短編  下弦の月

□下弦の月  Introduction
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声も無く、泣いているのだ。

「ピカ?」

小竜に預けていた感情が、
あふれてくるらしい・・
閉じれば零れてしまう、
だから瞬きをしないんだ。
泣いてない・・と。
強がりだ。ギリギリのくせに。


(黒の円を・・)
「・・ああ」









ピカが、俺の手の平に指で文字を書く。
細い人差し指が、滑らかに綴る。



   『 u kicw tiy 』



(シ−ザ−暗号!!しかも変形版で来た)
ばっかやろう・・・どこまで、素直じゃないんだっ!
///竜に解らないようにかっ。

 黙って 抱き寄せた。ピカの手の平に返事をする。
   『 u jbiq 』



ようやく、瞬く。  ガラスのような涙が零れ落ちた。




          

    


             
  











     下弦の月



  



失ったものは大きかった。全ての物事を外から客観視できたゼノから何度も警告されていたのだ。なのに、自分を見失っていた私の耳には届かなかった。メッセ−ジジュエリ−の意味を深く理解した瞬間、私は知りすぎてしまったのだ。・・恐ろしいのは、睡眠時の無意識の状態だ。この状態でもしも封印された呪文を口にしてしまえば、私のような鬼が増える。それは、私の傍に居る人間に憑依するだろう?そこで、私は撤退命令を最後に自らの声を封じた。

 もし、これから発語することがあったとしても、それは小竜で私ではない。(師匠の竜を取り込む時に誓約を交わしたという解釈は間違っている。小竜との融合に必要なクルタの言葉さえ忘れなければ、いつでも出来たことなのだから・・。保険として、禁じ手を使ったのは私だ。アレキサンドライト。私の光と小竜の光。融合してでも生きる道もある、との長龍からの伝言だったんだ。だが、正直・・・もう、戻れないと思った。まさか、小竜が私に雷を落とすとはな。師匠も、すごい裏技を思いついたものだ。これも言わない)
小竜がこの呪文を理解しては困る。そこで、私は過去軸で記憶を粉砕したのだ。例えば、他人との会話文の一部に隠れた形に。アナグラムにしておけば、素直な小竜は、ただ時間軸のコンマ何秒単位でそれらを拾うことに集中し、呪文を理解するには至らない。



Nobody understands my feelings!と、ずっと叫び続けていた私に、根気よく、生きろ、ひとりじゃない!と、暗示を掛け続けてくれた師匠に、感謝している。(言わないが)

          













   

             

 私は具現。
   
コルから、丁寧に教えてもらったのだが、私のダミ−は、2時間しかもたない・・。師匠が気付かないほど精巧に出来たと喜ぶべきか・・ダミ−の私に気が付かないほど色ボケしたのかと悲しむべきか。どちらにせよ既に、そこには居ない。
貴様を、流星街の本部に連れて行く訳にはいかない。参謀は常に中立で私よりも先読みが出来なければならない。今の貴様は、私側に寄りすぎ、私を疑うことを知らない。・・失格だ。

危険だ。このままでは共倒れだ。リバ−スを解除された時は衝撃だった。そしてこの時、決心がついた。
 今の貴様は、私の心を読めない。なぜ、今になってシ−ザ−暗号?そこを読めていないじゃ ないか!しかも、私がそんな言葉を言うと思うのか?おかしいとは考えないのか?小竜が順位に迷うのは、貴様のせいだ。あの眼は私だ。ナイフを構えるほどの叫びになぜ気付かない?完璧な上下関係、小竜も私も、それを望んでいる。それなのに・・貴様!私と対等でありたいと願っているのだろう?そうなれば、リバ−スそのものが発動しない。自分で設定した条件を自分で反古にする気か?
 

 

 つまり、これは ・・・・・    別れだ。

 



 -----空間移動----- このワ−ドはハッキリ示した。貴様、この複線はしっかりと拾ったな?頭の隅にでもこのワ−ドが記憶されているならば、打撃は少ないはずだ。
 限定の念を設定してしまった以上、避けられない状況、これも、おそらく想定内だろう?




 もう、時間だ。蒸発していく私を、ゆっくりと眺めるといい。ほとんど消えかかる頃、笑ったような顔になるんだ・・・。おもしろいぞ。    

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