season 3 四季の国 

□暗闇 〜 捜索
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 『 注視していなければ暴走の危険があると、おそらく、もっと上から言われてしかたなく付き添っている 』

 感情を抑えられた低く静かな声が、いつまでも耳に残る。

 妙にストンと腑に落ちた。謎だった師弟のコンビ。つかず離れずの距離。

「お茶もいいが、出来れば軽く何か食べられないか?」

「その言い方、無理にクラピカ調にしなくてもよくてよ」

「そうか」

照れたのか、バショウが玄関から外へ出た。出かける為ではなく、バショウなりの気分転換、リセットの方法だ。階下まで降りて、再び上がってくる。それだけのこと。

「えっ?」

 油断した!賊の侵入をゆるしてしまったのだ。バショウが施錠せずに出入りすることを知っていたのだろうか。

 そう思った時には既に遅かった。出入りするのはバショウや仲間だと疑わないから、念など使わずニュートラルな状態だった。足音は別人ならばすぐわかったはずなのに。
 

 (データ!!)


 2台あるノートパソコン。データカードのチップを急いで引き抜いた。終了の操作をしている時間は無かった。コンセントに屈んで抜く一瞬も惜しい。行儀が悪いが、足でコードを引っ掛けた。



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「なあ、センリツ、おっさんが居ない間のセキュリティだけはちゃんと・・・えっ?」

 何だ?

 これ・・。

 PCや周辺機器のコードが引きちぎられ、むき出しになった線がスパークしている。(誰がやった?)
 青白い炎がまるでおいでおいでと手招きするように今来たドアに向かって吹いている。

 賊!

 狙いは何だ?

 センリツは無事か?

 殺るならここで殺っているはず。わざわざ連れて行ったのならば、今すぐどうこうということはあるまい。データをヤられたか?いや、待て、考えろ。咄嗟にデータを引き抜いて隠したのか?それとも持っているのか?隠したのならば線がスパークして火事になっては元も子もない。メッセージだ。持っているって事だな。

 【凝】

 日に何度も出入りする給湯室のドアの床から30cmの部分に殴り書きの念字を見つけた。

『CP優先で・・』

 センリツ。お前なぁ・・。Curarpiktと書く時間も無かったのだ。そうか、p'tと書くのははピカ呼びが許されているシャドウだけ、ならばとCPとした。しかも、パソコンのPCと掛けている。データカードはセンリツが持っていることが確定した。

 

 今、クラピカにセンリツの事を知らせれば、奴を放り出してこっちに戻ってくるだろう。だが、それは、他人に迷惑を掛けたくないというセンリツの一番嫌がることだ。特に、クラピカにだけは迷惑を掛けたくないと言ってもいい。
 しかも、俺様がクラピカにオッサンを追えよと促して出たばっかだ。やれやれ、ここは、ひとりで頑張りますか。

『お前を期待している』


 クラピカのつぶやきが沁みた。



 とりあえず、コンセントから、中途半端なプラグを引き抜く。焦げ付いた床に花瓶を花ごとぶちまけた。

「無事に帰って、センリツに散らかしたことを叱られてやるよ」

 フロアの電源をブレイカーから下ろし、上下どちらの水栓も力任せに固く止めた。ドアに鍵をかける。


「えいっ!」   鍵を空に投げた。




「くそっ。腹が減ったな」


 
 賊だって腹が減るはずだ・・。そんなことを思いながら、4ブロック先の地下鉄入口に来た。

 つかず離れずの距離で、俺と同じ動きをする気配を感じる。気のせいか?シャドウに似ていると思った。



 




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ジャドウが行きそうな場所の見当をつける。

仮宿からほど近いレーデルか、何でもアリの中核都市セントラル、いや、春に引き返した州境のニノア、その先は、今は列車では行けない・・山岳都市リノがある。

 『煮詰まるな、立場を変えて考えろ』

シャドウは日頃から拠点に円を張り、まわりの警戒を怠らない。

あの日はどうだ?

 影縫いを使わせさらに黒の円を張らせた。その上、無かったことにと次々に念を使わせたのだ。荒地の魔女似の大女のキャリーケースに形代を忍ばせ、駒の1つである香車を呼び出し不審な男を監視させた。戻りの運転も、私がしつこく代わると言ってもきかなかった。ピカ、お前、緋の目の後だ、寝てろと。
 私よりも、どれだけ疲れていただろう?甘えていた。護られることに慣れてしまったのだ。
 事実、今、ひとりでいることに、不安と恐れを感じている。

 リノ。

 そこに何が待っているのかわからない。
だが、根拠は無いが中途半端に終わらせられた
依頼者の、何らかの逆恨みか?香車という駒が何らかの作用をしているとしたら?
 自分から乗り込んで行ったのか?連れ去られたのか?
 鞘が呼んでいるから剣である私が向かうのか?自分でもわからない。

 リノ。

 無性に、その土地の名が頭に浮かぶ。

 行ってみよう。この感覚が、呼ばれているということならば、お互いに惹かれ合うという意味では、ペアの念としてかなり有効だ。
 ハズレならば、私はまだまだ鈍いというだけの話・・。

 今回は、レンタカーではなく、ハイヤーを雇った。運転手は現役を退いた女性のハンターだ。名は伏せられているが、毎回センリツが指名し、私の容姿も知っている。

「リノでいいのね?」

「なぜわかる?」

「ドタキャンした依頼を片付けに行く、そう顔に書いてあるわ」

「!?」

「それに・・・いつも一緒にいるお父さんを探しに行くのね?」

「おまえ・・」

「これは失礼〜私は黙ってお届けすればいいのよね?でも、貴方、もし、私なら、ただ後部座席に座っているだけの時間を情報収集にあてるわ。もっとも、私なんかの協力は要らないって言うでしょうし、私だって、危ない橋をボランティアで請けるようなマネはしないけど〜」

「何を知っている?」

「あら、それが他人にものを尋ねる時の言い方かしら?貴方、お父さんにな〜んにも教わらなかったのね。もう少し、大人にならなきゃ、いつもフォローに回ってくれる腰の低いお仲間にだってプライドはあるものよ」

「くっ・・」

 この運転手は、私を煽っているのか?いや、それだけじゃない、何かを知っている。でなけれは、後ろに私を乗せハンドルで手がふさがっているという密室で私を怒らせる意味がわからない。自分もフォロー班だろうが。腰の低い自分からは条件を満たさない限り発言できないのだとしたら?何だ?
 この女が言った言葉の中からキーワードとなりそうな単語を厳選する。

    「プリーズ」

    「よくできました」

 山道にさしかかった。


 

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