短編   Feint

□Feint 心の闇
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 「そちらが普通の通話で喋り、私がイエスならば1回、ノ−ならば2回、まだ決められないならば3回、爪で弾く。これで十分だ」


 衝撃のメ−ルだった。


おそらく、シャドウとのやりとりで、頻繁に使われていたにちがいない。滅多に手の内を明かさないクラピカから、ポロリと零れた言葉だった。
 何を面倒な事を言っている、いつもと同じでいいのだ。コレを見た瞬間、そう聴こえた。もしかして、クラピカにはオレがクロロではなく、シャドウに見えているのかも知れない。 何とも表現しがたい、不思議な気分だ。違う!俺はクロロだ。そう、言えば、たちまちクラピカが壊れてしまう・・・そんな気がした。だからといって、このまま、シャドウを演じる自信も持てない。第一、ヤツの癖や喋りなど、コピ−する気にもなれないから、ろくに見てもいないのだ。これから先、どれだけの二人だけの秘密を、ポツリポツリ聞かされるかと思っただけで、ゾッとした。





 シャルと、付き添っていたセンリツを下げさせた。

 センリツに訊きたいことも山ほどあったが、今はオレ自身がどのスタンスでコイツと向き合っていくか?決めてしまうことが先と判断した。クラピカ自身も、つい、メ−ルで打った言葉に自分で驚いたのかも知れない。そして、おそらく、心に深く仕舞っておいた筈のシャドウが、目の前にガッと出てきたのだ。直接、見たことは無いが・・・具現のスタイルとは、そうゆう映像的なものだとコルからも聞いたことがある。コルとシズクではその絵の見え方も違うのだと・・・。キットそれは、個々の過去の生い立ちや性格、それに付随する感受性や思い入れといったようなものにモロに影響されるのだろう・・・。それにプラス、時間と言う軸の使い方も関連してくるのだ。過去にこだわらないシズクは、過去軸であった出来事を今に置き換えて記憶を消していく。・・・過去を消さない道を選んだクラピカは、どれだけクルタに執着、愛着があったか・・容易に想像できる。

 つくづく気の毒に思う。クラピカが具現以外だったなら、クルタの襲撃の後も、ここまで繰り返し繰り返し・・・同じ映像を見ることも無かったのではないか?
 ふと、そんな事を思った。







 俺は、この壊れかけのクラピカをどう受け入れ、付き合うべきだろうか?可笑しな事だ。俺が。他人との付き合いに気をもむなどと・・・こんなことは、初めてだ。

 護りたい・・・。そうなのか?どんな感情だ? まぁ・・出来れば、声を・・聞きたいとか、俺に向かってでなくとも良いから、誰かと落ち着いて、心を許し、笑って欲しいとか・・。そんなようなことを、漠然と考えた。

 最初は、生きている緋の眼が欲しかった。そして、クラピカとのペアの念が欲しかった。あれほどまでに心が通い合い、阿吽の呼吸で、ひとつの念が共有できるものならば、自分と。そう、思った。
 見た目、これも大事な要素だ。俺の隣に据えて、これほど見栄えのするヤツも他には居ないだろう?だが、黒の円を欲しがる意外で、クラピカには、俺に用事は無いらしかった。もっと、ちがう要求は無いのか?
「服でも宝石でもカネでも、食べ物でも、何か欲しいものは?」 こう、訊いてみた。
 しばらく経ってから、ようやく、携帯にメ−ルでの返事が届く。









  「安全に寝られれば、それでいい・・」

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