長編   隠者の書

□隠者の書「急」決心
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 私が碧眼のうちに小竜と打ち合わせが出来て良かった。緋の眼に成れば、小竜も本気を出すだろう・・。
The Hermit
タロットの大アルカナに属するカ−ドの一枚、カ−ド番号は9   Baithasar バルタザ−ルのスペルは9文字だ。偶然か?このミッションで、一番危ないのが、シャドウという図式になる・・。守らなければ・・。

私は・・シャドウが少しでも傷つき血が流れるようなことが有った場合、おそらく、正気ではいられまい。そうなった場合、ギリギリで駆けつける小竜に、的確な指示を出せる自信が無かった。





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「ひとつだけ、言っておく。ピカ、お前が碧眼のうちにな」
コクンとうなずく。
「進撃よりも百倍、難しい事は何か?」
ピカの眼を真っ直ぐに見据える。
「・・・撤退を決断し、行動に移すことだ」
「正解」
「I have absolute trust in Shadow.」
「I'll keep what you said in mind.」
「Wanna make a bet?」
「You're on!」



 ピカが両手で俺の耳を挟み下を向かせた。頬にピカの長い睫が触れる。顔の傍で瞬きをする、お得意のバタフライ・キッスだ。 ピカは、ほんの挨拶代わりだろうが、そんな事をされて平気でいられるはずもない。 俺は、折れるほど抱きしめた。
「お前はひとりじゃない、生きろ。いいな?」
コクンとうなずいた。俺の腕の中の華奢な弟子・・。
手を離しそのまま一歩下がる。 
さあ、儀式の始まりだ。






 ピカがゆっくりと瞬きをする。
     【Reverse】
射るような視線で正面から見据えられた。瞳は紺碧。深く深く吸い込まれる。 金縛りに成る。
 この華奢な身体が、白い肌が、金の髪が・・圧倒的、絶対の存在になる。
Be loyal to tour master.









「バショウ、お前・・シャドウに敵わねぇって、解ってるか?」
決戦を前に、バショウの部屋にノブナガが来ている。

 門番としての役割の確認もあったのだが、クラピカとシャドウの絆をまざまざと見せ付けられ、実際、バショウは凹んでいた。それが気になっての行動だった。
 聞こえないふりをしていたバショウだったが、流石にノブナガの気遣いに返事をしないわけにもいかなかった。それに・・ノブナガの知らないクラピカを話しておかなければならない。暫くの沈黙の時間、じっと待ってくれたことに感謝した。

「わかっている・・」
「でも、どうにもならねぇってか?」
「・・・そうだ」

苦しい告白だ。
 まずは師匠であるシャドウ、それに生きた緋の眼の所有にこだわっているクロロが居るのだ。クラピカ自身がシンクロしていると噂の学生、レオリオも居る。まず、バショウにクラピカが本気で振り向くことは無いだろう・・。しかも、正真正銘の男だ。宝くじが当たる確立で成就したとしても、子を成すことは出来ないんだぞ?まぁ・・見た目だけの魅力でないことは、解るがな・・。

「クロロが言っていた。センリツは欲しいが、バショウは捨て駒だとさ。だが、おれはそうは思わねぇ。お前、努力して来た。勝手の違う旅団の中で、もめごと一つ起こさなかったろ?まぁ、シャドウとは反りが合わねってのは、わかるがな?」
「ノブナガ・・」
「何だ?」
「その、リ−ダ−だが・・。緋の眼になったのをお前、見た事があるか?」
「無いな」
「いいか?リ−ダ−が緋の眼に成ったら、構わず、自分の身を守ることだけ考えろ!」
「なんだそりゃ?」
「暴走するんだ。何を言ってもこっちの声なんか拾いやしない」
「はっ?」
「すべての情報を、おそらく眼から拾うんだ」
「聞こえなくなるのかっ」
「まぁ、そんなところだ」
「アブネエ・・・」











 ゼノが合流した。

 談話室として使っている部屋で最終の打ち合わせ中だ。
それぞれが、一番動きやすい服を着用、独特の雰囲気を醸し出している。

「いろいろと調べた結果、相手の妖力が激減すると思われる朔を狙ったのだが、あいにく・・私の(シャドウだが・・)体調が不十分だった為、時を逃した。すまない。 そこで、B案の今夜に決行する。上弦の月、半月(右半分の半月)月齢7.3小潮だ。 月だけでなく、風も利用する。ノブナガ、説明を」

「今の時期は、冬から春への季節の変わり目とされる。『彼岸西風』ひがんにしかぜを利用する。涅槃会、陰暦2月15日前後に一週間ほど吹き続く西風のことだ。俗に西方浄土からの迎え風と言う。この風が吹く時、寒が戻る。つまり、強い西風、気温が下がるってことだ」

地形と西風の流れをあわせて考える。吹き溜まりに位置する。風と表現してはいるが、実は「磁場」の話しをしているのだ。確かにここの磁場は異常だと感じる。他に雨の可能性も示唆しているのだ。気温が下がるとはそうゆうことだ。

「なるほどな・・」
ゼノが相槌を打つ。おもむろに、クラピカの顔を見、口を開く。
「で、ワシはどこまで付き合えばいいのかな?」
「洞窟内部まで侵入し、扉を開けるところまで、お願いしたい」
「開けたら、とっとと退散していいのじゃな?」
クラピカが瞬きをして「そうだ」と返事をする。
ゼノの眼は、警告を示していた。クラピカもバショウ、シャドウ、ノブナガも、ゼノのこの態度によって、どれだけ危険な代物に自分達が挑むのかを思い知った。

「もしもの場合、私が撤退命令を出す。直ちに引いてくれ」
「バラけた後の集合場所は?」
ここでクラピカが、やや言葉に詰まった。

「4月4日・・流星街、本部アジトだ。時刻までは指定はしない。連絡は南のフランクに各自入れる事とする」
これでいいな?と、ノブナガを見る。納得、という顔でうなずく。

「何か質問は?」
シャドウが皆を見渡す。

「無ければ、これで解散とする。では、手筈どおりに!」
「ここは、ただちに引き払う。解散!」






それぞれが覚悟の顔になった。

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