長編   Mask

□Mask episode 7
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シャドウの過去軸にこちらから入る。過去見。初めての試みだ。【紫】で動きを封じ、直接、眼から入り込んだ。
(小竜!5分、私の体を支えろ!)
(はい。おねがいワカ様、かえってきてよっ)
(心配ない)・・・たぶん。











 私は、そこで  地獄を見た。





念封じのカプセルは、破壊されてはいなかった。
14日間。
長すぎる。
貴様・・耐えたのか?
電流が通っている。眠らせない。

ばかなっ。
そこに窓など無い。
月など見える筈も無い・・。
壊れるなっ、私が居る。
貴様は、ひとりではない!

助けろと
呼んでいたのは、貴様のほうだったのか。






そして、気が付いた。
殺しに行くと約束しなければ、出られないことを。



「いや。上等だ。その依頼、誰が報酬を払う?それから・・・・いくらだ?」











 






(ワカ様 ごめんなさい!)
(何だ?)
(あのねっ?あのねっ?)
(何だ?)
(あのねっ?)
(怒らないから、言ってごらん?)
(ないちゃったの)
(!!)
(キュイ−ンって にかい)
(!!)
(それでねっ?ちかくまで きてるの)
(それ以上言うなっ!もう、私にはわかる!)
(おこらないって いっ・・)
(ものによる!!)


 上空に巨大な怪鳥が飛んでいるのだ。周りには15,6体の物体を伴っている。ばかなっ?どれだけの磁場が変化した?
 長龍が身を隠すほどの山は無い。上空の雲ぐらいだ。夜まで待ちたいが、的が大きい。鳥獣ハンタ−に殺られる可能性が高い。しかたがない。私が行くしか無いだろう・・・。シャツをもう一枚着込み、パ−カ−を羽織る。ジ−ンズの裾をブ−ツの中に押し込みファスナ−をしっかり上げた。山にでも登る?それ以上だ。睫も凍る上空。シャドウをベッドに休ませ、枕元に携帯を置いて行く。月が細い。シャドウは動けまい・・。

(空間移動!目標、長龍の頭の上)
(はい!)

 
隠の状態で鏡の中に入り込む様な、異様な感覚。過去軸に飛ぶのとは全く違う、自分と目標物の間の空間を自分の後ろに退かしてしまう、そんな感じ。目標物のほうから、私の体に向かってやってくる。今日の日付けの範囲で時間を置き換えるのだ。軸は現在。



(小竜が鳴いたようだ。すまない)
(ご無事でしたか)
長龍はほっとしたという声で答える。
(お寒いでしょう?)
(ああ)
(4kmほど先に、ゴルフ場があります。降ります)
(目立たないか?)
(かえって堂々としていれば何とかなるかも知れません)
意外な答えにクラピカがフッと笑った。







林の中に縫うように長龍が体を横たえる。そして、あっという間に擬人化した。

(ゼノ?)
(ゼノ様の姿を真似ています。長龍です。ワカ様、短い命を選ばれたのですねっ?)
(ああ。見守ってくれ)   瞳は紺碧。なんて穏やかな表情。激しい小竜とともにあっても剣は鞘に静かに納まっている。大人に、成られた。
(もちろんです)
林の中をゆっくりと歩きながら話をする。散歩をしているように見えるだろう。
(オサ。本当の用件を聞こう。ワラベが鳴いたから来た訳ではないだろう?)
ゼノの姿の龍が立ち止まる。ゆっくりとクラピカを見つめる。クラピカと長龍の眼が合う。
(私に、その石棺の記憶を食べさせてください。心の奥に仕舞い、決して言いませんから)
(お前に不利な条件だと思うが、何か他に困りごとでも抱えているのか?)
その返事は無かった。
ああ。長龍独特の(ご自分の眼でお確かめください)だな?

長龍の手の平が、クラピカの眉間に触れる。
クラピカは目を閉じ、身体の力を抜いた。


目を開ける。
林の影が微妙に揺れた。ばかなっ?シャドウか?いや、新月だ。【駒】も動かない。ついて来られる訳が無い。凝で視る。



「お前達、姿現しせよ」
(生き神さまだっ!長龍がお声を掛けられた!)
ワイワイと小動物たちが現れた。ウサギ リス カラス カケス メンフクロウ コノハズク ハリネズミ トビネズミ
オカメインコ 
(これは?)
(主人に命じられず、別れた悲しいダイモン達です。自分達の主人が既に死んでいるという事実を信じられずに生霊と化しております。どうしても付いて来るとききません。お声を掛け、天に還してやってはくださいませんか?)
クラピカは、しばらく それらを眺めていた。

    


生き神さまの言葉を今か今かと待つ。背後で姿現しをしたドラゴンに驚く。それを操る現人神クラピカ。その圧倒的な存在に恐れおののく。黄金の髪に白磁器の肌、紺碧の大きな瞳。小動物たちは、クリクリの目をさらに見開き、ふるふると全身に力を入れ、もう石化するのではないか?と思うほど緊張した。生き神さまを、この目で見られただけでも、冥土の土産に十分だ・・だれもがそう思った。
王族だけが知っている『静かに昇天しろ』というクルタの言葉を待つ・・・。






「私に仕えないか?」


クラピカの声に小竜が跳び退いた。

「声!!」

「ワカッ!?」

ダイモン達は、ぴょんぴょん飛び跳ねている。





小動物の後ろで、じっと動かない黒ヒョウをみつけた。
静かな目をしている。これほどの大型ならば、王族か近衛クラスだ。片目が傷ついていて半分しか瞼が開かない。知らなければ睨みを利かせている、そんな顔だ。

「アクセル!」

呼ばれて初めて、黒ヒョウが動いた。クラピカの傍に進み出ると、5mほど間をあけて腰をおろした。

「さすがです。実は・・ゼノ様からの依頼で、ミケの後釜にどうかとククル−マウンテンまで連れて行ったのです。ですが、全く動かないので、返品されてしまいました」

 ひたすらにじっと、主人から名を呼ばれるのを待っていたのだろう〜私はアクセルの直接の主人ではない。鞘のダイモンなのだ。鞘の眼は私が傷つけた。おそらくアクセルはこう、命じられていた。「待て」  と。

 小竜の眼から涙が流れる。どれだけ待っていた?

「アクセル、私のシャドウの影分身で、香車というコマがやられたばかりなのだ。代わりに南の警備を頼めるかい?それから、アクセルの直接の主人はシャドウ。今の私の鞘だ。キット気が合うと思う。私がもしも傍に居なかったら、アクセル、お前がシャドウを護れ!」

黒ヒョウの背中の毛が逆立った。頭の位置はそのままに、立ち上がる。ゆっくりとクラピカの後ろを通り、足元に座った。彼の定位置だ。クラピカと共に小動物たちを見ている。

(ちょう?いま、わたしのシャドウっていったよねっ?)
(聞きました。おそらく無意識です。ショウは黙っていなさい)ちがう。今の私の鞘だ。と、認めている。アクセルに簡潔な言葉で、納得させる為に、意識的に使っているのだ。そして、何よりもアクセルの欲しかった上からの物言い。強い言葉・・。
「ワカ!」
「調子に乗っているわけでは無いんだ。影分身を会得するには時間が無い。しかも、接戦タイプで二体しか作れず、切羽詰まっていたのだ」
ゆっくりとダイモンたちを見渡す。真近で静の王子に見つめられたら、私でも凍る。ひとりひとりとアイコンタクトをしていく。それぞれに何か一言ずつ言い渡している。呼び名だ。まったく・・王の仕草、そっくりだ。


      「お前達が頼りだ」



うまい!もう、この子達は完璧にワカ様の支配下だ。私の言う事など聞きもせずガラガラと背中で走り回っていたダイモン達が、使命を与えられ、うれし泣きしている。

あっという間に、指揮系も完成させた。

   

「約束事を確認する。
・伝令は簡潔に一切の脚色を禁ず。
・昼班と夜班の連絡漏れが無いように。
・自分達で順列や派閥を作らない。それぞれに見合った大切な役目を果たしてもらう。
・自分達の存在をヒトに見られぬこと。霊体のままか、実体化しても絶か隠。私とシャドウの前では実体化していい
もしも捕獲されたら、ただちに自爆。私の役に立ったんだ。おお威張りで虹の橋を渡り天に登るがいい。あとから私もそこに行く。その時は道案内をよろしく頼む。
Merciful love is what make us human.
A human isn't a human simply because he appears to be.
慈を以って人とす。形を以って人とせず。(無住・沙石集より)
来世ではヒトと成り楽しく過ごそう。いいな!」

名を与えられたダイモン達が、うなずく。

おそらくワカは、ホログラムとして、これらの言葉の中に『昇天』の言葉を隠したのだ。そうしなければ、私もショウも逝くことになるからだ!凄い。






「Leave!」

王のひと声で、それぞれの持ち場に散った。









 ふと、足元に金色のヘビを見つける。
「これは?」
「生まれたばかりでした。まだ念が何かも知りません」

もっと濃い色の筈だったのだ。色素異常。私と同じアルビノだ。そっと拾い上げる。小さい。30cmほどだ。驚いたヘビはクラピカの手首に巻きついた。クラピカは優しく小さな声で金色のヘビに話しかける。

「怖がらないで。私の声が聴こえるかい?」
ヘビは何度も小さくうなずいた。
「小竜が少しづつ念は教える。出来るようになったら呼び名と仕事を与えよう。いつもは私の腕飾りのふりをしていろ。怖くなったら私の髪の中に隠れるといい」(小竜、いいな?)(はい)

金色のヘビは手首からほどかれ、左の上腕に巻きつき落ち着いた。

「長龍、この子を見えるか光りだけでも感じるようにしてやってくれないか?小さくとも命に変わりはあるまい?」
「仰せのままに」

ゼノの姿の長龍が、金色のヘビの小さな頭に小指を立てた。
「キュッ」っと小さな悲鳴を上げた。そして、一番最初にクラピカと目が合った。

「私だ」

金のヘビは、うんうんとうなずき、急いでクラピカの髪の中に隠れた。

「ワカ」
「何だ?」

「くれぐれも・・」
「生き急ぐなと?」
「・・はい」
「大丈夫だ」(私には護りたいものがある)

「小竜と話をして帰れ」
「有り難きお言葉」

 長龍とクラピカは、しばらく見つめ合った。

















(名無し-side)









なんだろう
ざわざわしていたみんなが
しずかになった
いきがみさま ってよばれている
えらいの?

その つめたいてに
おもわず
だきついた

「怖がらないで。私の声が聴こえるかい?」

もちろんです
もう
さっきから
からだぜんぶみみにして
きいています

「小竜が少しずつ念は教える。出来るようになったら
 呼び名と仕事を与えよう。いつもは私の腕飾りのふりをしていろ。
 怖くなったら私の髪の中に隠れるといい」

どうしたらいいのか
いちどで
わかる
つよくて
やさしいことば
はじめてみるものは
いきがみさまがいいな



「私だ」



はじめまして



いいたいことは
わかっている  と
めが
おっしゃった

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