長編   Mask

□Mask episode 5
1ページ/1ページ


 希望を胸に、ズシは席をたった。ウイングはひとり奥まった席に残った。先ほど気になった壁を凝視する。

「居るのでしょう?影分身でしょうが、良かったら出てきてください。そして、私の言葉をシャドウに伝えて欲しい。お願いできますか?」

 ゆらり。  壁が動いた。

全身、真っ黒の人の影が、そこに立っている。
何度見ても、ぞっとする、シャドウの影分身だ。
本体に近いほど本人とそっくりに形成できる。全身真っ黒ということは、本体とは距離があることを意味している。

 用件を簡潔に述べると、黒子はひとつうなずき、たちまち床に溶けて消えた。

 元々、忍者が、念を修めたのだから分身を隠遁させる合わせ技も可能。しかも、小技の種類が多いのだ。恐ろしい。
・・・だが、ウイングはシャドウに温かいものも感じていた。この奥まった席に、店員しか出入りしないよう、見張っていたのもあの黒子なのだ。
(あなたの中に、まだ、私が「弟分」として在るのだと感じました。あなたの心は「善」だ)




There is light because there is darkness.
And, of all people, the person who has emerged from the darkness appreciates the blessing of light.

闇があるから光りがある  
そして 闇から出てきた人こそ
一番ほんとうに光の有難さが分るんだ  
             (小林多喜二 書簡より)



影分身のひとりが戻った。なるほど、ひよっこウイングまで駆り出されているわけだ。気をつけるべきなのは案外、その弟子ズシの方かも知れない。操作と言ったな?
 ウイングは強化系とはいえ、ずいぶんと真っ直ぐに育ったもんだ。こいつが育てたズシが、ピカにどう影響すか・・・だな。

 話しのもって行きようによれば、強い味方に成るのだが、リスクを自分から背負うとは考えにくい。どう考えても、こちらが蜘蛛の巣の中っていうのが印象が悪い。最近、殺しはしていないのだがな・・。ま、俺が今しがた3人ほど殺ったが。先に向こうから仕掛けてきた。正当防衛だ。ま、何にしても俺は独りだった。誰もアリバイを証言してくれないし、目撃者もゼロだ。これだけでも、嵌められたと言えるだろう?

 雑魚が束でかかってこようが、俺はピカを護るだけだ。


 
 盲点だった。センリツ・・いつ入れ替わった?これには用心だ。クロロは見た目と声をコピ-出来る。そんな能力も本の中に在るわけだ。
 一度はシャルで騙された。まさか、センリツで来るとはな?俺も煮詰まって、視野が狭くなっているらしい・・・。

 さて、ますますわからない。ビスケ、お前はどっち派なんだ?ウイングはビスケにこの話しはしているのか?勝手に動いているのか?そもそも、あれはビスケだったのか?・・・人間不信だ。まぁ、昔から。

 まぁ、いい。ピカが無事ならば。



小竜と一体化してから、ピカのオ−ラが薄い。もしかして、竜はピカのオ−ラを食うのか? はぁっ、ややこしいことになってきた。こうして気を流しても、小竜が食って、ピカには届かないのかも知れない。見た目でも、小竜はガッチリしているのに、ピカは細い。比べるなと言われてもな。分身のほうがデカイって、どうよ? 
 俺の知る限り、ダイモンとともに居られるのは、幼少期か、せいぜい変声期までだ。成人したピカに心臓を差し出した小竜も凄いが、出てくれば5mにもなる竜を体の中に飼っているのは、どんな気分なのだろうか?ダイモンが竜ってのも、ピカがどれだけ激しい気性だったかを物語っている。念獣とともに暮らす・・羨ましいやら、気の毒やら、不思議だ。
 ピカの意識が無くても、小竜は居る。心分身・・心が壊れれば、竜は消えると言ったな?ピカの身体のまま緋の眼になれるのか?あの竜に人と戦う気は無いように思う。数回の放電も、あくまでもピカを護る為の手段、威嚇の範囲だ。本気を出したらどうなる?それも知っておくべきだろう。

 シャドウは思考の海の底に沈む錯覚に襲われた。引っ張っているのはピカだ。近くまで来たか?おそらく同じことを考えている。

小竜とピカは同じだと言ったな?だったら、竜もピカと考えてはどうか?いやいや、せっかく、第三位で落ち着いたんだ。竜は竜だろう?う〜ん・・。ピカと小竜の同居についての仕組みを、訊くしかないか。全部、明かすとも限らないが。
@ まずは、三人で、誰が何の能力が遣えるのか把握する。
A そして、ピカ自身の緋の眼が発動しなくなったのは、正確にはいつの時点でかを洗い出し、直接の原因を特定する。
B 討伐令について、クロロとシャルに話し、動きを検討する。
   
 こんなところか。

 話しの始めに前言を補足し、誤解を解く、これが厄介だ。だが、俺から折れなければ先には進めまい。




!!



ピカが、手を握り返した。


(よし、戻れ。 俺は ここだ!  ピカ・・)



    枕元の携帯が光り、メ−ルの受信を知らせていた。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ