短編   Feint

□Feint 傷入りの眼
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「こ、こんな傷もんの眼ん玉でよけりゃぁ〜とっとと持って行ってくだされっ!」



これ以上、床と一体化できないだろう・・それぐらい、男はひれ伏していた。
 年はとっくに還暦を過ぎ、孫が学校へ上がる為、古い館を整理していて、それは見つかったのだという。どういう経緯かはハッキリしないが、酒場でカネを貸した礼にと、掴ませられたものだ・・と。4年ほど前のことだと言う。妻にも家族にも内緒で、開かずの間に奥深く隠すようにそれは在った。

 最近、老後のたしなみとして、パソコンやらネットサ−ビスをどうにか楽しめるように成って来た。ふと見たカキコミに、忘れていた記憶が昨日の様に蘇えったのだという。自ら、シャルの出した広告にカラメ−ルを返信したのだ。シャルの対応は、素早いものだった。

 最寄の中規模都市へ呼び出し、3回ほど携帯や、ヒトを使ってシティホテルに誘導した。偽名でチェックインしているこの部屋まで、言われるままに緋の眼を抱えてやってきたのだ。



フェイ、フィン、それにクロロが居た。(もちろん、奥にはクラピカが待ち構えている)シャルとマチは1ブロックほど離れて外を固めている。


 身体の大きなフィンの姿を見るなり、男はひれ伏したのだった。



 「とにかく、品物を見せてもらおうか?」

 










 男がバッグを机に置く音。ファスナ−を慎重に引く音。カサカサと布の摺れる音。おそらく、緋の眼の入っている容器の水音。

 クラピカは、それらを、既に研ぎ澄まされた聴覚で確認しながら・・だが、まだこの男とは対面しない。
(傷ものの眼と言った・・まさかな?)






 「確かめたゼ、リ−ダ−」



フィンが呼んでいる。了解、の合図、コトンとひとつ音を立てる。

ゆらり、立ち上がる。


 さらに、大物が奥の部屋に待機しているのだと悟った男は、縮みあがった。



 クロロが奥の部屋にクラピカを出迎えに行く。差し出された手に躊躇なく手を載せ、クロロのエスコ−トに従う。


 従順で大人しい、痩せの色白の・・(男が一瞬、ホッとした瞬間を見逃さなかった)
だが、その眼は・・・目の前の保存液に浮き沈みしているそれと、おそろい・・いや、生きている緋の眼なのだ!!


 「誰が、見ていいと言ったか?」

クロロが静かに低い声でゆっくりと、男に語りかける。

 「も、申し訳ございません・・」

 「何も、見なかった。・・・いいなっ!?」

 「はい!誓って・・!」

男は、それなのに、ナゼかもう一度だけ、もう一度だけ、クラピカの顔を拝みたかった。そして、あろうことか、クラピカに近寄り、間近で見てしまったのだった。

 バシッ!

クラピカに触れる手前でフィンが手を出し、制した。男はショックで床に転がった。
クロロがクラピカをガ−ドし、(どちらかといえば、男の安全を)護った。


 クラピカは、まるで何も無かったというように、既に興味は机に置かれた緋の眼に移っている。いや、最初っからクラピカの視野に男など入っていなかった。欲しいものはこれだけなのだから。


 ソファの前まで来て、スッと右手を出した。ダウジングチェ−ンが具現化され、一度ふわりと弧を描き、引力の法則に従った。やや間があって次に左右にゆらり、揺れ始める。そして、次第に縦の揺れに変化した。クラピカは、緋の眼でも鎖でもなく鎖の影が描く文字を読んでいるのだった。

「持ち主の名前、解ったの?」

 クロロが、優しい声で聞いた。



 黙って、うなずいた。












 幼い日。
 「本気でどうぞ!」 そう、言われ、傷つけてしまった。  あの家臣だ。

 わざわざダウジングチェ−ンを出したのは、どうしても思い出せない名前を知りたかったから。・・・・それだけだ。

 本当は、お前、こんな名前だったのだな?
一度も、ちゃんと呼んでやったことが無かった。「おひとりでも、しっかりとご自分の身を護れますように。その為の剣です。決して相手を殺意をもって攻撃する為の道具ではございません!」子どもの私に、その意味はわからなかった。今ならば、少しはわかる。 心の中で、ゆっくりと噛み締めるように、その名を、一度だけ呼んだ。





 クラピカの目の前が、暗転した。























 男が気が付くと、既にそこには誰も居なかった。男は帰宅するとすぐにカキコミをした。


 「アカメノ・ノロイ・ホント!」








 緋の眼   あと4対。

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