2nd season 「Time」 

□すれ違い
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「頼みがある・・」

隔離室のドア越しに、クラピカの師匠という男は、なかば諦めるような声を絞り出しました。弟子を教育中に、怪我を負わせた監督不行き届きに加え、その弟子の仕事仲間を暗殺してしまったと聞きます。ですが、私の見る限りでは、黄色人種の標準的な体型の、少々不衛生な外見からは、強さもスマ−トさも、ましてや、頭の良さも感じられません。第一印象は、どちらかと言えば・・・控えめに申し上げましても、好意的ではありませんし、その方が、何かを私に喋りかけるようなことがあるとは思いもよりません。
 私は、ふと足を止め、小さな覗き窓の格子越しに、その姿を振り返って見てしまったのでした。まるで野生のオオカミです。鋭い眼光で私を釘付けにし、今度は先ほどよりもしっかりとした声で話をされました。



「マ−メン・・あんたに、頼みがある。返事や声掛けを禁止されている事は知っている。それがここの決まりだからな。あんたがそれを破ってまで俺と話す気も無いことも・・。俺の弟子の様子を教えてほしい・・」

 話してさしあげたいところですが、なにぶん、貴方との接触、発語を禁じられておりまして、何もお話しできないのですが・・。

「こうしよう。yesならば一度noならば二度、手をたたいてくれ。どちらでもない時は三度。了解か?」

パン

私の思ったよりも乾いた大きな音が響き、ドキッとしました。

「有難い。傷は、塞がったのか?あいつは助かったのか?まあ・・囚われの身という意味では無く、命が、という意味でだが?」

パン

ほう・・という安堵の溜息が聞こえました。

「暗記は得意な方か?」

パン

「ありがたい。では、今から言う数を声を出さずに指だけをハッキリ動かして、俺の弟子の見ている前で見せてやってくれ」

パン

「732114521223」

えっ?速いです。もう一度の意味で私はパンパンパンと聞き直しました。

「732114521223」

732114521223頭の中で反芻し、パンと手を打ちました。

「頼む・・必ず・・見せてやれ・・」

寒いのか?男は少し鼻声でした。次の食事の時には、毛布を差し入れいたしましょう。いや、それよりも、この数字を伝え、お返事を伝える方が、妙薬なのでしょう。

 子どもが、悪巧みをする時のような、なぜか、秘密を共有した仲間のような気分になっていました。
















非常に、戻りにくい場所に、私のヒトガタはあった。だが、痛みは無い。傷は塞がったということか・・。生温い液体に全身が浸かっているのだ。意を決して、目を開けてみることにする。

 ぼんやり曇り、よく見えない。時間が経てば、慣れるのだろうか?頭の隅に「浸透圧」というワ−ドが浮かぶ。角膜を通しこの液体が眼球内に浸透すれば、眼圧がかかり、失明するのではないか?それでは皮膚はどうだろう?なぜ?呼吸が出来る?そもそも肺は?血流は?答えのわからないまま、不安がつのる。指先の感覚が戻り、自分の身体を触診で確かめる。顔、首、上腕、胸、腹、尻、大腿、脹脛、踵、そして足の指先まで。確かに、クラピカ。私だ。
 気が付いた。それは、まだ私が「生」に、しがみついているということだと。




 時間が解らない。昼なのか?夜なのか?どれぐらいこの中に入れられているのか?そして、この先、どうなるのか?
 念を発動していいものか?それも、わからない。



 しだいに、ある一定の法則に基づいて、ここに監視員または訪問客が来ることに着目した。「意味のないことなど何もない」師匠の言葉を思い出す。時間はいくらでもある。眠ることも。起きていることも。そして、瓶の中に居るが、拘束はされていない。この中ならば、どうしようが自由に動ける。正しくは泳げる・・というところか?
 貴様・・どうしている?客の待遇ではないことは、私のこの扱いを見ても明白。





 訪問客があった。ネテロ会長の秘書、マ−メン。私は彼が念遣いかどうか知らない。

 

 瓶の側面から正面にゆっくりと歩く。だが、なぜか指が不思議に動いた。気がつくのが少し遅かった。私は、嬉々としてその指先の動きを追う。伝言だ。

2114521223

(えっ?)

手を三回叩く仕草をしてみた。

(頼む。もう一度・・)

マ−メンは、去って行った。

(振り返れ、頼む。もう一度・・)

二重扉が、冷たく閉じた。



「かえにいく」替えに行く
Why not?
Don't use that kind of language with me !

・・・弟子は死んだと知らされたのか?だとしても死体の確認に来ないのか?いや、キット来た。そして見たのだ。離脱したままのヒトガタが、漂っていたに違いない。どれほどのショックか?・・・既に次の弟子に?・・・ハンタ−試験は毎年ある。貴様・・言った筈だ「念の師弟関係は、ほぼ一生ものだ」と。ほぼ?ああ。弟子が死んだ場合は、すぐ次を教えなければならないのか?いや?「限定の念」の筈だ。He made up him mind to share me fate.もしかして、それは、途中で制約の変更が可能なのか?

どちらにしても、私は用済みらしい。


絶望感が全身を走った。空虚・・何も思い浮かばない。
これから、電圧が上がり、緋の眼のまま殺され、私はおそらく、標本となる。もしくはパ−ツごとにバラバラに切り売りされ、協会の運営資金と成る。

Living! Alive!
せめて、ここから出してくれ。
暴れると、ランプがついた。

マスタが内線で何処かに連絡を入れている。 














「それは本当か?」

パン

「そう・・・か・・バカなっ・・ピカ・・どうしようというのだ」




 確かに、お伝えいたしました。するとお弟子さんは二度、手を合わされました。あの液体の中では、手を叩くというような動作は出来かねます。ですが、動作は一度ではありませんでした。それは確かです。それで、私は、お返事として彼の師匠の扉の前で、

 パン パン 

と、二度、手を叩いたのでございます。


すると、戸口の向こう側から、次の頼みごとがありました。


「マ−メン・・伝書鳩のようなことをさせてすまなかった。最後の頼みだ。クラピカ・・おれの弟子のカプセルに通じるポイントの警報音が鳴るタイミングを外すことは出来るか?警報を切るのではなく・・・あくまでも、タイミングをずらしてほしい。言っている意味、解るか?」

パン

警報を切るとランプが色変わりします。それはリッポ−派にバレバレです。特に、マスタ、彼は勘がいい。どうにかして出して差し上げたい。その気持ちは、私もよくわかります。

「もう、行け・・」

パン

この件は、会長と吟味する必要を感じます。クラピカさんと師匠は、完璧にネテロ派です。それが解っただけでも、私には心強かったです。
































 小竜-side











124375634192

124375634192

なんのしんごう?

どうして

こんなに

なみだがでるの?

ここからちかいの?

いっていい?








おへんじのかわりに

また

ひびく

124375634192

124375634192

かわりにないてあげる

それしかできない


















Shadow-side







返事は「否」だと?
どうするつもりだ?
何の策が有るというのだ?


いや・・
今までの流れは早急で
あまりにも俺流だった


「限定の念」
「制約と契約」
「Reverse」


「影、来い!」と、一度も呼ばれることも無く
空回りしたまま
お前を手放すなど・・


カプセルから盗まれたことに
そうすればピカの命とネテロのメンツの
両方が守れる 苦肉の策だった


Curarpikt


必死に書いた筆跡が
俺を恨めしく
睨んでいた


















すれ違い Curarpikt-side



信じようとした
親だとも思った
まあ
短いつきあいだった

だが
あきらめるなと言ったのは
貴様のほうだ
何があった?

手違いか
自力で逃げろと?
頼みがある
眼を見せてくれ

貴様は無事なのか?
生きてさえいれば
また会えるのか?
声をあげずに影は呼べるのか?

私は知らない

旅団の女が
幼児絵本に遺言を残せと脅す
念字を残した

Curarpikt

生きていると
私の筆跡で

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