短編   Michael

□Michael 1
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古びたアパ−トを二部屋、正規の契約をし、借りた。めずらしいことだった。

クラピカは誰の目から見ても病人であった。実際、長距離の移動は無理だった。 そこへ、高気圧と低気圧がせめぎあい、季節の変わり目の嵐が来るのだという。飛行船は欠航になり、しかたなく最後の便だというフェリ−に乗船した。沖に出ると海は荒れ波のうねりも高かった。 目的の都市の手前、小さな港町に停泊し3時間後に再び出港する。20分前までに戻れば良いとのアナウンスが流れた。乗客たちは、我先にと下船したがった。アクシデントが発生した。 船酔いで真っ青だったクラピカをデッキに出し、外の空気を吸わせていたのだが、突風にあおられ海へ落ちてしまったのだ。幸い、船員と団員によりただちに救助された。たまたま乗り合わせた船医により、テキパキと手当てが施された。 アジトまではまだ遠かったし、不衛生な所だ。無理に戻ったところで何も良いことは無い。
 「わたしたちは起業を目指す仲間で適当な町を探している。今回は長いこと入院していた、むかしお世話になった恩人の息子を迎えに行った帰りだった。ようやく退院したのに海に落ちるなんて!」と、シズクの名演技により、(無傷で、と団長の命令を守れなかった時の仕打ちを想像していたのだろう〜真っ青だったし、必死だった)それならば、と船医の姉が大家をしているアパ−トを紹介されたのだった。
                                                                       大家のス−ザンは身体の大きな女だ。10年ほど前に夫を海の事故で亡くした。息子は独立し遠くで暮らしている。1階を自分の住まいとし、2階を貸部屋に、3階は船医の弟がたまに帰省する為の部屋だ。先月、2階の住民が隣町へ越して行ったのだと言う。金髪の病人は、動かせそうもない、とてもショックを受けている。しばらくおいてくれないか?と、久しぶりに帰省した弟の話に心底同情し、破格の条件で2階の二部屋をさしだしたのだった。 








 これから冬をむかえるこの土地には、数年前の仕事帰りに通り過ぎただけで、悪さをしていなければ、知人も居ない。  眼下に広がる北の海と背後に迫る低い山との間に、へばりつく様に民家が建ち並んでいる。交通機関は発達している。飛行場も近いし一般道も広く整備されている。港は2つの湾に分れ東の湾は魚市場、西の湾はコンテナ貨物の積載場だ。市場からすぐ南の山を通るハイウェイを使い、新鮮な食材が各地へ移送される。コンテナ船からトレ−ラ−に乗せ替えられた荷物も同様に。 マチが言うには、「これで、駅ビルに、お洒落なデパ−トでもあれば文句ないんだけどねっ」たしかに。
しかし、子どもが学校に通うのは遠いらしい。朝は早くから出て、学校が指定した停留所まで行き、そこからスク−ルバスに乗っている。放課後は街の学習塾、あるいは習い事を済ませ、夕方か夜遅くになってから親が迎えに行く、というのが一般的だ。しかし 市場の荷揚げの関係で、学校からの帰りのスク−ルバスで最寄のバス停で降りたとしても、家に誰も居ない子ども達がいる。ス−ザンは、アパ−トの一室、昔、子どもが小さかった時の部屋を一時預かり所として開放していた。 実際、13歳未満の子どもだけで留守番をさせることはこの国では違法であるし、みなが忙しくしている夕方ス−ザンは、自分は独り身なのだと思い知る寂しい時間帯でもあった。子ども達には、敷地から出てはいけないこと、火遊びをしないこと、迎えが来たらス−ザンの目を見て挨拶をすること。この3つだけを守らせ、他は自由にさせていた。     突然現れた不思議なご一行にもフレンドリ−に寄って来る無邪気な子ども達だ。それぞれが適当なことを話しては、つじつまが合わず、嘘つきな人達と呼ばれてしまう。団員らは、怪しまれぬ程度に表のバイトをしながら滅多に無い正しい生活が始まった。

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