長編   隠者の書

□隠者の書「破」強行
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「どした?」
気が付けば、キリコの小屋だった。
私は、擬人化していた。この形は小さくて動きやすいが、碧い髪と竜のままの目が「人ではない」と、無言で主張し、人間にはウケが悪い。
 何から話していいかわからず、黙ってキリコの顔を見る。
お構い無しにひとりで話しが進んでいく。
「驚いたよ。前ぶれなく落雷だもの。見に行ったら小竜だ。二度ビックリ。ま、助かったんだから結果オ−ライだね」
釣り目が弓のようにしなる。
「何処かへ、お遣いの途中かい?」
いかにも、長龍の遣いっ走りという物言いにややムッとしたが、うまく説明する自信も、ワカ様の話をしても良いのかもわからず、曖昧にうなずいておいた。
「日中は外出禁止。飛ぶなら夜にして。闇夜は苦手かい?」
朔の月だ。
急がなければ・・!
「とりあえず、何か食べる?」
目の前の旨そうなキリコの念を食べたかったが、さすがにそれは悪いと思った。










「物音がした。何だ?」
バショウとノブナガがクラピカの部屋に入って来た。ベッドに沈んでいるクラピカを見、ここで何が行われたのか?二人の脳内は大変な騒ぎになっている。
「おいおいおいおい!」
鼻血を噴きそうな二人に、シャドウが、暗く低い声で
(ちがう!)
「ホ−ムコ−ドが、アラシにあっている。クラピカがそれを見てしまったのだ」
と、言い訳をした。
 服を脱がしたのだが、中途半端なことになり、面倒になってシャツまで剥ぎ取ってしまったことは省略した。
「神経、細いからな・・」
「作戦は続行か?」

「そのことなんだが・・」
ベッドに沈んでいる自分達の頭を眺めながら、3人はソファに座り話しを始めた。










「前から言おうと思ってたんだが、クラピカは何でも独りでしてしまうところが良くない」
「下調べは分担してやったぞ?」
「でもよ。最後は、てめぇ独りで走って行くだろうがっ?」
「特攻は強化系の専売特許、お頭は本陣で山のように静かに動かず、目を閉じているのが理想だ」
「俺ら、駒を信用してもらわねぇとなっ?」
「策士はシャドウが居る。最終決定を、リ−ダ−がすればいいだけの話だ」
「そうだな。確かに、クラピカが前線に出るのは得策ではない。今回のように相手の成り形、そして体力が不明の場合、特にな?」
「まぁ・・そういう意味じゃ、去年の春の戦いでは、クラピカはじっとしていたから正解だったんだな?」
「本当ならば、ノブナガやバショウ以外にも地味で忠実な「草※」が、もうひとり欲しかったんだ」
「草って、シャドウ、簡単に忍者の隠語を使うな」
「はあ?この三人で、それは無いだろう?火のバショウに風のノブナガだろ?ハザマも風タイプだったから息子もそのはずだ」
「なんだそれ?」

 シャドウの顔が翳った。低く硬い声になる。
「この際、言うが、ハザマと俺は兄弟弟子なんだ。ある事件の時に、二人とも捕まった。・・・どちらか一人しか助けられない状況だった。・・・兄弟子ハザマが見捨てられ、小さい俺が助かった。師匠は、ハザマならば隙を見つけて自力で脱出できると判断したんだろう。物凄い信頼関係だったからな。ハザマを見捨てた謝罪の言葉を血を吐きながらも唱え続けて師匠は死んだ。俺は、羨ましかった。だったら出来の悪い俺を見捨ててくれればよかったと、師匠を恨みもしたがな・・・」(それで、俺は弟子は一人と心に決めた)
「えらい短く語ってくれるよなっ?」
「ノブナガを探し伝えると約束していた。これをここまで短く言えるようになるまで・・時間がかかた。ノブナガ、すまないことをした・・伝言は以上だ」
 あまりの話しの内容に、バショウは固まった。ノブナガは意外にも、アッサリしていた。
「シャドウは水か?」
「そうだ」
「もうひとり、クラピカはなんと、雷様だ。これだけ揃うのも珍しい」
「センリツ・・欲しかったんだよな?作戦が限られ、クラピカは苦労しているぜ」
「先にクロロに使いたいと言われたからな。しかたがなかった」
「ゼノ・ゾルディックは、どう使うんだ?」
「扉を開ける為の頭数揃えだ。後は自分の身は自分でという話しだと思う。おそらく、報酬は、それなりだろうがな」
「へぇ・・。意外と顔が広いんだな。クラピカ」
「さて、寄せ集めの5人で、どこまでミッションをこなせるか?問題はココだなっ?」
「そういう点では、クロロを頂点とするあの組織は完璧だ」
「ああ。団員同士、一見バラバラだが、個々の得意とする分野に互いに一目おいている。力の順列も有るが、コル、シズク、センリツのレアを護りつつ、レア達も立場を弁えている。シャルの補佐が際立つ。特に、情報の伝達と処理能力」
「えらい誉められようだな」
「事実だ」
「へぇ・・」
「クロロも変わった。クラピカと上手く関わりたいと思う気持ちからか?聴くとかクラピカがどう思うか?とか、考えるようになっている。クラピカの顔色を伺うようなあの顔は、俺が見ても面白い」
「クラピカも、旅団の中に居る為に、狙われることが無くなった。皮肉な話だがな。よく眠る。緋の眼が揃うまでの条件付きだがな・・」
「作戦は?」
「中止と言わない限り、決行だ。おそらく、この話。クラピカは聴こえている」
「「ゲッ!?」」
バショウとノブナガは、固まった。






※「草」日頃は世間一般人として地味な暮らしを営みつつ、密通の伝達役や、隠密行動には協力する下級忍者のことです。







「もう行くの?」
キリコが何度も聞く。
どうしても私に喋らせたいらしい。
ワカ様が呼んでいる。急がなければ。
長龍の、お使いではない。私の主人がお呼びなのだ。
もう、道なんか迷わない!

「キリコ、世話になった・・」



黙っていても良かったが、二度と逢えないかも?と、思ったら、自然と口が動いていた。キリコの言語に合わせたが、うまく伝わっただろうか・・?



「また会おう!」

キリコが爽やかに応えた。

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