長編   Mask

□Mask episode 6
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ドクン!心臓が共鳴する。

 身体に一瞬、硬く力が入る。薄い膜を張るように、ピンクのオ−ラが発光する。握り返した手で俺の手を感じると、安心したという顔でふっとひとつ息をはく。




 俺は、影分身を呼び戻し、100%の俺になってピカを迎える。ベッドの脇の影から俺の足元まで黒い影が伸び、足の裏へ滑り込む。飛車、角が戻った。桂馬が遅れた。香車がやられた・・そうか・・。俺の影分身が、またひとつやられた。影潰しの出来る能力者が居る。精神の深い部分への攻撃。これが出来るのは雲隠れの一派だ。ハンゾ−か?最初は銀。これは警告に過ぎなかった。まさか銀二に隠の紐を結わえていたのか?そうでもしなければ、こう、たてつづけに殺られまい。分身はこれで残り三体。香車の空白部分を埋めるのは、どんな感情か?恐怖か?悲しみか?それとも慈しみか?
これはピカには言うべきことではない。俺の【駒】の能力がすこしづつ盗まれていくなどと・・。決して詰まれてはならない。

 


ピカに話しをし、ウイングへの返事をしなければならない。
飛車、角、桂馬。三体か・・。これはピカには言うべきことではない。俺の【駒】の能力がすこしづつ盗まれていくなどと・・。決して悟られてはならない。気づけば、必ず、無理をする。

 




東の飛車、西の角、北の桂馬。たったの三体か・・。南の香車は守備範囲が広かった。これから夏を迎える。日が長い。今、香車を失ったのは大きな穴だ。これで、護れるのか?方角のプログラムが、ひと影あたり120度になる。起動の飛車を180にするか?いくらなんでも広すぎるだろう?遠距離まで行けない。円全体を狭める。これからは今まで以上にピカの傍に居る必要がある。ピカは知らない。【駒】と【影】の関係を。キ−ワ−ドは呪文。これを知られると【駒】は全滅する。ペアの念の仕掛けそのものだ。呼ばれて駆けつけることの出来る範囲。分身の数が減った今、それが狭くなったということだ。悟られぬ工面よりもここまで来れば、いっそ仕掛けを打ち明けた方がいいだろう。つまり、ピカに分身の術を教えるということになる。まぁ、心分身は持っているのだから、感覚的には同じだろうがな・・。

具現。


形はすぐ出来るはずだ。俺を騙すほどの精巧なダミ−ならばマネキンとして手放しても2時間はもつ。問題は、自在に動くこと。これは具現は手元から離せない。緋の眼に成れば出来るがこれ以上、緋の眼に頼れば、また紫と同じことだ。しかも、ピカは今、何らかの原因で発動しないと告白している。何か手はないか?咄嗟の変り身ならば既に出来る。至近距離限定で、数を増やすか?接戦でも致命傷は避けられる。苦手な背後を小竜に頼めないか?設定の時間が無い。これでいくしかなさそうだ。俺は外枠に専念し、その中に賊を入れなければいい。これなら香車の守備範囲を分けても動けるか?
 




 自分がいかに護られていたか?これを知ったピカがどれぐらい傷つくか、それのほうが痛いな・・。緋の眼に成れない自分を責めるだろうな・・。リバ−スしたピカは、自分が俺を護っていると信じていただけに・・俺に対する不審で影自体が発動しなくなれば、ペアは解散だ。それでも・・・今は小竜が居る。俺の引き際か?そうかもな?ハハッ・・念無しの自分など・・これまで考えもしなかった。この際、ピカの体力の回復を待っている暇は無い。まだ教えていないこと、全部、伝えなければ・・。限定の念。反動は大きいな。
 





やはり、話しを聞いて来た角に、形代(カタシロ)を付けて送り出そう。途中、念使いに会ってもこれでやり過ごせるはずだ。



 王が目覚める。
この王だけは、決して詰まれてはならない。




















「どうにも、納得できネェ!」
「上からの命令だ。俺らにはどうしようもねえだろうが?」
「落ち着けっ。ハンゾ−!」
「分ってる。だがな・・どうせ仕事をするならば、もっと綺麗に、堂々とやりたいって思わないかっ?」
「やりたくないって気持ちは分るが、だったら、お前、知り合いやその連れならば、何をしても許されるのか?違うだろう?」
確かに。淡々とこなすだけだ。上忍とはそんなもんだ。『隠者の書』これは実在するのだ。ただし、巻物ではなく、人だと分った。抜け人が持ち去ったと思われていたが、実のところは、伝授したのだ。それもほんの子どもに・・。忍法を習っているとか修行をつけてもらっているという自覚は、ほとんど無かっただろう〜それぐらい穏やかに行われたのだと言う。去年の春、クラピカの師匠という人が、見覚えのある独特の足運びをした。雲隠れの忍者の身体の運びだった。クラピカを抱きかかえ、去り際に【影抜き】で分身を捕らえた。影分身のひとりぐらい、クラピカ本体に比べれば痛くない、それほどの捨て身だった。連れ帰り、尋問の末、一言だけ吐き自爆した。


  『影名を言え!』

  『・・・銀』























のっそりと身を起こしたピカは、俺とは眼を合わせなかった。

だいたい、こんなもんだ。

言い出すタイミングを探していると、枕もとの携帯を手に取った。ああ。確か、受信していたな。

まだ指先の動きがぎこちない。タッチパネルを採用しメ−ルに機能を充実させた新しい携帯を両手で操作する姿は、どこか祈りに似ている。

 いくつものメ−ルが届いていたらしい、伏し目がちに文字を拾っている。







『おかえりピカ。起きたところで、お前、俺を見ないだろう?真面目な話しがある。この前の件も、補足したい。 S』


『おや☆ボクの誕生日に、声も聞かせないなんて、どうかしたのかい?  H』

『ピ-ちゃんおきて  S』

『お互いに、小さな秘密を抱えているのね?でも、言わなきゃ伝わらないってことも有るわ あなたのお役に立ちたい S』

『悪かった。リ−ダ−を壊すつもりは無かったんだ。 B』

『俺の黒の円じゃ、ダメなの?  Q』

『クラピカ!ネテロ会長が亡くなった。お前!今、どこだ?あれだけ世話になっておきながら、顔も出せないか? L』

『仕事の依頼だ。連絡を。会えるかのう?  Z』

『死者への弔いは、お前さんの専売特許じゃなかったのか?このメ−ルが届くとも考えにくい。一応、送信する。同期の人数も減った。お前さんは元気なのか? H』








『N  ぞだん頼。ゃじのぐ継け受をてべす。ゃじ番一はでさ多の類種も技大も技小り限る知のシワ、がだ男な用器不はれあ?なかたい開を心はにんさえまお、の子弟』




      
      ピカの表情が、凍った。







(ワカ様っ)
(小竜か)
(よかった・・きがついて)
(ああ。まさか、お前が出て行くとはな。驚いたぞ。しかもタイムオ−バ−だ。おまけに影を呼んだな・・)
(ごめんなさい)
(もういい奥へ行っていろ寝ている間に仕事が溜まっている。お前じゃ出来ない)
(ひとつだけ)
(何だ?)
(シャドウのようすがへん。はじめてあったときから、すこしづつわすれてる)
(忘れてる?)
(あのねっ?)
(どんな感じだ?)
(ぶひんがたりない・・)
(ものすごく、解り易いな。それ)
(きをつけて)
(了解した)

オ−ラの話か?いや、それならば私に贈った分、今、弱い。それぐらいは了解済みだ。部品が足りない・・これはヒントだ。語彙の少ない小竜にしては、ナイスなアドバイス。臭いが違うか?質量の問題か?


 『小技も大技も種類の多さでは一番じゃ。』

!!

念を・・盗まれたのか?


おそらく、私を護る為に?

クロロか?

『真面目な話しがある・・』

もしかして、ペアが組めないのか?いや、それは無い。盗賊の極意に手の平を合わせなければならない。いや。私は意識が無かった。寝ている間に手の平を本に合わせられたのか?
シャドウが居た筈だ。何か言われたのか?小竜がクロロに驚き、私も離脱。再び小竜が戻って来るまでの空白の時間は?
鎖は・・シャドウと繋がっていた。まずい。
 いや、その後小竜が私の声で影を呼んで反応している。大丈夫だ。盗まれたのはペアの念じゃない。では、何だ?

 
 まて、部品?これは、私の「既にヒトではない」に対する隠語だ。小竜のめいっぱいの皮肉。「ヒト」に戻せば「分身」
分身が足りない!ばっ・・ばかな【影抜き】に遭っているのか?いつからだっ!はじめてあったときからすこしづつ・・。 小竜がシャドウを直接見たのは、離島の海岸。おそらく上空から姿くらましの状態で。次に石棺の祠で。そして私有地の庵。庵では山ごと円で囲っていたはずだ・・・私を追って来られなかった?・・・何かされたんだ。私がシャドウから離れた隙に。何をされた?なぜ?そんな大事なことを私に言わない?『小さな秘密を抱えている』・・・言えないのか!




ヒソカにだけ、アクションを返した。通話。
極小さく爪で弾く「・・・---・・・---・・・---・・・---・・・」キッカリ22秒の無言電話で切る。これは保険だ。




 

 






 







 いきなり、俺を正面に据えた。何をする?ピカ。


右手をスッと伸ばす。 (何故?解除する気か?)
手首を反し鍵を開ける仕草をした。 (お前を解放する。私からも。鎖からも)


 ふたりを繋いでいた鎖は、光って消えた。


さらに、ピカは俺の胸を掴み凝視する。近い。視線だけで射抜かれ刺し殺されそうだ。 視線を外すことを許さない (何っ!!)
【紫】だ。

















Mask episode H-side


信号



渡り損ねの鳥のような
天使
ときどき
死に損ないの
悪魔
気分屋の
野良猫

見た目が
綺麗だから
いけない

律儀な筈なのに
声も聞けなかった
少し意地悪なメ−ルの返事が
コレ

「・・・---・・・---・・・---・・・」


へえ・・古い信号を知っているねっ?
しかも、ストレ−トな表現
かなり緊迫



しょうがないな


すぐ 行くよ







  

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