短編   夢のパ−ツ

□夢のパ−ツ  3
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 念糸縫合を終えたマチは、ホテルのクロロの部屋から最上階のレストランに上がって来た。奥まったボックス席で先に食事をとっていたシャルを見つけると、あからさまに、そこかよっ!?という顔をした。抜群の眺望を誇る店なのだが、込み入った話をするには窓側よりもこの方が良いと思った気遣いは無用だったようだ。 さらに、待ち合わせの客の連れがようやく現れたことで、席につくやいなやオ−ダ−を取りに来たウエイトレスにもムッとしている。これは、マチが喋りだすまで待つのが得策と判断し、黙っていた。

「心ここにあらずって感じだねっ。 どうしたの?団長。」
運ばれてきたレアのステ−キをほうばりながら、ようやくシャルに話しかけた。
「どんな具合?団長」
「そりゃぁ、傷は深かったけどサ。・・それより、何だか、手違いがあったらしいよ。」
シャルは運ばれてきた食後のコ−ヒ−に手を伸ばしかけ、ふと止まった。
「何?それ」
「鎖野郎の師匠という男、かなりの使い手だったらしいよ。詳しくは自分で訊いてみるんだねっ。・・ここで、優しくしたら、なんて言うか、団長が変わっちゃう気がしてね。ク−ルなほうが好きだし。じゃぁ、私はこれで帰るよ。 ここの払いはシャル持ちだよねっ。」
「いいよっ。」
慌ただしい食事の後、目の前には食べかけのサラダと、間に合わなかったコ−ヒ−が、さみしく残された。




「うわっ。何やってるの?団長。」

そこは、部屋全体が映画館だった。訪ねてみると、黒いソファに深々と身をしずめ、オットマンにブ−ツごと長い足を投げ出したクロロが居た。

「シャル。分析しろ。」
振り向きもせず、一言。
(おおっ、久々の命令口調だ。やっぱり団長は、こうでなくっちゃ!)
本に収めた(盗んだ)能力の中から、見たままを録画、再生出来る能力を選び出した。今、目の前で突然、二人だけの特別試写会。いきなり戦闘シ−ンだ。

(へえ。鎖野郎、何にもしていないんだ・・。)
(この三下は完璧、捨て駒だねっ)
(ヒゲは火を使うのか)
(ハゲは常に団長の死角狙い。すごい機動力だ)

「ここからだ」
鎖野郎が団長の心臓狙いの一撃で身体をくの字に折り曲げて倒れこんだ。その瞬間、ヒゲとハゲのオ−ラが跳ね上がる!さらに、もうひとり、新たな男が出現した。一瞬、鎖野郎が分身したようにも見えたが、カンペキにオ−ラの質がちがう。

「今のところ、7秒前から、もう一度いい?」
「わかった」
「もしかして、スロ−再生とかも出来るの?」
「ああ出来る」

(何それ、便利だなぁ・・)
さらに凝視すると、団長の言う手違いの部分が鮮明に映し出された。バリアか?そこまでして鎖野郎を守りたいんだ。・・守る? 

「!!」

「これは、すごいよ!こんなの初めて見たっ!」
「何だと思う?」
「まだ、ハッキリとは判らない。 でも、団長これ欲しいでしょ?」
「・・そうだ」




実は戦闘開始時にはそこに居たのである。ぴったり影に成りすまし、隠遁。まるで影武者。 表向きはクラピカが王子の様に家臣を胆ひとつで支配、操作しているのではないか?と見まごうほど。しかし王子自身の気があまりに希薄。とすれば、クラピカははじめから弱っていたと考えられる。なぜ?そこまで落ち着いていられるのか? 影の男への絶対的な信頼感?
「師匠!」
師弟関係か。ほう・・うらやましいほどだ。

ところが、運悪く、必殺心臓狙いを食らう。寸での所で命を獲られるよりもマシと考え、クラピカの一部を代わり身として差し出す。(確かに手ごたえはあった)何を?と、考えている時間は無い。眼は鎖野郎の命だからダメ、手足は困る、「それ相応の何か」を差し出し、ヤラレタ振りをした。しかもこの男、タダではやらず何かの能力を毟り取っていきやがった。なんという執念。
おもしろい。
何を差し出し、何を獲っていった?






「盗賊の極意」を仕舞いかけた時、クロロは気付いた。予知の念が消えている。あのネオンという娘は死んだのか。まあいい。 もうひとつ消えていた。ほんの初期の頃のペ−ジだ。これか。「特定の相手の脳に直接話しかけることが出来る」スカだな。聴いた相手が気のせいだと無視すれば何の役にも立たない念だからな。 それで、何を差し出した?ここに収まっているとも限らないが・・・。


「Curarpikit's  voice」


クラピカは突然、簡単なテレパシ−を手に入れた。声を犠牲にして・・。つまりヤツは今、喋れない。
誘い出す理由は十分だ。
まてよ。ヤツの念には条件があったはずだ。鎖を刺す前にごちゃごちゃ言っていた。つまり、喋れないのであれば、無効!
ほう。 命は助かったが、声を無くし止めの鎖が刺せない状態か。その前に、精神的苦痛による鬱か?助けてくれた師匠には打ち明けられまい。あの容姿だ。声を出さないのであれば商品価値はさらに上がるだろう・・。自爆だな。生きているが、既にそれは人形か。見てみたい。

「捕獲だ!殺すな。無傷で連れて来い。」

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