長編   Mask

□Mask episode1
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(ワカ様っ!)
バリバリッ! 小竜が放電した。驚いたバショウが腕を放す。シャドウが崩れ落ちるクラピカを受け止め奪い返した。ただちに【盾】を発動しピカを守りつつ同時に【触手】も発動させた。こちらはバショウに向かって念の手がビュンビュン威嚇している。



(緋くならない)(鎖が結べない)ピカから、念に関する告白を聴いたばかりだった。つまり、ホ−リ−が使えないってことだ。ピカの周りにこれだけの使い手が取り巻いているのだ。怪我が出来ない、それをひとりで隠し通す。打ち明けようにも声が無い。どんな気持ちで過ごしていた?

 左肩がゆらゆらしている。関節を外されたのだ。何ってことを!ほとんど無抵抗だったじゃないか!ナゼ!?シャドウの怒りは頂点に達している。物凄い錬。

 激痛に小竜が本体から離脱する。緋の眼だ!青い髪がバリバリに逆立ち、既に腰から下は緑の竜の姿。変化すら忘れている。みる間に胸まで緑の鱗がヌメヌメと光る。本気だ。
       
         

 そこへ、クロロがシャルと駆けつけた。
部屋中に充満する、色とりどりの曲々しいオ−ラに、一瞬怯む。ナンダコレ?クラピカの前面にシャドウ、背後に竜がそれぞれバショウ、ただ一点を睨み一発触発のヤバイ空気だ。(このフォ−メ−ションはジャパンの戦いで見たことがある。あのときの自分はまさにバショウの位置だった)そこに居るメンバ−の配置を目で追い、ほぼ状況を把握した。一喝する。

 シャルが、バショウをその場から後ろに引きずる。団員同士のマジギレ禁止だってば・・えっと、竜は、どうなるんだろう?一応、クラピカとセットって考える?凄いや、竜も緋の眼だもん!どんな技があるんだろう?まさか鎖じゃないだろうけど。うわぁ・・シャドウもマジだし・・。バショウは既に眼力で負けてる。戦わずとも決まりだねっ?
「とにかく、クラピカの手当て。そして皆、念、禁止!!ここじゃマズイよっ。ねっ?」
 


 小竜には、その言葉は理解できなかった。
(ナゼ?ワカ様は最初から弱っていたのに。後ろを捕って肩をはずすなんて!)

 激痛に耐えかねたクラピカの唇が動いた。シャドウと小竜が動きを読む。Leave・・  (えっ?)
「小竜!落ち着け。戻ってピカを本体に留めろ。軸に飛ぶぞっ・・・長いかっ?・・・戻れ、Leave!」 (はい!)

 未来軸には、ワカ様しか行けない。小竜は過去見は出来るが、未来軸との誓約を交わしていないからだ。今、もしも未来軸に飛ばれたら、追いかけられない!そして、シャドウとワカ様は今、繋がっている。二人分の念。とても戻ってこられない。置いて逝かれたら、自分も消えるのだ!


「キュィ−−ン!  キュイ−−ン!」

高周波の竜の声で鳴く。激痛に、本体へ戻った小竜がクラピカの姿で、床にのた打ち回る。   凄惨な光景だ。
 物悲しい鳴き声にフィンとマチが駆けつけた。
「フィン、いいところに来た。バショウを拘束、連れて行け」
これ以上ない冷たい目でマチが一言、
「クラピカが、あんたに何をしたって言うのサ?」
バショウは、これを無視した。

マチは、すばやく頭を切り替えた。
「シャドウ!クラピカを抑えて、いい?シャツを脱がせたいけど、これ以上変な方向に関節を動かしたくないんだ。ハサミで切るよ、いいねっ?」


---------ここで問題が生じた。







小竜は、主人が眠る間に身体に触れる者を排除する命令をクラピカから受けている。つまり、触らせないのだ。気難しい主人のクラピカも身体に触れられるのを嫌う。クラピカが触らせるのは、シャドウだけだ。だが、それも怪我や過呼吸の手当てがほとんど。(だからこそ、極稀にクラピカから触れてくれば、どうしたってそれに応えてやりたい)しかし、ここまで興奮してしまった小竜の番のクラピカに、触ったことが無い。野生動物を目の前に、困惑した。

「肩の関節を入れなきゃ、神経に筋があたってて痛いのが続くんだ。ちょっとガマンしなっ!お前さんとクラピカの共有の大事な身体なんだろ?」

 マチの、早口言葉を小竜は半分も聞き取れなかった。それなのに、勝手にマチは了解したと勘違いし、いきなり左腕を掴んだのだ!

 バリバリッ! 放電。  

「あっぶないなぁ!コイツ、言葉が通じない!シャドウ、どうにかしてくれよ。指先がありえない方向を向いているだろ?もう、色が変わっているよ。早くしないと。こうしてる間にも、どんどん腫れあがってきて今度は、はめにくくなるんだ」

「わかった」

えっ?何がわかったんだろう?今度はシャドウと二人掛かりだ。ワカ様に何をするの?こんなに痛いのに。お願い。触らないで!イヤだ!腕が・・腕が・・自分のじゃないみたい。

シャドウがマチとアイコンタクトした。 
  いくぜ?   あいよっ。

何かされる!うわっ。 両耳を手の平でしっかり挟まれた。シャドウがキスしてる。頭の中が真っ白になった。何?えええっ?力が抜けたその時、マチが左腕をカクッと、何度もひねり上げてようやく肩をはめた。

全てを見ていたクロロが渋い顔をした。シャルがヒュッと息をのんだ。









「頭と首、肩から腕、指先まで、ガンガン冷やしてっ腰から足先は毛布で暖める。おそらく、熱が出るよっいいね」
 センリツが氷と毛布を用意した。

「まだ、痛むだろうが・・・さっきよりは・・マシになったはずだよ。 もう、これ以上、痛くなる事は無いから、安心しな」
今度は、マチにしてはかなりゆっくり喋った。
 小竜の目は半泣きだ。どっから見てもクラピカが泣いているようにしか見えないが。
「そばにいるわ。少し、おやすみなさい」
センリツが、ものすごくわかりやすい発音で言ってくれた。ほっとしてクラピカの身体の力が抜けた。

「しゃど、くろのえんがほい」

上目遣いで、一生懸命だ。クラピカの寝顔を皆に見せたくないのだ。これには俺も同感だ。静かに休ませたい。

「シャドウ、黒の円が欲しい・・」だろ?と、目を流す。

「ほしい」    そう、おねがい  真っ直ぐな目だ。

クラピカの姿で、声で、語尾だけリピ−トするなっ!?
その場に居た全員が、そう思った。

もう、誰も入り込めない二人の世界だ。クロロなど眼中に無いからか?シャドウに指定されたせいか?クロロの黒の円は発動しなかった。チクリ、胸が痛んだ。











 何度も着替えさせ、熱が下がった。
黒の円が解除された。



 気が付いたらしい・・。

「どっちだ?」

眼が怒っている。しかも無言だ。
こっちを見もしない。

ピカだ。


        

 シャドウを、バショウをどうこうと言うよりも、その前に、この王様の怒りが治まるまで、少し時間が必要だ。

 全員が、そう思った。

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