長編   隠者の書

□隠者の書  prologue
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「本当にそれでいいんだな?」
「くどい。応援が来ると決まっていては必ず甘えが生じる。そんな生やさしいものではないだろう?それに、私は4人以上でチ−ムを組んだことが無い。そちらの団員の念タイプも、不明な点が多い。伝達や言葉の解釈を誤ればリスクが高まる。私の喋りについて来られる者しか要らないんだ」

珍しく、ピカが声を荒げている。説明すればするほど、自分の手の内を明かしてしまうdilemmaに陥っているのだ。これもまた珍しい現象だ。俺はそんなクラピカの様子を一歩身を引いて眺めている。テ−ブルをはさんで、クロロとシャルが3人がけのソファに中をあけて座っている。第3回、巨頭会議中だ。

「センリツはどうする?」
はぁ?という鋭い視線をピカが返した。それでも言葉にしなければ伝わらないのか、と返事をする。
「そちらが、フェイと組ませたいと先に申し出があったが?」
「譲ってくれると?」
「ああ。それに、彼女のタ−ゲットだ。彼女が関わらずしてどうなる?」
「まあな」
「ノブナガは接近戦タイプだが?」
「唯一、シャドウとスム−ズに会話が出来ている。バショウとシャドウはおそらく、直接、話すことは無い」
な?と、俺に目を流す。瞬きをして応える。
「どういう意味だ?」
「お前とレオリオが仲良く喋りたくないのと同じ理由だ」
シャルが思わずクッと吹き出した。
「クラピカ。それを解った上で使うの?」
「それと作戦とを結びつけて考える、お前の回路の方がどうかしていると私は思うのだが?」
左手でしきりに顎や頬を触っている。そろそろ、ピカが疲れてきたのだ。 助け舟を出す。

「クロロは知らないだろうな」
「何を?」
「コイツ、目標達成まで、一言も喋らなかったことも有るんだぜ」
「サインとか暗号で済ませたの?」
「そうだが?」
ピカが、涼しい顔をして即答した。
「それじゃ、決まりだね」
シャルがあっさり承認した。








「団長、シャドウ、お願いがあるんだけど、いいかな?」
シャルにしては遠まわしな言い方だ。
「何だ?」
どうしようかな?と、一拍置いて、試すようにゆっくりと喋りだした。
「クラピカを貸して欲しいんだ」
ガッ!!!
クロロが一瞬、膨大な錬、そして隠に。もちろん【盾】で撥ね返した。どちらも瞬間的に同時に行われた。空気がピリピリと痛い。そのまま言葉を続けろ!胆で見据える。
 ピカは【盾】の内側で水のように静かにしている。よし、無傷だ。
「ちょっと外出したいんだけど・・・ダメかな?闇の調べ物なんだけど、PCの翻訳機能ではひとつひとつの単語が基準になるから、文章につじつまが合わないところが出てくるんだ」
翻訳ということか・・ピカが返す。
「私は構わないが、シャドウを介さなければ、元の言葉が不明だろう?」
「そうなるね?If you come with me. I'll feel more secure. はじめは、フェイやバショウにも見てもらったんだ。読めるけど、意味がわかんなかった。頼めるかな?」
「俺は留守番ってか?」
「ダメ?」
「最短で帰る。一週間・・・いや、五日でどお?」
「ダメだ」
クロロの言葉にシャルは、かなりがっかりした。が、すぐにクロロが言葉を続けた。
「移動に余裕がないと、クラピカの負担になる。十日やる」
「サンキュ」
「I appreciate tour thoughtfulness.」








「それと、団長」
声の調子ががらりと変わった。まるで、ここにピカも俺も居ないものとしているような、二人の会話だ。
「何だ?」
「シズクと直接、喋っていないでしょ?ダメだよ」
「通じるのか?」
「バカにしないでくれる?言葉がうまく出ないだけで、頭脳明晰なことに変わりは無い。シズクの頭の中の膨大な情報量を捌ききれていないだけだよ」

ピカが決心したような固い表情になった。発言の前に手で制した。
「やめておけ」
意味がわかったシャルが同調する。
「女が入ると宿や移動が厄介だ。パニックになったり泣き出した時、クラピカ、なだめられるの?」

 『クラピカは、頭の中で我侭なネオンを思い出していた。
 ボスの部屋に呼ばれ、一言ふた言、表面的な会話をする。あとは、あっちこっち脱線する、いつ終わるとも知れない話しを延々と聞いてやる。これしか出来なかった。彼女も頭は良かった。素直さが無かっただけで・・いや、何かが欠けていたか、自分に正直すぎたのか? 一度、思い出すと次々といろいろな場面がフラッシュバックした。目眩がする。』

 変調した。急にだんまりになった。 まずい。
「お前が万全でないのに、シズクは連れて行けない。いいな?」
ほとんど父親の口調になった。言い過ぎたか?
「失礼する」
クラピカがいきなり退室した。
「外にはマチが居る。任せろ」
「シャドウ。少し、いいかな?」
話しはまだ終わっていないらしい。
「かなり、気にしているね?」
「クラピカの前で、シズクの話しをしないでくれ」
「シャル。お前、わざとだな?」
「あ、わかった?確かめたかったんだ。どうなるのかな?と思ってね」
「それで?」
「予想どおり、ものすごく心の振り幅が大きい。作戦を語る時とは別人だ。もし、病名を付けるのなら、適応障害ってとこかな?敵の中に自分から入ってしまったんだもの。経過はどうあれ」
「治るのか?」
「う〜ん。治ったら、マジでタイマンだよっ?団長、いいの?」
「クラピカが、それを望むのならキチンと受けてやろうと思う」
「おおっ。武士道だねっ?」
「いや。ちゃんと殺してやる」
「死にきれず、ギリギリ生きているよりもよっぽど本人は楽だろうね?」
「そうだ」

「その話しを俺に聞かせたかったのか?」
「シャドウがどうやって支えるのかクラピカがどこまで正気でいられるか、見せてもらうよ。楽しみだなぁ〜」
挑発だとわかっている。が、そろそろこのお喋りな口をどうにかしたくなった。一触即発の空気だ。
「外でやれ」
クロロが退室を促した。
言われるまでもない。シャルと掴み合ったまま廊下に出た。



そのまま引きずって中庭に出た。
「言い訳させてくれる?」
「何だっ・」
「里から、ちゃんと生きて帰ったでしょ?シャドウの気持ちに応えようとクラピカは努力したよねっ?もうホント、ギリギリだよ。いいの?それで?」
「いったい何が言いたい?」
シャルが携帯を取り出した。要注意だ。
待って・・と、手のひらをこちらに向けて挙げる。
地図の画面を見せた。
「場所がここなんだ・・」
縮尺をだんだん広げてみせる。
「ねっ?ちょっとぐらい、いいと思うよ?」
「本気か?」
「団長に黙っていればいいじゃん。なにもいちいち報告する義務はないでしょ?十日ももらったしっ」

「有り難い話しだが・・・」
「だが?」
「シャルの演技にまんまと騙された」
「あっ、そ!誉められたってことだよねっ?」
「クラピカには知らん振りしておく。シャルから頼む」
「イエッサ−!」





 そろそろ、ピカの頭が冷えた頃だ・・
シャルと別れ、ピカを探しに向かった。

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