短編 Feint
□Feint 潜伏
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「持ち物は?」
「・・・携帯はあるけど、水没。使えないねっ。ライセンスカ−ドはメモ帳の後ろに挟まっていた為、どうにか無事みたいだよ。伊達に防水加工されている訳じゃないって、証明されたねっ?」
(防水加工?)
「あ〜待って、携帯、バラして組みなおすから、もしかして、クレジット機能だけでも生かせれば儲けもんだから」
「セコッ!」
「っ言うなって。多分、それほど使っていないよ。結構、残っていると思うし・・」
最初は、クラピカが戻ってきたことに驚いた。よりにもよって、空から降ってくるなんて!あいかわらず、予想外の動きをする。そして、また、双頭での活動が出来るとか、日々あの金髪と顔を合わせられるのか・・と、楽しい気分だった。
団長の円の中にどれぐらい居ただろう?
シャルが、何度、交代を申し出ても、団長の答えは同じだった。
「無理だ」 と。
まるで、シャドウだ。
それこそ、無理だ。ヤツはクラピカとペアの念を発動するほどの仲だ。それが、何があったか知らないが、クラピカひとりで戻ってきた・・・。それだけで、何があったかを大体、想像できるじゃないか。
おそらく、仲たがいしたか、大怪我で動かせないか、あるいはもう、死んでしまったか。3つのうちのどれかだよ。
何かのショック状態だ。最初は直接的に、落下による衝撃だと思われた。だが、団長の円から出てきたクラピカは、オレが知っている人物とは、ずいぶんと変わってしまった、それが正直な印象だった。
その後、シズクと同じ様に、うまく言葉が使えない状態だと判った。
これには、さすがに驚いた。団長は、すぐさま皆には知らせず、まず、どうすればクラピカとの意思の疎通をスム−ズに出来るか?考えた。そして、バラした携帯のメ−ル機能にさらなる工夫を凝らした。キ−ワ−ドを入れさえすれば、似た言葉がズラリ出るように数学的に言えば考えないシステムで。(例えばエンジンやグ−グルのように)それに、次に来る言葉を予想して自動検索する機能も付けた(こちらは、考えて出てくる方だ)何度もメ−ルのやりとりをし、指使いの癖も注意深く観察した。時折、考えては止まる。それはまるで、クラピカの頭の中で一度ちがう言語で文章を組み立ててから、こちらの言葉に訳している作業に見えた。これは、シャドウとのやりとりで、ほとんど旧ロ−マ字のスペリングだったことを思い出させた。この後、電子辞書と自動翻訳の機能を追加しようとした。「必要ない」と、拒否られた。「これ以上、重くしたくない。そちらが普通の通話で喋り、私がイエスならば1回、ノ−ならば2回、まだ決められないならば3回、爪で弾く。これで十分だ」と。そして、このメ−ルの後、いきなり倒れた。何かを思い出しかけた・・そんな風に見えた。 地雷を踏んだのか!?
クラピカが壊れていく・・。
団長との約束で、シャドウの話しはクラピカに一切、聞かないと決めた。もしも、クラピカが念を掛けられていた場合、それがスイッチに成る確立は、かなり高いと思えたからだ。念では無いとしても、ペアの念を考えるほどの師弟がバラけたということは、それ相応の深い訳が有るだろうし・・。単純に、水没した石室からクラピカだけを助ける為に、シャドウは犠牲になったと考えたら、すべてがスッキリ収まるのだった。
クラピカは、まるで師匠など知らないとでも言うように、淡々としている。そのくせ、まるで、走るのを止めたら、死んでしまうような、誰かにいつも追われているような、何かをしていないとクラピカ自体が壊れてしまいそうな危ない気を纏っているのだった。
短縮ダイヤルの機能を利用して、あらかじめ決まり言葉は入れておき、ボタンひとつで簡単な会話?は成立する。ほんの隣に座っているのに、お互いに携帯の画面を食い入るように見つめている。傍から見れば奇妙な光景だっただろう・・・。でも、真剣だった。
ネットにデマを流すことで、話題を提供した。それまで、平凡だったチャンネルは、この、名も無い小さなカキコミに素早く反応してくれた。ひとつ、またひとつ。事実を重ねることで、噂には信憑性が生まれた。又聞きというスタイルで、さらにカキコミが追加されていく。こうなれば、もう、最初の小さな叫びは、おおきな力を持つ怪物となった。
「あまりにも、強引だ」 そう、進言した。
それに対してのクラピカの返事はこうだった。
「いいんだ。人がこれに飽きてしまわぬうちに・・。早く、速く、済ませたいんだ」
何度、連絡を欲しいと入れても、返事は無かった。もう、逢えないのかしら?そう、あきらめかけた時、クラピカが空から降ってきた。
クロロの円の中に眠る貴方、不思議な心音だわ。夢を見ているの?今まで聴いたことがないリズム。緋の眼の時の激しいallegroや、規則正しいmarch、そして今にも止まりそうで怖くなるほどのlargo・・・いろんなリズムで脈打つ心臓は、意外と、お喋り。貴方は知らないでしょうけど。
ゆっくりとしたリズムに複雑に絡み合う音色、とても悲しい音だわ。
レオリオ君の時よりも、強く、貴方の心を切り裂いた・・・どうしても、一緒には居られなかったの?何がそうさせているの?
そして、ほら、また、もう少しのところで、思考を遮断してしまう!どうして?私にも心を開いてはくれないの?
また、ちがうリズムが始まった。
貴方は誰?クラピカの中に居るの?それとも、クラピカが二人に分かれたの?
聞いたことがある・・・あまりにも衝撃的なことに直面した時、ヒトは意外な行動を取るのだと。
・そのこと自体を、忘れてしまうこと
・そのことだけを、ちがう次元に置いてくること
・そのことを知っている自分と、何も知らないじぶんとに、分けてしまうこと
周りには、不可解な行動も、全部、本人を護る防衛行動なのだと。
悪意は無い。むしろ優しい子。必死でクラピカを護ろうと努力している。健気な姿だ。
出来れば、この心音の持ち主と、ゆっくりと話が出来るといい・・・・そう思う。
どうやら、クラピカが眠っている間は、この子の担当らしい。なるほど。護衛の人数を減らしても構わない・・それは、この子が居るからだわ。そうよねっ?クラピカ?