2nd season 「Time」 

□微笑む
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 まずは、道なりに登って行く。早朝からクラピカは無口だった。最後まで見えていた民家の屋根が隠れた。三叉路で立ち止まった。





「覚えてる?」
ややあって返事があった。
「クロロの来た道でいい」
「あ、そ」
くるりと背を向る。せっせと付いてくる、クラピカのかすかな足音。巨大な苔むした岩に来た。立ち止まる。信じられないことに、いまだに結界が張られている。クラピカが無言で(下がれ)と手ぶりをする。すごく照れ屋なんだね「下がっていろ」と、口で言えばいいのに。目も合わせない。
 今度は俺が背を向けていてやった。もう、いいかと振り返ると、姿が無かった。足元に髪がバラ撒かれている。おいおい、攫われた?いや、ちがう。岩がたった一人通れるほどにずれていた。は?



自動ドアみたいに開いたり閉じたりするらしい。閉じる岩に追い立てられるように慌ててくぐった。

 クラピカは、ちゃんと俺を待っていてくれた。しゃがみこんで、草を見ている。・・・・その横顔に、見惚れた。

 獣道に、膝の上まで雑草が生い茂る。俺もクラピカも皮手袋をはめ、利き手には小刀を構え、草をなぎ払う。足元を確認しながら踏みしめる。こんな作業は計算に入っていなかった。これでは昼までに隠れ里にまで、辿りつけない。トラップはいくつかあるが、近道が有る事を思い出した。クラピカと口論になる。

 いきなりクラピカが膝を折って景色を見渡す。なるほど。記憶と景色が違うのか。12歳の目線に戻す。おもしろい考えだ。前置き無く、いきなり行動に移すのは、自宅に帰って来た、我が家モ−ドに成りつつあるってこと?ねえ、クラピカ・・。今、何を想っている?

「まさか、この二人で戻るとはな・・」

ひとりごと?
聴こえるようにつぶやいた。声の主は、空を仰ぎ見ていた。
すごい。
ここでは携帯も圏外、あらゆる機械は磁気嵐の影響を受ける。それを、クラピカは、峰に掛かる雲、木々の落とす影の長さ、風の温度でなんでも解るみたい。遅れ気味の時間を取り戻すべく、ペ−スがあがった。クラピカがレ−スのカ−テンを静かに開けるみたいに霧を除けた。身体ごと、山に預けている。そこに居るのに、まるで手を伸ばしても空を切るんじゃないかって思えるほどの絶。それは、拒絶の絶じゃなくって、同調とか調和に近かった。
(見つからないわけだ)・・・あの日、クラピカは何処に居たのか?決して答えてはくれない、素朴な疑問が浮かんでは消える。



















 ウツギ?それにアグロステンマ・・低地に生える筈の草花が、こんなところにも。それに、この葉の名を私は知らない。なんということだ。こんなにも、生態系を壊している原因は何だ?
 微かな声に抱えられるほどの足元の石を除けると、マツの実からかすかに発芽しているのを見つけた。上空から吹きおろしの風にここまで飛ばされたのだろう。発芽の条件が揃ったが、石が邪魔をして頭を上げられないでいたのだ。私の耳が竜のそれに近づく。私の目は既に里を捉えている。
(たいりょくがない わたしを あるべきところへ)
(おおせのままに)
木々の精霊たちが、私の足元に集まってくる。それは風になりサワサワと吹き付け、私の身体をひとまわりするとフワリと浮かんでは消えた。『地』『緑』『風』まずは3つの門をくぐったことになる。ここでアカマツの道に進むか、沢の道へ進むか、クロロと口論に成った。耳が痛い『磁』が私を拒んでいる。いや、私が連れてきたクロロをだ。
(しずまれ わたしだ)
髪をダガ−で切り落とし、麻ひもの撚りに挟んで結わえる。紅葉のY字の実をクルクルと落とす童子の野遊びの様に。沢に投げ入れる。霧が晴れ、視界が開けた。『磁』『水』の門が開いた。
(いいかげん きがつけ)行く手を遮る小枝を手折る。風に折れたのと人に折られたのでは音が違うのだろう?この音域は、ハッキリと聴こえる、そうだったな?「パキッ」という乾いた音と共に、キラキラと精霊が舞うのが見える。吸い寄せられる様にカケスが肩に止まった。羽を休めた場所が、私の肩だと知ると、大慌てで地面に降りた。
(かまわないよ)
(もうしわけありません もったいない なにか おやくに?)
(いや ここまでくれば だいじょうぶだ)
羽がもげるほどの勢いで飛び去った。慌て者だ。
誰のダイモンだったのか、どうしても思い出せなかった。ああ、カケスは偵察?そうか、余所者の前では、姿現しは禁止だったな。


 クロロは、文字通り、私の家に、土足で、ガンガン踏み込んでくる。だが、ここからは許さない!私は今日、はじめてクロロの目を見た。1 2 3 よし、捉えた。
【紫】 発動
右手の薬指、ダウジングチェ−ンの先で地面に曲線を描く。一本の線は、やがて描きはじめの軌跡と繋がった。クロロを囲むように小さなエリア、その足元は波打ちヤツの足首まで地面に埋めた。
『見たら、殺す』
これ以上、ひとことも、クロロにくれてやる気も無かった。







 私は、盗掘され、荒れ果てた それを・・・・見た。



 辺り一面が赤く染まる。
ドクドクと心拍が踊る。【紫】の発動の後の緋の眼だ。そう長くは変われない。
目を閉じ、神経を尖らせ、クルタの言葉を。
私の半身を呼んだ。

(小竜!)
















 独りで帰ってきやがっただと!?



 どこをどう走ったのか、覚えていない。気が付けば、クロロの襟元を鷲掴みにしていた。
「待て、慌てるな」
盗賊の極意からファンファンクロスを出した。まるで、トトロが木の葉でドングリを包んでいるような、そんな大きさだ。包みを開けた途端、ピカがバサリと踊り出た。ばっ馬鹿な!なんてことしやがる!
 クロロの汚い腕から俺のピカを奪い取った。


 302に戻り、ベッドに横たえる。
 息は?   脈は?  時間軸のゆがみは?


生きているのが不思議なほどだった。欲しがらなければ発動しない黒の円が、発動した。ああ。欲しかったのだ。








 しばらくしてピカに言われた。




「これで。3回だ。 私が欲しい時に貴様が居なかった回数だ。  ・・・次は無い、そう思え」

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