長編   隠者の書

□隠者の書「序」誘導
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「レオリオ、噂は本当らしいぜ?」
女性陣の中には既に崇拝者が現れている。ちょうど後期の試験も済み、それぞれが次のステップを踏むべく、研究やバイトにシフトしたところだった。真面目に大学の図書館で論文をまとめていた女子学生が発信源だった為、ガセの可能性の低さから、一気にひろまり、図書館の利用者がテスト期間並に急増したという次第だ。
「見たか?」
「いや・・」
「中には、バイトを休んでまで張っているヤツも居るらしいぜ?」
身長180cmぐらいの金髪と黒髪、さらに170ぐらいの金髪の三人組。別の話しでは、大きな二人はSPだとか。なんでもそれぐらいの身のこなしらしいのだ。小さい金髪は性別不明。どこかの要人か?



大学の図書館は部外者の閲覧もOKだ。だが、普通は一ヶ月ほど前に閲覧希望の細かい書類を提出しなければならない。しかも、なだらかな坂の上という立地、まわりは学生だらけということで、一般人を拒んでいるような雰囲気さえ醸し出している。その為、実際に部外者が利用する場面を見たことが無い。それを、いきなり来た三人組は入館を許可されただけではなく、奥の資料室をほぼ独占しているという。司書に訊いても、個人情報は出てこない。あっていたらうなずいて!と、学生の言葉に、コクリとうなずき、この噂だ。ほとんど籠りっきりで何を調べているか?という内容よりも、その三人組の誰かがたまに一般の学生が利用する書棚にも出没するという。その姿を見たくて張っているのだ。
 オレとダチ2人で今も図書館のロビ−に併設されている売店で軽食を摘まみながら話しているところだ。ここのコ−ヒ−は、安くて、めちゃめちゃ熱っいので有名だ。冷めるまで席を陣取れるからという理由で注文もダントツだ。
 女子学生の話しでは特に小さい金髪さんが綺麗だという。170ならば女もアリだ。と、いうのがこの辺の一般的な男の見解だ。まあ、どこにでも転がっている話・・すげぇ綺麗な男をオレはひとり知っているが、まさかな・・と気にも留めなかった。だが、ふいに後ろのテ−ブルから聞こえた声に驚いた。

「でねっ?その黒い髪の男が小さい金髪さんをこう、呼んだんだよ」
「「「何なにっ??」」」
「ピカって・・!」
「「「キャ−!」」」
「ニックネ−ムだろうけど、ピッタリなのっ!」
「「「キャ−!!!」」」

気が付けばテ−ブルに、ほぼ熱湯のコ−ヒ−をぶちまけていた。
(レオリオッ!?)
「手ぇ〜冷やせっ」
素早い処置で火傷のレベルも低かったが、表面のつっぱるような痛みは強かった。
「バイト、代わってやる。悪かった、じゃあな」
ひとりが去る。何度もあやまられ、いや、お前のせいじゃないと繰り返した。
「レオリオ、お前、明日、解剖実習だよな?延ばして貰えるように頼んでみる」
もうひとりも走っていった。おせっかいばかりだ。レオリオの頭の中は実習よりも170の金髪のピカでいっぱいだった。声が聞こえたのは、気のせいか?
 既に資料室の方に足が進んでいた。










(気配の消し方がなっていない。部屋の傍まで来ていきなり絶になってはかえって警戒されるぞ。こんな場合は一緒に居た友人と一旦、外へ出てあらためて絶の状態で入館するんだ。やり直せ)
何を苛立っている?オレの頭の中にクラピカの声がビンビン響く。資料室の中に居るのは間違いない。言われるままにやり直す。ところが、エレベ−タ−の中で携帯が鳴ってしまった。
(バイブが基本だ。やり直せ)
三度目だ。何なんだ?とにかく、クラピカは今、何らかの理由でエンペラ−化している。この状態を早く解かないと疲れてしまうだろう。その為にはオレが資料室まで絶で辿り着くことだ。集中してドアを開けた。半身になって滑り込む

ヒュッ!

いきなりダガ−が飛んできた!間一髪でかわすと壁に突き立った。
(危ねぇことしやがる!?)投げた本人を探し一歩前へ踏み出る。床が波打つ感覚に襲われた。思わずひざまずく。さらに頭と肩を押さえつけられる。すごい力だ。
(無駄だ。今のレオリオには私は見えない)
(なんだと?)
(見たいのか?)
(ったりめぇだっ!最後に見たのは吐きまくっていた姿だ。 何故?姿を見せない?  オレのクラピカ)

それに答えは返って来なかった。
(両手を広げ、力を抜いて前に出せ)
まるで土下座だ。屈辱的な体勢だが、ここは百歩譲って言われるままにする。エンペラ−化したクラピカに逆らっても何も良いことは無い。
(目を閉じて力を抜くんだ・・いいな?)
やや、声が柔らかくなった。
両手のピリピリした感覚が癒えていく。クラピカがホ−リ−を使っている。目を開け、立ち上がりその身体を抱きしめたい衝動が全身を襲う。
(力を抜け・・頼む・・)
あきらかに苦しそうな声に変わった。
(いいぞ。ダガ−を持って帰れ。それが今ここで本当にあったことの証明となる。元気そうで良かった。今の私に出来ることはこれぐらいだ。時差の分、少し早いが・・
Happy birthday Leorio )








レオリオが出て行くとピカはようやく姿現しをした。
その場に倒れこむのを保護した。
(あたりまえだ、紫も緋の目も使い放題の大サ−ビスだったのだから。噂が流れるように一般の書棚に何度も出て行った。レオリオが来ることを、ピカにしては最大の円を張ってひたすら待っていた。まるで蜘蛛のように。円の中にレオリオが入ってからは誘導するつもりだったのだが、アクシデントがあったらしい。まるで自分が怪我を負ったような慌てぶりだった。もしかしたら本当にピカも両手が痛んだのかも知れない。聞いても答えないだろうが・・。ホ−リ−は全くの予想外だったはずだ。レオリオのほうは、ピカがエンペラ−にならないと聴こえないという鈍感ぶり、時間もかかりすぎだ。まあ、それでも絶でここまで来たからギリギリ合格か?ピカの評価は辛いだろうが・・。これでは、本当にピカが危ない時には間に合わない。【誘導】最初の指導は赤点だ。残念だな。せっかく無言で頑張ったのにな)
「いいのか?」
もう、返事も出来ない。ただコクンとうなずいた。
胸が痛いはずだ。それなのに・・納得した、穏やかな表情だ。







シャルは驚いた。
「「面白いものが見られるぞ。但し完璧な絶のまま無言でいることが条件だ。守ると言うのなら見ても構わない」」親子が口を揃えて俺に言った。この時点で既に鳥肌だった。
完全にレオリオをコントロ−ルしていた。恐るべし緋の目。お互い一度も目を合わせることも無く、会話も無く終わったのだ。シンクロ率という言葉が有るならば、おそらく限りなく100%か?  凄い!  
他にあてはまる言葉が無かった。
 さらに、シャルはあることに気が付いた。これって、声と引き換えに団長から盗んだ念だ。シャドウは、つまり、特質寄りの操作?これぐらいは見せても平気ということか・・。やるねっ。













レオリオは、ダガ−ナイフの柄の不自然な凹みについて、あれこれ考えていた。こんな形にどう握ったら成るのか?いろいろと持ち替えてみる。

!!!

しっくりくる形に当たった。

そんな!!

自分に刃先を向けて力いっぱい握り締めている形だった。そうゆう使い方をしたのか?クラピカ?



見えないという口ぶり、本当にあったことの証明、実際、治っている火傷。
・・・いや。生きている。声も聞こえたんだ。









目撃情報は、それからパッタリ止んだ。





   

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