短編  下弦の月

□下弦の月 Episode 2
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ビクッ!!

 小竜の奥で眠っていたクラピカの身体が反射した。(ダミ−が消えたのだ)そして、師匠はおそらく倒れている。わかる。例えるならば・・・奇襲の後、ひとりになった・・・あの気分だ。 私は・・・なんということを。

(いいので?)

 取って返し、抱き上げたい衝動に駆られる。しかし、瞼をギュッと閉じ、思いとどまる。ヤツはあれぐらいで死にはしない。前もって空間移動のワ−ドは刷り込んでおいた。ならば心は壊れないはずだ。あとは時間がクスリだ。

(・・ああ)

(ワカ様っ)

(・・どうした?)コイツおお泣きしている

(小竜は、心分身です。ワカ様の心が死ねば、共に無くなるって事、忘れないで・・)

(・・承知した)泣きながら言うなっ

(流星街、上空です。しばらく私が奥へ行き眠ります)

(ああ。ご苦労だったな、小竜)

 身体を堅で覆い、そのまま墜ちるにまかせた。
 どうでもいい気分だった。










!!!

何か 来るっ!!!

張っている円を何かが突き破る。




バサッ




いきなり、空に白鳥が出現した。



それが、あろうことか、高速で落下して来るのだ。


(今度こそ、受け止める!)





フランクは、気合で落下地点に先回りし、

みごとに やってのけた。












 約束の日は、とうに過ぎていた。

 何の連絡も寄越さない。

 足跡を残さない、雨の中での移動は忍者の基本。手分けして下流まで探したが、何の手がかりも見つからなかった。ただし、シャドウが共に居る。あいつは水使いだ。ノブナガとバショウの言葉を信じるしかなかった。

 ただ、じっと待っていた。

 目的を果たすまで、

 クラピカが死ぬ筈が無いと。







「空からクラピカが降ってきた!?」

 にわかには信じがたい伝令が走る。

 団員が集結する。



 









 


 ほとんど死体の私を、誰かが運んでいく。

 知っている感覚の・・だが、質の違う 黒の円の中。
小竜が繭を張り巣を作る。ひたすらに私を護る。
 

 不思議な感覚だ。遠い昔。剣の稽古で家臣に怪我を負わせた時の、あの感じだ。相手は大人だったし、本気で来いと言われ、その通りにしただけだが・・怪我を負った本人よりも、私の方が参ってしまったのだ。心が痛い!おそらく、小竜は、山の中で、のた打ち回って鳴いていただろう? だが、小竜が代わりに泣いてくれているので、それ以上、何のリアクションもする必要の無い私は『冷淡』というレッテルを貼られてしまったのだった。
 大人たちの態度も変わった。私は、常に声かけはしていたし、向こうが発言できるチャンスを与えたのだが、何らかの線引きをされた様子だった。『危険』だったのだろう?本気を出せば、殺しかねない・・・そんな子ども。ひたすらに信頼を回復出来るよう、静かに、努力するほかは無かった。
 ことわり無く山に入り、小竜に逢いに行った。私を見て、驚いたが、小竜は黙って繭の中に休ませてくれたのだった。
 今、同じ事をしている。私にモノを教えてくれた大事な人を、置き去りにしたのだ。おそらく、私からは離れられないほどに愛してくれているのだ。でなければ、限定の念など・・・・。
きちんと説明もせず、わかるだろう・・・などと、どこまでも甘えている。

 すまない。説明する声を捨ててしまった。こんな形でしか、貴様を護ることを思いつかない・・。

 


 笑え。  愚かだと。

 


     


       静かだ・・・

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