長編   Mask

□Mask prologue
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はじめのことば



あ  あい
り  りかい
が  がんばって
と  ともだち
う  うれしい


Merci beaucoup
Gracias
Grazie
謝謝

T touch  
H hug
A amuse
N natural
K kindness

Y yes !
O open
U unconditional love



いきをするのもやっとなのに、
はじめのことばは
かんしゃでいっぱい

おまえがいてくれて ありがとう


きえそうなこえで
そう いって 

むこうをむいた

うれしいけど
なんだか
おわかれみたいで

こわくなった








「 Mask 」










(小竜、ゆっくりでいい。言ってごらん・・かげ、こい)

毎日、ひとことだけ、ワカ様が言葉をおしえてくださる。
今日のは、簡単だった。だが、言葉が篤い。何かを伝えたい・・そういう想いがビンビン伝わった。

習ったばかりの詩と連動しているのかな?

Light needs darkness.

「・・・かげ・・・こい!」












「!!!」


ドクン!鼓動が大きく鳴った。身体に一瞬、硬く力が入りピンクのオ−ラが発光した。探し物が見つかったときの様な平和な顔で、そのまま寝入る。静かに、何かを待っている。そんな風にも見える。

ワカ様。これって・・・シャドウを呼んだの?
そんなことが、出来るの?




 クラピカの横たわるベッドの脇の床に、にわかに水溜りが出来る。水の輪が揺れ、ややあって、シャドウの黒い髪が現れた。まるで舞台のせり上がりみたいだ。無数の微粒子がびっしり集合し、肩、腕、胸、胴、腰、尻、足・・・滑らかに全身が形作られる。これも影分身か?いや、質量のハッキリある、実体だ。最後に、閉じていた瞼がゆっくりと開き、漆黒の瞳に光が宿った。足元の水溜りは消え、何も無かったように床があった。居なかった筈の人がひとり、出現したのだ。

これって、空間移動と同じだ。ただ唖然と見惚れた。

 Mask one's true character.

ここで、小竜は気付いた。
知っているシャドウとは少し違う。
何が?
大急ぎで、シャドウの眼を見る。何か探れないかと。
いけない!
このまま、直接、ワカ様と二人にしては。
見張りは誰?
どう、知らせればいい?
いや、間に合わない!

クラピカの身体から小竜が抜け出した。
(離れていられるのは、わずか5分間 その間に、話しをつける)

「シャドウ」
「お前か?」
「どうやって?」
「・・呼ばれた」

どうしよう?言葉が途切れる。
そうそう、会話が弾む訳も無い。

もしも、このまま、ワカ様を連れ去られたら大変だ。
小竜は、小さな声で「ピイッ」と鳴いた。
ヒナが親から逸れた時、居場所を知らせるのに使う、短い鳴き声だ。
 ほぼ、同時にシャドウが【黒の円】を張った。鳴き声が遮断されたか?スッポリと円の中に二人と一匹が納まっている。

(お願い!誰か来てっ!)









「ピイッ」
その鳴き声は主人であるクラピカを目覚めさせるには充分だった。
(小竜、奥へ)
身体へ戻り、ワカ様の奥へ行き、眠れとの命令だ。これには従わなければならない。
「ピカと代われ」
こちらも、シャドウからの命令だ。今は師弟関係そのままなので、シャドウがワカ様よりも上位、まぁ、逆転したところで、小竜はいつも第三位なのだから、従うだけだ。今は二人の意見が一致しているが、シャドウとワカ様の意見が違った場合、自分がどちらに従うかで、分が良くなったり悪くなったりする・・それなりに重要なポジションだと自負している。二人から言われ、静かに下がった。ここから先はふたりの世界だ。ただ静かに耳を塞ぐ。心分身としてのマナ−だと思っている。ワカ様が、タイムリミットの5分間だけ、自由に分離することを許してくれているのは、こうゆう事の積み重ねの信頼に対するご褒美だと思う。ただし、分離する時と戻る時、ワカ様は少し痛いみたい。小竜には内緒にしているけれど・・。

・・・・静かになった・・・・


 クラピカが目を開けた。
ゆっくりと上体を起こす。
触れようとすると、(これぐらい平気だ)手で制す。
長く伸びた髪が、離れていた時間を物語っていた。
「ピカ・・お前、痩せたな・・」
返事は無かった。

さあ、儀式の始まりだ。
   Their eyes met.
クラピカがゆっくりと瞬きをする。
   【Reverse】
射るような視線で真正面から見据えられる。金縛りになる。
この、華奢な身体が、白い肌が、金の髪が・・圧倒的、絶対の存在に成る。
   Be loyal to your master.
   Observe proper etiquette.
   Do what's right without besitation.
   Show compassion for the weak.

   主君に忠義を尽くす
   人としての礼節を重んじる
   正しいことを敢然と実行する
   弱い者には慈悲をもって接する

金の睫に縁取られた紺碧の瞳が俺を真っ直ぐに見つめる。この眼に逢いたくて逢いたくて、どれぐらい探し回っただろう?俺は深い海の底に静かに沈んでいく様な錯覚を覚えた。鈴を転がすような静かな声が直接、頭に響く。これを聴けただけでも、流浪の日々は報われた・・そう思う。生きている。ピカは生きているのだ。










さあ繋げ!そう思った。
ところが、ピカが目を逸らしたのだ。そして、代わりに薬指からナノクリスタルの鎖がキラリと光って伸び、ヒュッと鎌首を持ち上げる。まるでコブラだ。が、たちまちその鎖は結晶化し氷となった。初めて見る鎖の二段階の変化だ。刹那、結晶は鎖の形を保てず粉々に砕け散った。細かい氷の粒子は液化し、ミストとなりピカと俺の身体に降りかかった。見る間に蒸散し、空気と同化する。
 ピカ?何を言いたい?

「無理をするな」

(緋くならない)
(鎖が結べない)

「心の安定が条件だ。俺が癒す」
(貴様、心の中に、抱えている秘密[それ]は何だ?)

鎖を結べない理由が、ピカ本人ではなく[それ]を抱えている俺に有ると言っている。 ! 今の鎖は脅しのつもりか?
 気にするな。本部で、ちょっとな・・。社交辞令だ。俺が旅団と接触するのを見ているヤツが居るってだけの話だ。

(ほお?)あきらかに、口調が変わった。

Feint を掛けられた。今、思ったことはピカに聴こえた筈だ。この至近距離、しかもリバ−スしたばかりだ。怒っているのか?
「ピカ?」

物凄い勢いで『ジャッジメントチェ−ン』が現れた。思わず息を飲む。小さく弧を描き、次の瞬間、迷わず一直線に俺に突き刺さる。

(鎖は私の意志で自由に出し入れ出来る。そちらの都合は関係ない。貴様が誰だか知らないが、とりあえず、繋いでおいてやる。そうすれば、貴様に私は殺せない!間違っても、寝首をかこうなどと思わないことだ!私が眠る間、小竜が見張っている。もしも触れれば、スタンガン並みに感電するぞ)

!!なんという言い草だ。ピカは俺を貴様呼ばわりするが、ここまでスレてはいなかった。俺に対して「誰だか知らないが、とりあえず」だと?

「よそ見しながら、ペロッと軽く言ってくれるじゃねえか」

肩を掴みアゴに指をあてがい、こちらを向かせた。

・・・・なっ!・・・・


氷らせた鎖は涙で出来ているのか?心分身が感情を担当しているせいで、そうゆう表現になるのか?








ピカの眼に、涙が・・今にも零れ落ちそうだ。
瞳は薄い薄いレイクブル−。



「ばっかやろう!」





「ダミ−じゃないよな?」



返事は、得意のバタフライキッスで返された。細い両腕が俺の首にしなやかに巻きつく。

        

       その返事は、唇に返した。








「ピイッ」
その声はセンリツが聴いた。同時に心音が二つに増えていることも。そして、すぐにすべての音が遮断された。

 すぐさまバショウに知らせた。
「黒の円を張っているのならば、クロロだ。心音が遮断されたのは、クロロ自身も円の中に入ったから、そう考えると自然だろう?でなければ、シャルとクロロが交代したとか、その辺じゃねえか?」

「小竜ちゃんの鳴き声がしたのよっ」

「どんな?」

「ヒナが親を呼ぶような・・」

「!?それを早く言えっ」

「何?」

「リ−ダ−に何かあったんだ」

「クロロには?」

「まず、俺が確かめる。連絡はそれからだ」






(もう、黒の円はいらない)
クラピカがシャドウに指示したと同時に、バショウが部屋に入ってきた。

バショウは、我が目を疑った。

今の今まで、ここでいったい・・・
何が行われていたんだ?
コイツは誰だ?

死んだものとされていた、シャドウが、目の前に居るのだ。
しかも、オレの、オレのリ−ダ−と、何してた?

クラピカは、頭の中が一瞬、真っ白になった。

何から説明しよう?ああ。説明する声を捨ててしまったのだ。ここは、バショウの想像力に任せる他は無い。

シャドウも、突然の訪問者・・しかもバショウごときが此処へ近づいて来ることを察知出来なかった自分を恥じた。

「ピカッ!」

グラサンでバショウの視線が読めなかった。初動が遅れた。
当然、自分に来ると思った。違う。ピカだ!卑怯なっ!

バショウは、今、シャドウと正面からやり合うには自分が力不足だと理解していた。そこで、クラピカにタ−ゲットを絞った。そして、真後ろから羽交い絞めにしシャドウから引き剥がしたのだ。




一瞬、クラピカは凍りついた。
バシッ!っと胸の鎖が反応する。
ガッ!!シャドウの錬が最大に燃える。
異変を感じ、小竜が目覚める。
(小竜!たす・・)
二度も後ろを捕られたのだ。初めは眼を今は発語を禁じた状態で・・。それでも、今はシャドウを案じる。(自分はおそらくこの後、クロロに引き渡される。クロロは私に手荒なことは出来ない。だが、シャドウは侵入者だ。たとえ、私が呼んだのだとしても。それを証明できるものは何も無い)
 案の定、クラピカは軽々と持ち上げられた。今のバショウは手加減を知らない。抵抗すれば肩や首が痛むだけだ。(動くなっピカッ!)



「------------------!!!!」



グギッ! いやな音を立てて肩が外された。
一気に血の気が失せ、体温が下がる。クラピカは意識を手放した。



「ピカッ!!」(ワカ様っ!!)






 センリツの連絡を受け、クロロとシャルが、クラピカの部屋に向かった。

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