長編   Mask

□Mask episode 3
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(小竜、たのみがある)
(何?ワカ様)
(私の姿のままで緋の眼に成れるか?オ−ラは私のを食べていい)
(・・・できるとおもう)
(では、私が合図をしたら、そうしてくれないか?)
(・・・なんのために?)
(あと4対の情報が欲しいんだ。今からここで有る事は小竜、お前は見るな・・・いいな?)
(ちがっ・・)
(ああ。解っている。コイツはセンリツなんかじゃない!)
(シャドウを呼ばないの?)
(私に、これ以上、恥をかかせたいのか?)
(い、いいえ)
(黙っていろ。いいな?)

むずかしいことをおっしゃる。情報と引き換えにこんなことをするの?からだを触られるの・・だいきらい。しかも、見るなって言ったって、合図がいつあるか判らないから、神経は研いだままだ。目隠しをされて罰を受けているようないやな感じがする。

 合図だ。
ワカ様のオ−ラを食べる。だいすき。いちばんおいしい。調子に乗ってたくさん食べた。

 緋の眼になる。器はワカ様のまま・・制御がむずかしい。
ここからは、見るなって言ってもムリ。ビックリだ。
 目の前に、クロロの顔があった。

       
      
 
 緋の眼を誉めている。クロロの指が頬から眼に伝い上がる。ゾクッとした。(獲られる!!)

(しまった!!)

竜の姿で、ワカ様から離脱してしまった。もう一度引き返すことも出来ず、部屋を飛び出した。廊下の出会い頭でマチにぶつかった。

「あんた!?」

何も、何も言えなかった。おねがいマチ!わかって!

「・・・大変だ!」

シャドウはさっき外出した。そして、竜が飛び出して来る理由?
 団長だ!

「シャル!!」







「俺の円が欲しいと言えっ!」

声が出ない・・それを分かってわざと言っているのだ。
しかも、私の首を絞めながら・・・。ウサギではない私はオモチャだ。思い通りにならず、もはや、拷問。心の無い人形に成り、時をやり過ごせるか?どうやら、クロロの方が制御が利かないらしい。どうせ・・・私は・・・絶滅種だ。情報を・・。どうにでもしろ・・。

 気が遠くなってきた。一度ギュッと眼をつぶりゆっくりと開ける。瞳は紺碧からやや薄い青に変色しているはずだ。
 視界が、かすむ・・。何を言われているのかも、
耳よりも唇の動きでようやくわかる・・。クロロは、私の上に馬乗りにまたがり、完全に優位だ。私は、ここで終わるのだろうか?あと、4対・・ようやくここまで来れたのに・・。クロロの欲を煽ったのは、バショウだ。そして、話し合いの時間に、シャドウと手の平と眼で喋っていた自分も。 まぁ、しかたのないこと・・・。バショウもクロロも、自分勝手な力任せの愛を私に投げつける。ようやく神経が通うようになった左手は、利き手とともにひとまとめにされ、頭の上で押さえられている。この体勢から、自分の優位に立て直せたことが無い・・。やはり、もう、これで・・・
 








 
「うそだ・・クラピカ?」


 とたんに、クロロが私の上から身体を退けた。両手も自由になった。だが、私は動けなかった。生きるのをあきらめてしまったのかも知れない・・。自由だ。本体から離脱している。私は今、部屋の天井付近から、自分の身体を見下ろしているのだ。なんて青白い顔。クロロのすきにされた身体。ただの器だ。 こんなになっても、クロロは、私の顔を撫でている。なぞられたところだけが一瞬体温を帯び、どけたとたんに冷えていく。何が面白くて触っているのだろう?
 
 ハッキリと言われた。小竜よりも劣ると・・・。自分でも知っていた事実だ。なのに、貴様に言われたとたん、生きている意味も無いように思えた。欲しかった・・・私など簡単に押さえつけてしまう男らしい身体。私の上を通り過ぎていった男達、口では私のパ−ツを誉めるが、心の中では笑っているのだ。「可愛そうに、間違って生まれてきたのではないのか?」と。知っている。この考えが私の中で充満すると、決まって弱くなる。いけない。戻れそうにも無い・・。離れすぎたか?








 (感じる。ワカ様が本体から離脱した。おそらく、部屋には綺麗なワカ様の形をした器が横たわっているだけだ。痛いの?どうして?何をされたの?)

(シャドウ・・・おねがい・・ワカ様を助けて!たぶん、今ならまだ、お部屋のどこかに浮いている!オ−ラを食べたからかなり希薄。もしも飛んだら、戻れないよ)



マチが小さな悲鳴をあげた。

「竜。あんた!消えかかっているよっ?」

うわっ?自分の身体を通して、その後ろの物が見える。つまり、小竜は透明?こうなったら、自分ではどうしようもない。消えていく・・

(小竜・・)
(ワカ様!?)
(お前がいてくれて・・ありがとう・・)

 まるで、おわかれみたいだ。いやっ。おねがい。
ワカ様が呼ばないんなら、小竜が呼ぶよ!
「かげ こい!」
























うまく隠れたつもりだろうが、俺はそいつらを察知していた。本部からの隠密、3名。そっちがその手で来るならば、こちらも会わせてやろうじゃないか。隠密行動ならば、俺様の方が、数段上だ。バカヤロウ。若い駒だった。喉を掻き切った。返り血を盾で防ぎ、自分は無傷、まあ、こんなところだ。

!!!

 胸の鎖がゆっくりと引いている。今まで、こんな引かれ方はしなかった。いやな予感がした。急いで戻る。

















とにかく、急いで本体に戻る。単に5分を過ぎたから消えかかっている・・そう思いたかった。そして、ワカ様の令に背いて、自分勝手に飛び出した、そのバツだと思いたかった。

 ・・・トクン

心臓の鼓動が再開した。

 
 シャドウが血相を変えて戻ってきた。

 ここからはシャドウ・・・おねがい。









【触手】が渾身の力でクロロを殴り捨てた。

 ガラガラと音をたててクロロが転がり、床に伏した。

さらに部屋中をシャドウの触手が、まるで海中のイソギンチャクのようにうごめく。ワカ様を探している。ありえないほどに繊細な動きで、胸の鎖を伝い、ひとつの魂を見つけ出した。無数の触手がそれを取り囲み優しく包み込む。そうしている間も、器本体を【盾】でしっかりと守っているのだ。シャドウ自身は眼を閉じ、足を肩幅に開き、自然に立っている。これほどの技を見たことが無い。今、【影】は、ありったけの力で、主人を護っているのだ。

 鎖が、クラピカを軸に飛ぶのを引き止めたのか。小竜が緋の眼の褒美に食べてしまったお陰で、軸に飛ぶほどの力が無かった?・・・あるいはピカ自信が、迷っていた?心残り、それは4対のまだ見つからぬ仲間の眼。いつか自分で言うつもりだが、未だにまだ伝えていない、大事な言葉・・。シャドウの不在のわずかな隙に、簡単に、もぎ取られてしまう、脆い命。【影】としての役目を果たす。誓いの言葉。限定の念に対して、主人としてそれに応える態度?果たして、どれがクラピカを引き止め、ギリギリで思い留まらせたのだろうか?
 あるいは、甘えだったのかも知れない。自分が倒れれば、シャドウが戻ってくる。病気の子どものような。
クロロが身体に触った時点で、嫌悪感から、自分をそこに居ないものとした?



無反応の鳴かない人形を抱いても面白くない。抵抗して欲しいが為に、手荒な扱いを。だが、それにも手加減や限度がある。圧倒的な力の差、そして、どうしようもない体格差、ピカの絶望感は、どんなものだっただろうか?



 ピカとの最後の会話・・いや、俺の一方的な喋りを思い起こす。

「小竜のほうがオ−ラの絶対量が上だ」

おそらく、これが、ピカの心を折ったのだ。しかも、次のプランの概要すら示さず、言いっぱなしで放って置かれたのだ。心分身の竜よりも劣るとハッキリと言われ、傷つかない訳が無い・・。俺の不注意だ。
 「小竜とピカは、ひとつなんだろう?だったら念の共有は出来ないのか?」そして、
「俺の仕掛けたトラップに、賊が掛かった。だから、退治して来る。すぐだ。待ってろ。」 なぜ、たったこれだけの言葉が言えなかった?
 弱っている時には、先読みや裏読みをしようともしない。表の言葉のとうりをやけに素直に聴き取ってしまう。それもピカだ。俺が一番解っていない!(わかるだろう・・)それは、俺の甘えだ。悪かった。
 






  生きる事、死ぬよりもどれほど過酷か?それでも、ピカ・・お前を失う訳にはいかない。そう、簡単には逝かせない!お前はそんな死に方を望んではいないはずだ。


 




 いい子だ。 たのむ。

 戻れ!  ピカ











「シャル・・」

やっとのことで、クラピカの部屋から廊下に転げ出たクロロがシャルを呼んだ。

「何やってるの!?団長!」

おおかた、マチから聴いたのだろう〜こちら側も、すごい剣幕だ。だが、クラピカの頼みをきいてやらねばなるまい。さらに立場が悪くなることを覚悟して、命令する。

「ネットに書き込め。いろんなチャンネルを使うんだ」
「何て?」



「遂に、出た。37対目、極美品」







     シャルがヒュッと息を飲んだ。
















浮遊 



力が足りない
離脱した
だが 今の私は
過去
未来
どちらにも 飛べない
迷い
どうする事も出来ず
本体のまわりを 浮遊する





淋しがりやなくせに
プライドが邪魔をして 素直になれない
お互い様だ

 


ひとりじゃない
生きろ
私の頭に深く埋められた呪文が
ほら 聴こえる



知っている
これは 私に言っているのではない
貴様自身に向けての言葉



 
言い返してやる
これを
そのまま




      
それから
いつか
まだ言っていない
言葉も添えて






寒い

私を あたためろ!

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