短編   Feint

□Feint 探せ!
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「ビスケ・・、ひとつ訊く。お前が、俺を売ったのか?」


 パッと見、目の前に居る人物が、誰なのか?解らなかった・・。なんという事だろう?・・・浮浪者だ。ボロボロの服、これ以上ないほど、研ぎ澄まされた眼だけがまるで
野生のオオカミのようにこちらを睨んでいるのだ。
 答えに詰まった。まず、質問の意味が解らない。ここは、はぐらかさず、言葉の通りの受け答えをしてみる。


「何の事?あんた、どうして、ひとりなのサ?大事なピカちゃんはどうしたのサ?」


 野生のオオカミが、いきなり捨て犬に姿を変えた。最初からこれぐらい、低姿勢で訊いてくれれば、こちらもここまで警戒しないものを。

「信じていいんだな?」

この言葉に、どれほどの意味を込めているのだろう?だいたい、お喋りは苦手な筈だ。人と関わるのも。 ピカちゃんならば、その意味も100%解るのだろう・・これにはわざわざ答える必要は無いと判断した。沈黙・・これで答えに代える。ピカちゃんもよく、こうしていたはずだ。投げかけた言葉をどれほどの割合で投げ返すか、言葉の掛け方ひとつで、人だって殺せるのだから・・。


「あんた、臭いんだけど?そんなんじゃ、誰も相手にしないわよ?今どき、宛ても無く彷徨って足で探すなんて、あんたの頭ん中、化石化してんの?!」

 かろうじて・・ホ−ムコ−ドを頼りに私を呼び出したらしい。まぁまぁの規模の都市。オフィスビルが建ち並ぶ一角の、やや大きめの公園の駐車場だ。植えられてからかなりの月日が流れているらしい木の幹に、もたれかかる様にコイツは居たのだ。幹の陰影にしか見えない。おそらく、10人が10人とも素通りしただろう・・うまくカモフラ−ジュしたもんだ。ポツリポツリ喋りだす言葉は、具現のそれほどではないが、かなり断片的だ。操作だが、ほとんど特質と言っていいかも知れない・・。もともと、大人しいタイプだった。だが、どこか飄々としていて憎めない、そんな弟分なのだ。煮詰まった時にしか呼ばれないが、それでもたまに頼られると、こちらもイヤとは言えない・・。それがどうだ?今回は、まだ、警戒を解いていないじゃないか?何があった?しかも、核心ギリギリに何度も辿り着きそうで、うまくはぐらかす。

 ピカちゃんの名前を出すと、青菜に塩のように成ってしまう。

 このなりじゃ、シテイホテルに、入れやしない。まず、ハンタ−証を出したところで、門前払いだ。裏通りの24時間営業のネットカフェにした。そこは狭いが、シャワ−ル−ムと仮眠室があり、別料金をはずめば、広めの個室があったはずだ。ようやくシャドウを押し込め、私は遅くまで開いている店で、適当に服を調達した。最初は紳士服と思ったが、隣にスポ−ツ用品店が閉まりかけていたところへ最後のお客として滑り込んだ。LサイズのTシャツとジャ−ジの上下を買う。色は無難に黒にしておく。目立つことを極端に嫌うシャドウだ。【影】ならば、黒でいいじゃないか。これならば、少々サイズが違っても、誰が着ても、似合う。シュ−ズは勿論、下着まで販売してあったので、大いに助かった。店内をざっと回るとゴルフウェアもあった。スラックスと襟つきのシャツ、それにあわせたジャケットも追加する。これで、ある程度のレベルのレストランやホテルまで入れるはずだ。レジ前にご丁寧に並べてあった整髪剤と、スプレ−タイプの消臭剤もついでに買った。何だか荷物になってしまった。



 シャワ−を済ませ、お仕着せの格好のシャドウは、どこかの私立高校に、明日から赴任する体育教師みたいで、笑えた。




「歩き回ったお陰で、おなかがすいたよ。まったく、つきあってもらうよ」

 おそらく、ろくなもん食べていないはずだ。シャドウの嗜好など無視で、自分が食べたいと思った店に入った。


「ステ−キ、レアで。私はパン、こちらにはライス大盛りで」

 注文を繰り返し、ウエイトレスが下がる。
すると、黙っていたシャドウがポツリと喋る。

「・・・ピカ・・食べているだろうか?」

ああ。そうだ。この二人は恐ろしいほどシンクロしているのだ。もしも今、ピカちゃんから呼ばれたら、どんな小さな声だろうが聞き逃しはしないだろう〜それほど、シャドウのアンテナは研ぎ澄まされている。込み入った話を始めるらしい。いきなり個室のような円を張った。そして、なんだか知らないが・・シャドウ自身が、この個室の円が発動したことに驚いているのだ。顔色が真っ青だ。

「!!!」

「どうしたのサ!?」

「ピカ?・・」

「ねえねえねえ、どうしたって言うのサ?説明してよ。訳わかんない」

「ビスケ・・。この円は特別なんだ。ピカが・・・・欲しがらなければ発動しない」

発動の条件はピカちゃん主導?なんという過保護な・・・。
「それが、今、いきなり発動したってことは?」

「案外、近くに居る・・しかも・・」

「しかも、何?」

「・・手負いの筈だ」

ギリギリ、助けてくれってこと?そうなのねっ?前にも聞いた。あれは、こうゆうことだったのだ。




 呑気に、お食事、と、いうわけにはいかなくなった。
 すぐさま店を飛び出した。












「Longing,
longing,
longing to see you,
My glow's message is
to
find me -

with all my body
and soul. 」


「あいたくて
 あいたくて
 あいたくて
 あいたくて
 わたしをみつけて!
 と
 ひかります-

 わたしの ぜんぶの
 からだと こころで」









 クラピカの眠りを妨げないように、言葉のレッスンは静かに行われた。誰にも内緒で。
・・・っと言いたいところだが、みんなにすぐにバレてしまった。ひとりひとりが、内緒だよ、と、伝言してしまったのだった。
 それは、まるで、共通の秘密を持った子どものように嬉々として、楽しい響きであったし、久しぶりの憩いの時間でもあった。ただし、カタコトながらもクラピカそのものの声が聞けるのだが、恐ろしく素直な詩に、いままでの悪行の数々が洗い流されていくようにも感じられた。一回のレッスンは決まって5分間という短いものだった。ところが、クラピカの本体に戻っても、何度も繰り返し心の中で言っているのだろう・・・思いのほか、スム−ズに進むのだった。

 




「Live
a strong and manly life!
That's what I have on my mind.


But from time to time something soft in my heart feels like crying.

-----

I dunno why. 」



「つよく
おおしく いきる!
それがわたしの けっしんです

でも ときどき
むねの やわらかいところが
なきたくなるよ
-----

なぜだろう」


















Look up
at the blinding
night-sky festival !


Oh,yeah !
Light
needs darkness.





  みあげれば
  よぞらの ほしが
  まつりのように まぶしい
  
  ああ
  ひかるためには
  くらやみも ひつようだ












 綺麗な心、そのままの散文詩に、センリツが泣いた。





青い髪の竜が、クラピカ本体に消える間際、振り向いて、一言。

「くろのえんがほしい・・」













 クロロがハッとした。

黒の円。教えていない・・・でも確かに言った。今のはクラピカだ! そう、感じた。

 











「近いんなら、普通の円を張りなさいよっ。そうすりゃぁ〜一発で見つけられるでしょうがっ?」
 走りながら、シャドウに問い詰める。意外な答えが返ってきた。
「出来ないんだ。こっちの個室の円が優先されるんだ。しかも・・」
「しかも何っ!」
「もう、いらないって言われない限り、延々とこの個室は存在するんだ・・」
なんという事だろう!そこまで・・・
「めんどくさいキマリ事にしたもんだわサ!」
「わるかったなっ!」
おおっ?だいぶ調子が出てきたわ。もうすぐ、ピカちゃんに会えるのだ。それが、どんなに弱っていようが、今のシャドウならば治してみせるのだろう・・。
 不思議な探し方だ。風と水を使うのだ。どんなビルにも、シャドウの言うところの水脈が流れている。確かに。そして、龍の道と呼ばれる気の流れを追うのだ。人々が出入りする表玄関と窓や階段やエレベ−タ−などの空気層の流れで探す。ビルでも民家でも必ず裏口が存在する。それを結んだ流れが龍の道なのだ。鬼門から裏鬼門へと斜めに走るのが理想だが、なかなか皆が皆、理想の間取りとはいかない。たくさんの人々、個々の持っているオ−ラの色が映し出される。その中でたったひとりのピカちゃんを見つけるのだ。見間違えるはずがない!あの緋色のオ−ラを。胸を張り眼を閉じる。心で感じるというのか?まるで、神聖な儀式のようだ。ここはビル街なのに、森の中に居ると錯覚する。



 わかる。今、光と影はお互いを近くに感じている。そして、呼び合っているのだ。空気が震える。
 光が呼んでいる。みつけた!ふたりの波長がピタリと重なった。











  




  Light  needs   darkness.

  「・・・かげ・・・こい!」




 



  ついに呼ばれた!
  【影】発動!!!


  バシュッ! ギュイ−ン!!

  





    

      --  了  --

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