2nd season 「Time」 

□2nd season 「Time 」 prologue
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 耳が痛い。
偏西風を感じなくなった。赤道を越えたということか。飛行船の特別室から直接デッキに出られる。わざわざ一便遅らせたのは、このタイプの機にしたかったからだ。さっきから自分に言い訳をしている。
 自分の影が今、どちら側に出来ているか、方角や高度、そして出来れば、水場を意識して歩くように成った。まだ、慣れない。これを自然に熟さなければ。私に課せられた新しい秘密をどうしても守りたい。
 星空を眺め、ざっと星座の位置を頭に入れる。懐かしい南十字星の付近には、大きな雲がかかり、残念ながらその姿を目視することは出来なかった。
 滅多に、口にすることのなくなったクルタの言葉でヤツを呼んでみるか?いや、おそらく、私が南に還って来たことは
気付いているに違いない。里の上空は、どんなに高度を上げても機体が何らかの磁気嵐に巻き込まれ事故が多発する。今では飛行禁止区域とされている。立ち寄れるのは、はるか東の港のみ。それも春と秋の昼と夜が半分になる一週間は、強風が吹き荒れる。私が遠回りして時期をずらした理由の一つだ。
 足元に感じる。飛行船の真下の雲の中に、巨大な影を目視した。真夜中、おそらく自動操縦に成っているだろう。それにしても大胆な行動だ。驚いてとうとう声を上げた。

「オサ・・」

呼ばれた相手は、返事こそしなかったが、私にだけ解る言葉を直接、心に課して消えた。

『     』

危険が迫っているだと?

 身体が冷えた。これから起こるであろう事件に、少しでも冷静に対処できるように心がけなければなるまい。

 眠れるだけ寝ておこうと部屋に戻った。

機体が段階的に高度を下げる。その度に、聞こえなくてもいい物音まで、私の耳は拾ってしまう。しまいには枕とシ−ツの間に頭を突っ込み、寝相の悪い子供の様に・・・独りで寝なさいと叱られた子供の様に小さく足を折りたたんだ。体温の低い自分独りだけでは、既に、眠ることもできなくなっていた。

ヒュ−ヒュ−という早い呼吸に成る。しまった。枕元の携帯を探す。壁と床と天井が自分に迫ってくる感覚に襲われる。このままでは負のスパイラルに思考が堕ちていく。ガタガタと震える指先で、ようやく携帯のボタンを押す。

「おっ?通話とは珍しいな。クラピカ。今、何処だ?」

すぐに通じた。そっちこそ、珍しい。耳元で、明るいレオリオの声がすると、少し落ち着いてきた。だが、返事をする気にはなれない。声の調子で、およその健康状態を予測してしまう、変わり者だ。心配させるだけだ。

「クラピカ?どうした?」

できるだけ抑えていたが、ヒュ−ヒュ−という息はレオリオに聴こえたらしい。テキパキと指示をする。

「紙袋は有るか?無ければビニ−ル袋、それも無ければタオルを口に当てろ。行けるなら先にトイレを済ませろ。ベッドに戻ったら横向きになれ、上を向くな、眩暈がするからな。広くて気持ちがいい〜自分の好きな景色を頭に描け。聞いているか?クラピカッ?」

 通話口を爪でひとつ弾く。


「切るなよ・・お前、飛行船に乗っているのか?」

どうやら、喋りながらパソコンを起動させ発信元を辿ったらしい。レオリオは、私が何度かこの手の電話をするからか、こんなところは手際がいい・・。まぁ、私のハンタ−証の暗証番号を知っている、二人のうちのひとりなのだ。そんなことを考えているうちに、呼吸が治まってきた。

「助かった。礼を言う。それから、通話でむやみに私の名を連呼するな。盗聴ということもあるだろう・・」

 世話になっておきながら、注意までし、どれだけ高飛車な態度だと思われるだろう。だが、彼は、そんなことはおそらく気にしない。それどころか、私の声が聞けたと喜び、またな、と声を掛けた。私は「ああ」とだけ応え、通話を終了した。

「♪機体が完全に着陸、停止するまでお客様はそれぞれのお部屋でお待ちください。係員が誘導いたします。おそれいりますが、もうしばらくお待ちくださいますよう、ご協力をお願いいたします♪」

 アナウンスの声で、目が覚めた。


 おかしい。何の手違いだ?

 そこに、誰も迎えには来なかった。


















Things that pass...A sailboat in the wind.
A person's time on earth.
Spring, summer, autumn, winter.




ただ過ぎに過ぐるもの  帆かけたる舟 人の齢 春、夏、秋、冬。
        


(出典:清少納言『枕草子』より)
















「 Time 」無精髭






「ピカ、悪いがお前に俺の念を掛ける。理由は二つだ。操作の念は先に掛けたもん勝ちなんだ。後から余所のヤツが、お前にどんな念を掛けようが、起動しない。まぁ、掛かっていれば、それなりに苦しいがな・・。それから、お前については、俺が責任を持つ。具体的には、そうだな・・死にそうになった時、呼べばなるべく速く助けてやる・・とでも言っておこうか?細かいことは今から決める」

 ものすごく小さな円の中に私を閉じ込め、師匠は言い渡した。こちらの言い分はどれぐらいの割合で通るものなのだろうか?恐る恐る聞いてみた。
「ああ。ほぼ∀だ」(∀任意の、全ての)すぐさま付け加える。
「それなりの代価は貰うがな?」ニヤリと笑った。
「例えば?」
「そうだな、発声と、俺の円の外に一定時間以上、出ないという時間制限でいいだろう」
「制限内ならば?」
「出入り自由だ。俺の円にピカは掛からない。何故なら、敵では無いからな。だが、万が一、お前が俺を殺そうと思えば」
「殺せるということだな?」
「ご名答。ただしこれにも条件がある。ピカが碧眼の時に限る」
なるほど。私が緋の眼に成れば、貴様の操作系の能力とほぼ同等の力を持ってしまう。その為、貴様の操作が及ばないということか。操作の念を私に掛けておくのは、私自身が敵に操作されて師匠を暗殺することを予防する意味合いもあるのだな。つまり、私が師匠の操作に掛かることで、師匠を守ることになるのか。操作に限らずとも、他の系統の術者が自白剤入りの酒を私に盛るかも知れない。発声を禁じられていれば、酔わされ無意識での自白も初めから防げる。この場合、声を取り上げられている事を隠し、自分で寡黙を演じるとするか・・。なるほど・・。独りじゃない・・とは、そうゆう意味・・。言葉で喋るのは、既にかけてしまった念の確認と、私への理解と視ていいだろう。おかしなことだ。説明しながら言い訳をしているのだ。そして、私は必要とされ欲するに値するヒトだと、認められた。何だろう?この安心感は?


「・・・わからない。何故?そこまでする必要がある?」
「大まかに言えば、俺の念は、誰かに仕える為に出来ているんだ。自分自身は、念無しでもある程度、強いからな。守る者が居れば、どんだけでも強く進化するし、技の種類も増やせる。ゲ−ムにたとえれば将棋」
「将棋?軍議か?少し違うが、チェスなら解る」
「ああ。考え方はそれでいい。ピカ。俺の中ではお前がキングだ」
「それで、キングが詰まれそうな時は?」
「何処に居ようが一手でキングの脇に動ける【影】それが俺だ」
「発動の条件は?」
「お前がお前らしくある為に、上下関係を逆転させる」
「はぁ?」
「つまり、ピカは偉そうにしていればそれでいいんだ」
「具体的な方法は?」
「ジャッジメントを俺に刺せ。そして誓いの言葉を俺に言い渡せ」
「ば、ばかなっ!」
「可能な筈だ。中指のは困るがな。俺を信じろ。鎖の決まりを設定した自分を信じろ、いいな?」

 動揺して、鎖がうまく結べなかった。次に結べたが、刺せなかった。やる気あるのか? 冷ややかな言葉を浴びせられ、クソッと勢いで突き刺した。ドクドクと温かな鼓動を感じた。鎖自体がまるで二人を繋ぐ新しいバイパスの様に。私の心臓から絞り出された血液が、師匠のからだをも隈なく廻り、最後に師匠の心臓から送り返される。そんな感じだ。いや、言うなればへその緒が繋がっている様な・・。この状態で千切られれば、二人ともに生きてはいられまい・・。

「よし、いいぞ。次に、3行詩ぐらいの文句を唱えろ。何でもいい。好きにしろ。あまり言いにくいのと、長いのは辞めておけ。いいな?」


 何だか、あまりにも・・私に有利では?このような過保護な条件をのんでもいいのだろうか?いや、疑問に思う前に、始めてしまった。既にピカ・・と、呼ばれた時点で操作の念は掛けられたと視ていいだろう。いや。もっと前だ。頭の中に声が聞こえだしたのは、あの手合せで私が竹藪に突っ込んで意識を無くしてからだ。独りじゃないという声のする軸へ歩いていくと、意識を取り戻した。
 設定に入った以上、今からでは後戻りは出来ない。ならば・・庵の書棚にあった武士道というボロボロの本の一節を贈る。


『Be loyal to your master.
 Observe proper etiquette.
 Do what's right withou besitation.
 Show compassion for the weak.

主君に忠義を尽くす
人としての礼節を重んじる
正しいことを敢然と実行する
弱い者には慈悲をもって接する』   


 エネルギ−の循環が静かに変わった。暴れていた感情が治まっていく。鎮魂や祈りにも似た、「無」 まるで・・・最初から私たちはこうあるべきと決められていた?

「そして、鎖自体を隠にしろ」
見た目、鎖が消えていく・・。
「上手いぞ。よし。これが繋いで【Reverse】した状態だ。この感覚を覚えるんだ。儀式は、他人に見られてはいけない。次に、外し方だ。いいか?」
「リバ−ス中だ。私が主導だぞ」
「すまん。続けてくれ」男は膝を折り私に傅いた。
「決まり文句でいいんだな?」
「ああ。仰せのままに」胸の前で仏にするように手のひらを合わせている。
「貴様を開放する。鎖からも。私からも」鍵をイメ−ジすると、手首が勝手に動いていた。
心臓に巻き付き矢尻を突き立てていた鎖は揺らぎ震え光って
消えた。男は私の知っている師匠に変身した。伏せていた目を私の視線と合わせる。その漆黒の瞳からは涙があふれた。


「それでいい。完成だ。限定の念」



 

  グラリ、身体が傾いた。


































「Time 」 prologue 解説

・レオリオの指示しているのは、回復体位といいます。

 意識を無くした時に、舌がのどの奥に落ち込んで無呼吸になるのを防ぎ、また、胃から戻ってきた内容物が誤って肺に侵入する誤飲も防ぎます。手足が床に密着していることで触っているという精神的な安心感も得られると考えられています。そして、全く仰向けよりも、本人が気が付いた場合、次の姿勢に移りやすい、搬送する場合も、抱き上げやすいんですよ

 クロロに対してシャドウも電話で指示していました。シャドウは意識の無いピカを想って、より具体的にピカの好きな向き「右を上に」と言っています。それは鎖を解除させるのに右手を自由にさせる意味も含まれていました。(クロロには言いませんでしたが)その他に、血を時間ごとに抜かれ、ほとんど限界に近い状態の時も、膝の下に毛布を丸めて入れたり、いつも、どうすればピカが楽か?患者の立場に成って考えられる姿勢、見習いましょう^^

 紙袋はあるか?というのは、過換気症候群(過呼吸)にそのまま突入することを予想しての言葉です。苦しいからたくさん息をしようとして、口からの呼吸を急いで浅くしてしまいます。それは肺まで届かない見せかけだけの呼吸です。ペ−パ−バッグ法で、小さな袋の中の空気だけを吸わせます。しばらくは苦しいのですが、そのうち落ち着いて、ゆっくりの鼻から正常な息に治まります。
 水の誓約でヒソカが珍しく「何の為の保護者?ボクはこんなふうにする為に、あそこから運んだ訳じゃないよ。約束を解いておやりよ。いくらなんでも、やりすぎだと思うんだ。我慢強い子だけどねっ?ボクからは、鎮静剤も抗生剤も飲もうとしない。 よくしつけてあるね。お願いだから飲むように言ってよ。ああ、今、過呼吸に突入して15分、苦しそうだよ。席を外すよ。2時間ほどで戻るから、その間、好きに使うといい・・じゃ」
 と、シャドウに経過時間を知らせ、自分の意見を語っています。このことから、ヒソカも少しペアの念について気が付き、症状についてもシャドウが精神的に負担をかけていることを知っているみたいです^^この時は時間が長すぎる!と、シャドウ、大慌てでした。既に唇が紫色にチアノ−ゼを起こしていたピカです。危ない危ない・・。


 私の設定では、たびたびクラピカが変調をきたします。
それはなぜなのか?という疑問をここで解説しておきます。

 


 

 
 私がクラピカをギュッってしてあげたい部分は、空白の時間です。

 特殊な環境にあったクラピカは、思春期に家族という最小の単位で生活するということと、同年代の子どもと集団で生活するという経験が欠落しています。(ゴンは通信スク−ルでしたが、ミトさんやおばあちゃん、島の人や季節の漁師、また、森の動物たちに温かく囲まれていました。ミトさんが風呂に入れと言った直後に1〜2〜3と数えだすあたりは、まさに我が家と一緒!と、バカうけでした^^さすがに今はもう言いませんが。キルアははじめから暗殺一家に生まれたことで、同年代は居なかったものの、兄弟は居ますし、ゴト−をはじめとした執事やマハを頂点とする世襲制の序列も知っています。また、既にいくつかの年齢に応じた仕事もこなしています。レオリオはピエトロや彼らの回りの社会とも接点があり、それなりに集団生活の経験アリです進学できるだけの基礎も学習能力も有ります)私の小説のピカが、完全体でないことは、そこがツボです。下手に博学なので知識として頭にあっても実際、生活したり体験したりをすっとばして、生きる為に早く大人にならなければいけなかったクラピカ。怒りが内側に向く真面目で几帳面な性格がかえって自分自身を追い詰め、時には自虐という行為までしてしまいます。狭い密室や空調の止められた部屋、独りの夜、土埃、血の匂い、身体が冷える、これらがきっかけで突然フラッシュバックを起こします。精神分裂を起こしそうな場面がたびたび出てきます。後半は鎖はほとんど出てきません。激しい感情の部分は小竜にお願いして、静の王子は美しく描いていきたいと思います^^      

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