短編   風の舞

□風の舞 ・ 麦・虹
1ページ/1ページ



 ガシャン!突然。弾かれた。
 
 灰色の鳥の雛が、レーザービームのような直線的な鋭い速度で、天井にぶち当たり勢いで床に弾き返され角度をかえながら壁にテーブルに椅子の角にオーディオラックに。ガラガラッ!爆竹のような破裂音に混じって、ギシギシとも聞こえる。それ自体の叫び声のような。パネルスイッチが入り、部屋の照明が点いたり消えたりする。

「おいっ!キルア、なんとかしろっ」

「知るかっ?!触って良いのかもわかりゃしない。おっさん、クラピカに当たらないようにしてろよ!」

「やってる。っ全く、何なんだ!?」

窓枠のブラインドにガシャンと突き当たったのを最後に、奇跡的にソファに着地し、静まった。





「・・・おいっ?」

 かなり抑えた小さな声で、キルアがオレにソファを見て見ろと手振りをする。目で追える速さではあったが、その不時着地点は、クラピカの足付近。微妙に毛布が膨らんでいる。

 一歩、足を踏み出す。   
           そいつがつつっと30cmほど移動する。
 あたりをつけて毛布ごと押さえる。
           膨らみが消えた。
 一瞬、手に感触があった。

「うそっ?」
           
「あ〜下手っ!」 キルアの鋭いツッコミが入る。


 











 けたたましい音が止んだ。

 足元から、じわり。温かいモノが私の中に流れ込むと、『もう大丈夫。起きろ』と言われた。

 目を開けようとすると、『閉じたまま、聞け』 と。

 私は、声の主の心当たりを探りながら、しだいに毛布のぬくもりに負け、まどろんだ。 『黙ってて』 
 
 私は、コクリ、ひとつ頷いた。

 












pppppppppppp

「何っ?今、取り込み中〜」

 イラッとした顔をしながらも、キルアが応答する。ゾル家専用通信機には最速で出なければならないらしい。
 軽く、竜巻が去ったような(天井は破られていないが)部屋を見渡し、特にPC周りの被害を案じる振りをしながら、キルアの話しも注視する。(こっちはいいから、クラピカ看てろって)わかってると顔をしかめてそれに返す。

 クラピカの瞼が動いた。気が付いたが、瞼は開けない。タヌキを決め込んでいるってか。何か考えが有るのかも知れない。こっちも気が付かぬフリをしてやる。

「兄貴が円を止めた途端、こっちは室内限定〜爆竹大会だったよ。何?」

「何で、その二人が?」

「ああ。わかった。適当にあしらうから、そっち、ヨロシク」

p



「何だって?」

「それがさぁ〜」


 ジッ・・ポーン♪

 玄関チャイムのパネルにもさっき当たったのだろう〜ありえない音がした。確かめるが、液晶画面は真っ黒なままだ。どうやら、破壊されたっぽい・・・。

「もう〜き〜る〜あ〜?入るよっ」  ゴンの声だ。

「オレの部屋なのに、キルアったぁどうゆうことだ?」

「お邪魔しま〜、あっ居たんだレオリオ。こんばんはっクラピカっ!?大丈夫?」    ダメだ、聞いちゃいない。
「あのね?クリスマスの定演が近いでしょ?どうしても頼みたいことがあって来たんだ。途中で、ものすご〜い黒い円が張ってあってね、通行止めを食らっちゃった。あ、でもそれキルアのお兄さんでサ、おれ、話だけしか聞いてなかったから、はじめましてだったんだけど、あんまり髪がきれいだったから、てっきり女の人かと思って出来る限り丁寧な言葉で喋ったの。そしたら円を解いてくれてキルアならここに居るよって。で、この部屋、すっごいね?どうしちゃったの?」

「ゴン。お前さん、喋る時にゃ〜ちった〜息継ぎしろよ」

「ごめんなさい。なんか、みんなにいっぺんに逢えたから嬉しくて早口に成ってるって自分でもわかっ」

 ボカッ!   キルアが止めた。(ナイス!キルア)

「痛〜〜」   キルアを睨むが、本気ではない。


 一呼吸置いて、キルアが引き継ぐ。抑えた低い声で。


「ゴン。聞いてくれ。今、おれ達、何かすばしっこいのを捕まえようとしてた訳。兄貴が円で囲って、もう少しだったの。お前たちのせいで失敗」

「お前達って、おいおい?オレも入るんかぃ?」

「入ってきなよ」   キルアは入口に目をやる。

「やあ」


 ソファにクラピカ。横にオレ。ダイニングテーブル傍にキルア。椅子に腰かけたゴン。そして、もうひとり入って来て、部屋は満員状態だ。


「ヒソカ!」










♦♫♦・*:..。♦♫♦*゚¨゚゚・*:..。♦

【お知らせ】


 最終話の前に、クリスマスバージョンとなります。
ちょっと楽しくお届けいたします。短編集 「月の詩」に「聖夜に」を加筆。よろしければどうぞ。(キャラクターごちゃまぜでお届けいたします)











♦♫♦・*:..。♦♫♦*゚¨゚゚・*:..。♦ 【 虹 】♦♫♦・*:..。♦♫♦*゚¨゚゚・*:..。♦


「ああ〜♡それ。マジックでもよく使われる手だよ」

 ずけずけと、当たり前のようにソファの肘掛に腰を下ろし、一度足を伸ばしてから組む仕草を流れるように行ったヒソカが、言葉が終わると同時にキルアに眼をやり、ピタリと動作を止める。
 
「例えば?」  言葉のとおりの表面だけを素直に耳に入れゴンの興味がマジック話に向けられる。既にゴンの中では、話の続きが聴けるものと確定していて、興味のあるモノへ耳の角度が動く獣のような集中ぶりだ。

「ゴン。お前さん、何か別の用事で来なかったか?」

「あ。相談っていうか、絶対手伝って欲しいから、もう、段取りはついていて、あとはクラピカを引っ張って行くだけなんだけどね?でも、今、こんなだし、ちょっとぐらいヒソカの話を聞いてもいっかな〜なんて。ヘヘッ」

「なんだそれ」

「ゴン。おっさん。ちょっと黙ってろ!」

 キルアがヒソカの言葉の裏を読もうとしている。顔や態度には一切出ない、お互いにポーカーフェイスで。視線の先を追う。
「つまり、かく乱って事?」

 ヒソカは返事をしない。これは、先ほどの、ちょっと黙ってろに引っ掛けている。否定もしていない。つまり正解。

 キルアとヒソカが俺の部屋で、いきなりチェス盤無しの頭脳戦を始めやがった。それは、ついさっき、おちゃらけていたゴンにも伝わった。次はヒソカの番だ。

「イルミが円を解いたのが、絶妙なタイミングだったね?」

 クラピカの肩が動いた。毛布から手足が伸び、いよいよ起き上がるか?オレの角度からは金糸で隠れ表情は分からない。

ppppppppppppp

「何?」

 クルリと受信機側に上目遣い。キルアの表情が変わった。

「・・了解」

「何て?」

 緊迫した空気が緩む。

「流星街の薬売りのババァが、数を間違えたんだと。おふくろん所へ、抜き取られたと同じ数が追加で遅配済みって」

「はぁっ?!」 黙って聞いていたが、思わず出た声がデカかった。

「何で、レオリオがそんなに驚くの?」

「いや、何でも無ぇよ、ゴン」

「間違いって、誰でもあるでしょ?揃ったんなら良かったね、キルア」

「・・・あ〜っねっ?」

「ちょっと、いいか?」

「いいよ✩別に・・」  ヒソカとキルアが席を外した。













「心配をかけたみたいだ。すまなかった」

 いつの間にかソファにクラピカが座り直していた。久しぶりにコイツの声を聞く。たしか、その前は「アールグレイ」しか言っていない。それに比べれば、かなり長ゼリフだ。耳に届く少しハスキーな落ち着いた低めの発音が心地よい。ゴンとオレがキルアの後ろ姿を見送る、視線をクラピカから放したその一瞬に、まるで最初から座っていましたというような凛としたいづまいだ。部屋をぐるりと見渡す。クラピカの中で、状況の把握、起きぬけの作業だ。これをこの至近距離から見られるのは、儲けもんだと思う。(キルア、残念だったな!へっへっ)

「時計はあっているぞ」

「何それ?」 ゴンが割り込む。

「あ〜。クラピカの癖だ。起きたら時刻を聞く」

「あーそーなの。なんかムカつく。クラピカのこと知っていますみたいな、その言い方」

「月がきれいだぜ?」

「・・そう・・・か」

「何なのそれ?訳わかんない・・」

「月の満ち欠け、オレにはどうでもいい事なんだが、クラピカには重大な事なんだ」

「えっ・・?」クラピカがそれは何だ?とマジで問いかける。

「うっそ。お前、それも忘れちまったのか?あんたら、バンクルが外れても、月と地球みたいに引き合う仲じゃ無かったのかよ?」

「バンクル・・月・・引き合う」

 クラピカがグシャグシャと両手で頭をかきむしる。苦しそうなその様を見かねてゴンが割り込む。

「ねえ、クラピカ。お願いがあって来たんだ。これを見て」

差し出したのは、一冊のフルスコア。かなり使い込んである、右下のスミはクルンとめくり上がっていた。

「実は、急いでいるんだ。コンサートが迫っていて・・。初見で出来るの他に知らないし。オレたちを助けてくれない?」

とりあえずというか、ゴンに差し出されたから、流れで受け取った感じだったが、一枚、表紙をめくるクラピカだった。もう、月の満ち欠けで頭をグチャグチャにしていたそれとは違う。高音から低音部まで縦割りの音符の羅列。ゴンの言葉がその耳には届いたのか?

 カサリ

 パラリ

 しばし、紙をめくる乾いた音だけになった。


 集中している時のクラピカは横顔も違う。やがて最後のページになり、総譜の後ろ表紙が閉じられた。おもむろにクラピカが立ち上がる。一瞬、グラリと身体が傾いたように見え、慌てて腕を掴んでいた。オレの腕を労わるようにそっとポンとたたく。(大丈夫だから)が伝わる。手を解くとピアノの方へ足を向けた。

「レオリオ、ピアノ買ったの?」羨望の、いや、驚きの目。

「バカ言え。レンタルだ、ゴン」小さな見栄や嘘はゴンには通じない。

「んだよね〜♪」

「っていうか、こんな暮らし、どうせ期間限定の気まぐれだろうがっ?!所詮、クラピカの気持ちは、ここには無いんだから。羨む相手、間違ってるって、キルアに言っとけ」

「複雑だね。大人って」

 おいおい。
そんな、簡潔な一言で、済ませてくれるなよゴン。

 

 しばらく、ピアノの置いてある自室に篭っていたが、10cmほど戸が開くと、ゴンを呼んだ。

「入れ」

「おじゃましま〜す♪」

 子犬のように呼ばれた部屋へゴンが吸い込まれた。




 待て。クラピカから、離れるな、と、黙れ、は、もういいのか?兄貴の円が解除され、その兄貴の連絡でキルアとヒソカが退室。クラピカが回復し、ゴンにピアノを聴かせている。

 次に何時、チャンスが巡ってくるとも限らない。っていうか、あの怪しい薬を、とっととこの部屋から葬った方が身の為だ。もう一枚の持ち主、チュワにも連絡を入れるべきだろう。

 悪巧みをするには、考える時間が足りない。オレは、正直、焦っていた。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ