短編   夢のパ−ツ

□夢のパ−ツ  1
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「お前、自分の容姿に自信はあるか?」

半年の間、世話になった師匠の声が降ってきた。

「考えたことは、あまりないが。それがどうかしたのか?」

「いや。相変わらず華奢だなぁと思ってよ」

上体の角度を水平よりもやや上げた医療ベッド。両の手が届く、ひと尋分だけが、今の私の守備範囲だ。
 ここが何処だとか、動けるようになるには、どれぐらいかかるか?とかの問いには、すべて「心配ない」の一言で片付けられている。

全身の倦怠感と寒さから来る眠気に襲われ、度々意識を手放した。その都度、スタッフは、今、最善だろうと思われる手で私の心臓を止めない工夫を試行錯誤しているといったところだ。先ほどの会話を最後に、声が・・音が・・遠ざかって行った。

私はその時間、天井から自分と医療スタッフを見下ろしている。無音の世界。気持ちの良い浮遊感。痛みも無い。
ナゼ?ワタシゴトキニ、コンナニ、セワヲヤク?


「C 危篤 連絡 求む」

レオリオがホ−ムコ−ドにアクセスすると、緊急を知らせるメッセ−ジが点滅していた。





「まずは礼を言おうハンゾ−。おまえさんが、何の脚色もせず、直ちに、あれからの伝言をしてくれたことに対してじゃ。」
「いや、そんなことはいい。会長!クラピカはどうなんだ?」

「あまり、良いとは言えんのう・・。」

決戦の後、クラピカの師匠という男は、バショウにではなく、オレに託した。すぐに冗談をかましたが、目は真剣だった。(言葉のアヤ)男とネテロ会長の間での短い暗号かも知れない。クラピカがあんな面倒くせぇ暗号解読ごっこをするのは、少なからず師匠の影響だろう。

ハンタ−証を駆使し、最速最短で指示された場所に来てみれば、知った顔も何人かあった。当然、1番に駆けつけるだろうと思っていたレオリオは、会長の話では、どうやら反対側の大陸に居たらしく到着が1日遅れるらしい。
 心配ない?セキュリティには万全を期している?
何だか解らないが、この場所に着いてから気持ちが落ち着かない。なんだ?この空気は?
 試験中の飛行船の中で「面接」があった。今、それと似たようなことが行われているのである。ここに来る条件も気に入らない。1、他人との情報交換の禁止 2、念の発動の禁止 3、この場所の特定の禁止。  つまり、知った顔を見ても、話しかけることもダメ、知らん振りをしろってことだ。既に何人も会長との面談が済み帰り支度をしていた。




秘書、マ−メンは応接室から静かに飲み物のカップを給湯室にさげながら、おおまかな今後の段取りを立てていた。「君も、今回は連絡の手順とタイミングをいつもにもまして慎重に頼むぞ。」先ほどの会長の言葉。言われなくともあのクラピカの師匠を見れば・・。「何なりとお申し付けください」それは、心から出た言葉だった。自分はただの事務職、連絡係と線を引いていたマ−メン自身が、初めてチ−ムのメンバ−に入れてもらえたような嬉しいような不思議な気持ちにさせていたのである。
 
「少々厄介じゃが、あとは、サトツに任せてある。すまんが、他にもワシを呼ぶヤツがおってな。しばらく留守になる。戻ってくる時期をハッキリ言ってやれんのじゃ。」


「自分を責めても何の解決にはならん。頭を冷やし、見落としている事は無いか?それぞれの証言をもう一度、場所と時刻を整理してみよう。まだ、ダメと決まった訳ではあるまい。手品には、必ずタネも仕掛けもあるはずだ。幸い、心配して集まった者達は皆、パ−ツではなく、ひととしてクラピカを見ておった。」
パ−ツ と聴いて、下を向いて呆然としていた男の体がビクリと反応した。

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