短編 風の舞
□風の舞 ・ 花
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レオリオの部屋。
ダイニングテーブルの上に、茶封筒が一枚置かれている。絶対に中身を見ないという約束で。でも、何が入っているのか、わかってるみたいだった。集まったそれぞれがこの中身について「ヤク」とか「ソレ」とか「ソンナモノ」って呼んでいる。正しい名前が何なのかは誰も知らないみたいだった。
やんやと騒いでいる中で静かに背もたれに深く腰掛けていたクラピカが、一同が見守る中、フッと軽く息を吐きながら立ち上がる。
「レオリオ。すまないが、人払いを頼む」
「はっ?」
それにイチ早く反応したのはキルアだった。おれに目配せしながら、レオリオにわかりやすく「ハイハイ。わっかりましたよ〜」と退席する。「ゴン、説明してやれよ」と、言い残し、スチュワートという人がレイチェルという恋人を伴って立ち上がった。
「何なんだ?ゴン、クラピカが呼んでいる、急げ!って言われたから戻って来てやったのに、今度は去ね(いね)とはどうゆう事だぁ?」
(そうか、レオリオは知らないんだ。保健医として学園に居ただけだもんね?)クラピカの顔をチラッと見る。説明は手短に頼むという顔をしたので、言葉を選びながら丁寧に喋ることにする。
「あのね?レオリオ。学園で能力テストがあっていたのを覚えてる?そこでの決まり事でもあったんだけど、他人の能力を見ちゃいけないの。例えば、おれが壁をバーンって壊す能力をもっていたとするよね?そこにレオリオが居たら、その能力が打ち消されてしまうでしょ?ゼロに成る位ならいいけれど、それを見られた上に、こっちはエネルギーを使うわで、すごく疲れるし損することになる。クラピカは、優しく、今から能力を使いますってわざわざ教えてくれたんだよ?」
じっと我慢して聞いてくれていたレオリオが、クラピカの方を向く。視線を感じてはいるけれど、既にクラピカは精神統一に入っているみたいだ。椅子に浅く座り直し、背中を真っ直ぐにして息を整えている。
「大丈夫だよ。もう、キルアのお兄さんもヒソカも帰ったし、クラピカの大事な先生も、傍についてる」
「ええっ?」
「隠れているわけじゃないみたいだけれど、なるべくなら、レオリオに顔を合わせたくないみたい〜そんな感じがするよ。大人の事情はよくわかんないけどねっ?任せていいんじゃない?行こうよ。おれも今日は帰るねクラピカ。スコアはクラピカが持ってきて。練習日や場所なんかは後でメールするね」
ようやくレオリオも、重い腰を上げた。
「ゴン。戻ったら、クラピカが消えてました〜ってオチじゃないだろうな!」
焦りと不安。それから、ハッキリと嫉妬という感情が下っ腹から湧き上がる。それは、抑えれば抑えるほど、次には更にグングン強い力になる。自分の中で昇華しきれぬ感情を年少のゴンにぶつけている自分が情けなく、だが、それでも言わずにはおれなかった。
「ヤツは、何時からクラピカの傍にいたって?」
ある程度の愚痴は聞き流していたゴンだったが、やっと返事をする気に成ったらしい。やれやれという口ぶりで、
「最初から」
えー?!と言う声が思わず、息を飲み込むだけになってしまった。ゴンは続ける。
「あのね、上手く言えないんだけど、そこに心を残してあったよ。クラピカの傍に。じゃぁ〜触ったり手を繋いだり出来るかって言われたら、答えは”出来ない”だけどね。それでも、クラピカに降りかかる災難を出来るだけ避けたり、弱くしたり、それぐらいは出来たんだと思う。例えば、買い物の帰りに、いつもの道を通ればすぐなんだけれど、交差点で黒猫になってクラピカの興味を引いて回り道をさせたり、逆に出かける時間に部屋の鍵を隠して、1本後の地下鉄に乗るように仕向けたり・・そんな小さな危険回避をずっとしてきた・・そうだよね」
オレに話しかけていた筈のゴンが、いつの間にか手のひらに灰色の雛を載せて話しかけている。それは、あのすばしっこい奴だった。
「そいつ!?」
「えっ?レオリオにもちゃんと見えてるんだ。良かった」
「この子が、ずっと黙ってて、レオリオに対してちょっと怒ってるから〜大丈夫だよ、優しいから〜って宥めてたの」
「そいつはなんだって?自己紹介でもしましたかってーの」
「うん。グレって言うんだって」
「ほ、ホントかよ、まんまじゃねぇか」
「うん。まんまだって。お母さんはシロなんだって」
頭が痛くなってきた。いくら野生児でも、そこまで詳しくスラスラ語られると、自分が劣っているみたいに思えてくるから不思議だ。
パン!!
レオリオの部屋の方から、銃声のような乾いた音がした。
最悪が頭をよぎる。すぐさま取って返そうとすると、強く制止される。
「レオリオ。今はダメ。今だけは二人きりにさせてあげて!」