くんだよ」
「ま、見たまんまだけどねっ?」
「見たまんまじゃないんだ。逆なんだと思う」
「クラピカが、シャドウを護っているんだ?」
「そう」




「シャドウについて、少し調べたんだ。
・・・・マスタ−になってからは・・あの性格だ。基本の四大行までは、どの弟子もガマンして修めるが、それっきり。中には、逃げ出したり、投げ出したり。誰とも反りが合わなかった。一匹狼として、本部でももてあまし気味だったんだ。そこへ、7人のル−キ−の当たり年が来た。ヒソカとイルミは念を会得しているから文句なし、でもあと5人。ネテロはクラピカとシャドウの性格をみごとにマッチングさせたんだよ。」
「見た目、人種も全く違う二人。実は、思考が似ているからね。」 
「言葉の問題はクラピカが習得することで解決。しかも、例の「発」鎖までここで開眼。基本から半年の早業でヨ−クシンに間に合わせる指導。クラピカの執念がマッチした?」
「そこで、ウボ−、パク・・」
「力と精神、この見本とも言える二人を殺っている」





 クロロが帰って来た。はじめは、全員がクロロがひとりで帰ったことに納得した。(ああ、やっぱり)って。思ったでしょ?でも、手に軽々とクラピカを抱いていたんだ。
 この時のシャドウの顔を、キット忘れられない。






さらにシャルは続けた。
「お互いひとりぼっちで、失うものは何も無いって言いながら、あの二人はそれぞれを護ることで、1番、自分自分の力を出せるんだ。・・あ、ジャポンの戦いの動画を観たのは、おれと団長だけだったね」

「まって、シャル、ウボ−とパクから、ペアの念までの時間が抜けてるけど?」
「そこは、いくら調べても解らなかった。本人たちも言わないだろうしね。それに、クラピカとシャドウについてはもう、誰も調べられないよ。きのうからガ−ドが掛かった。クラピカが、マスタ−になる条件でもあったんだろうねっ?」
「「「「「オオ−ッ」」」」」
どよめいた。
「それだけのことが?」
「出来るんだよ」
「ハンタ−協会のシステムについてもクラピカは、なぜか詳しい。おそらく、だれかと繋がりがあるんだろうねっ?おれ達でさえ、今みたいな状態なんだ。協会の中に、クラピカのファンが居てもちっとも不思議じゃないだろ?」
うんうん と、それぞれがうなずいた。



「センリツ?」
「はい」
「クラピカの心音に不審な点は?」
「疲れていたわ。とても・・それだけよ」
シャルの目が冷たく光った
「ありがとう。助かるよ」



「一応、ここでお開きだ。ボクの部屋にコル、シズク、フェイ、マチ、30分後に来て。じゃ」









「あの二人、何があったと思う?」
「そりゃぁ〜団長がクラピカを押し倒して・・」
バコッ!!
「それ以外での話しだよっ」
「二人で、なにか取引があったはずなんだ」
「除念・・とか?」
「アリだ。そうでなければ、行く前の3Fからの落下事件は無かったはずなんだ。シャドウとクラピカを繋いでいる鎖を団長が切ったのか?」
「もし、シャドウをクラピカが制御しているとすれば、今は制御不能の状態なのか?」
「ヤバくない?」
「緋の目。あと7対をものすごく急いでいる様子じゃなかった?」
シャルとマチが目を合わせた。そのとき
「じかん ない」
突然喋ったシズクの声は、案外、大きかった。
「ナイスだ!シズク・・」

「不要緊・・・」(ダイジョウブ・・・)
フェイがポロッと つぶやいた。

マチが青くなった。

「コル、センリツを張ってくれる?彼女は本当のことを言っていない」

シャルは厳しかった。







 フェイがフィンを伴ってもう一度シャルの部屋に訪れた。
とても珍しいことだ。
「どした?」
やや、喋り始めのタイミングを戸惑いながら、フィンが口を開いた。
「フェイが気が付いた」
「何に?」
「シャドウの念の使い方に」
「どんな風に?」
フィンは、真面目におとなしく話すのを照れるのだ。ひとつひとつのセンテンスで区切り、そのまま話しを続けさせることにした。
「フェイと、使い方が似ている」
「!ってことは、怒りをオ−ラに変えるってこと?その時の感情によって、いくつものパタ−ンの技が出るかも知れないってこと?」
「まあ、そうだ」
「なるほど。それもアリかもねっ」

一応、自分とフェイの意見を肯定されたことで、フィンは満足した。わざわざこれを言いに来たことも、なんだか照れくさくなり、とっとと戻ろうと身を翻したところに、いきなりノブナガが入ってきた。

「シャル!」
「はいはい」
「さっきの、クラピカが主人ならば、こんな考え方はどうよ?」
出たっ。強化系。しかも、自分より先にフィンが居ることに既にイライラしている。わかりやすい。
「どうぞ」
ノブナガはいきなりフロアに胡坐を組み座った。彼の癖だ。
少し、込み入った話になるらしい。こっちもそれなりの聞く体制をとる。フェイもフィンも一緒に聞くことにする。
「クラピカは王位とか言っただろ?すると、シャドウは家臣ってことにすればわかりやすいと思ったんだ。もしくは影武者」
「なるほどね」
「その影ってのは、影武者のことじゃねえかって。もし、火遁、とか風遁とか火水木風雷土のどれかが使えるとしたら、シャドウは間違い無ぇ。『忍者』だ。ジャポンの方では、その血を受け継ぐ者がいまだに居る」
「おもしれえ」
「クラピカはダミ−が作れるだろう?」
「具現だもの」
「では、どうやって教えた?」
「操作のくせに?」
「っていうか、ヤツは本当に操作なのか?」
「ダミ−ってのは、忍者は『変り身』って言うんだ」
「で、さっきのクラピカと離れた場合ってのは?」
「主人を護るのに、自分を『盾』にしたりするんだ。これは
触れるほど側にくっついていなけりゃいけない。引き離されて、自分が敵に捕まったりすると、『自爆』もアリなんだ」
「口を割らないことで、主人を護るのか?すげえな」
「ものすごく、忠実だが、言いなりではなく、自分で考えてよく行動するんだ。そうゆう目で見ると、シャドウは『忍者』に間違いねぇって思ったんだ」

一気に喋り、ノブナガは満足した様子だった。
「参考になるよ」
「邪魔したなっ」
言うだけ言うと、おわり!と、三人とも出て行った。


「当たらずとも遠からずってところかなぁ・・」
シャルがつぶやいた。
フィンに喋らせているけれど、あれはフェイの意見なんだ。あの二人だから、クラピカとシャドウを理解したのかも知れない。強化のフィンは身体の小さなフェイを無条件で護ろうとする。もちろん、フェイは強いのを知っている。フェイはフィンが少しでも傷つくと怒る。これとパタ−ンが似ているってか・・同じかも。分析力は小さなフェイが上回る。フィンもそこを解っていて、自分が先鋒に出ることで、相手の手を分析する時間を与えるのだ。カタ言も、日ごろから一緒に居ればかなり通じる。確かに、似ている。
 

それに、あれが火遁ならば、うちにもうひとり居るじゃないか・・。へえ・・。【隠者の書】要員としてクラピカはそう、固めて来たって訳か。深い深い。







 













クラピカが黒の円から出た。
 最初に呼ばれたのは、センリツだった。







「すまん、センリツ。毛布でも掛けとかないとわかりにくいんだ。・・しかも、まだ一言も喋らない。おそらく、頭ん中じゃ、いろんな言語が渦巻いているんだろうがな・・ちゃんと聞こえているし、こんな薄い色の目だが、見えているんだ」
「いいのよシャドウ。 今、話を聴いているから・・」
「そうか・・」






 まるで、羽化したばかりの蝶のようだった。
後退色(緑、青など、背景の中に吸い込まれて見える色)の
【絶】だ。毛布を被っていても中の身体が透明なのが解るくらいだ。どうしたらこんなふうに成れるのだろう・・
心拍は a largo ゆるやかだ。
心音は、澄み切っている。しかし、ところどころに不安気な音が混ざっている。それは、しだいに大きくなり不協和音に成って行った。悲しげで、叫びのようにも聴こえる。
クラピカは、今、泣いているのだ。涙を隠しているだけ。
その目は、ゆっくりとセンリツに焦点を合わせ、「報告しろ」と言っている。

「シャルが食堂に団員を集め、ペアの念についての主観を話したわ。そして、主人はクラピカだって断言した。シャドウに関しての情報も、ガ−ドされる前に入手していたわ。ただ、団員達は、相変わらずクラピカに一目置いていることに変わりはないみたい。ノブナガが忍者説をシャルに説いた、こんなところよ」

クラピカが視線をセンリツからドアに流した。「退室しろ」と言っている。
お辞儀をして出た。

すぐにバショウにつかまった。
「どうなんだ?」
それには答えず、まっすぐにクロロとシャルのところへ報告に行く。この二人よりも先にバショウに喋る訳にはいかないからだ。そこに、まるでマスコットのようにちょこんとコルも居た。(そうなんだ・・)センリツは、コルの心音も予め聴いていた。今はそれとはちがう音だ。(あなたも、大変ネッ・・)目を細めて退室する姿は、クラピカが無事に回復してほっとしていると普通に見え、とても自然だった。

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