短編   色硝子

□色硝子  3
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「花は好きかぃ?」
「はいっ!」

雨上がりの石畳がピカピカと光っている。どうやら天気も回復に向かう様子だ。学生街に続くなだらかな坂道を上る途中、 バイト急募、短期可  の貼紙を見つけ、マチはこの店に決めた。(雇うかどうだか決めるのは店主だが)

「学生さんだねっ?三日先の予定までは必ず連絡すること。実習のある日はバイトは免除だよ。あと、軽食だが、夕方は出るよ。コンビニは坂を上りきったところにあるからね。いちいち歩いて往復していたら疲れてしょうがないだろう?それぐらい付けなきゃ、今どきの学生さんは続きゃしないからねっ。エプロンは店のを使うといいよ。仕事は主に水替えと掃除、配達に店のもんが出ている時の電話番だよ。出来そうかぃ?」
「よろしくお願いします」
「OK。携帯と名前だけ、これに書いておくれ」
「ハイ」
「マチルダさんって言うんかぃ?」
「ハイ」
「今日は、この後、予定はあるのかぃ?」
「い、いいえ。まだ、何も。私、編入で来たばかりなんです。実は部屋も探さなきゃいけないんです」
「そりゃまた、大変じゃないか。どうりで、金髪はこの辺りじゃ珍しいからねっ?ここに編入とは、すごいじゃないか」
「ええ。まぁ。ありがとうございます。今日、急には決まらないだろうと予想はしていたんです。バイトを先に探して、友人の部屋にお邪魔しながらゆっくり探そうかと・・。だから、荷物も後から送るつもりで、最小限なんです」
「この辺は学生向けのアパ−トは多いんだけどねっ。女子は寮が基本だよ。女子向けのアパ−トだと、セキュリティの基準っていうんかぃ?いろいろ付けなきゃならないから、その分、家賃も割高だよ。ル−ムシェアっていう手もあることはあるんだけどねっ?」
「そうなんですか・・こまったな。・・その、シェアの方向で、どなたかお知り合いはいらっしゃいませんか?」
「そうだねぇ〜〜。見た目よりも真面目な子はひとり心当たりがあるけれど。・・残念ながら、男の子なんだよ」
「そうなんですか・・」

そこへ、坂道を下ってきたひとりの学生がマチの後姿を見て、こちらに走って来る。

「クラピカッ!?」

ぱっと振り返ったマチを見て、人違いだと気付く。一瞬、残念そうにしたが、すぐに復活した。

女の子だった。当然クラピカよりも背が低い。サラサラの金髪は、かるく肩まで届き、前髪は無造作に分けているが、目にかからないギリギリの長さ、キリッとした気の強そうな目。瞳はクラピカとそっくりな深い紺。マスカラは、いやみにならないほどの自然な付け具合、シャドウは知的なシルバ−グレ−、上品でかなり頭が良さそうな顔つきだ。印象的な目元の他はナチュラルメイク、口紅ではなく、おそらくリップクリ−ムにグロスをプラスといったところだ。

視線が痛いナ、と感じたその時、店主があわてて口を開いた。
「おやまぁ!レオリオ。ちょうど良かったよ」
「こんちは。 あ、びっくりさせてすみません」
おっ?バストは、程よい大きさだ。
マチにあやまる。下を向いた時、明るいブル−のパンツから出ているほっそりした足首を確認。いいっ!かわいぃ!
「って、何がちょうどいいんですか?」
「いやね、この子、バイトの子。マチルダって言うのよ」
「よろしくお願いします」マチは、満面の笑み。

秒殺。

「はぁ・・こちらこそ」

「レオリオ。あんた、実験で泊り込みが多くなったんでしょ?ル−ムシェアの話は、まだ生きてるよねっ?」
「はい」

かくして、マチルダとレオリオの同棲生活が始まった。




 






「クラピカッ!?」 そう、呼ばれた。初日からビンゴだ。このレオリオという男の念のタイプを思い出す・・・私が覚えていないってことは単なる一般人か。とりあえず、部屋を見てみっか?と案内された。

 男の独り暮らしにしては、突然の訪問に耐えるほどに綺麗にしている。 アパ−トのオ−ナ−が何でもジャポンの少女マンガNANAに影響され元々の建物を改装したらしい。但し、マンガのように左右対称とはいかず、リビングと水周りをはさんで大小の二部屋になっている。土地は縦長の狭い通路の奥にやっと建てた、いわゆる旗竿地。おまけに坂の上ときている。条例による高さ制限の為、5階建て。その403号室、なんとも中途半端な・・。そこにエレベ−タ−無しっという所だけはやけに忠実に再現。一言で言えば「不便でわかりにくい場所」だった。
 良いところは、大学の学部も学生も外国人も多いこと。ここにマチひとり増えたところで、誰も大騒ぎしない。田舎の港町にミカエルが現れた時とは大違いだ。これはとても助かった。

「先輩と住んでいたんだが、卒業したし、俺も学年が上がると実験やなんだでル−ムメイトを探すのがズルズルになっていたんだ・・」

わりにスラスラ喋ったが、直感で(嘘だ)と思う。

「こっちの狭いほうの部屋なんだが、見てみっか?」
促されて、部屋を見、確信する。家具も先輩が置いて行ったのではなく、多分、レオリオ自身で誰かの為に揃えた、そんな部屋だ。女か?いや?そんな色合いでは無い。華やかさよりもサッパリと清楚。リネン類は学生にしては良いものを使っている。
マチは黙ってレオリオに従いリビングの先へ進む。
「ちなみに、オレの部屋はこんくらいの広さだ」

医学部なのか?やたらファイルと本、それに服が多い。
「わぁ。恥ずかしいです」
一応、そう言いながら、ざっと家具の配置を頭に入れる。壁につけた片袖の平机。引き出しの一番上には鍵がかかる。ここか?クラピカのハンタ−証と携帯を獲って団長がアジトに戻る前に、何食わぬ顔で、そこに居なければならないのだ。
 パソコンは、これこそは先輩のお下がりと言っても信じてやろうじゃないか。3つほど前のデスクトップだ。横から伸びている携帯の充電器のコ−ドを見逃さなかった。それとは別にスタンドと繋ぐタップからもコ−ドが伸びていた。個人で2つのメ−カ−を使うだろうか?クラピカの分を充電していたと考えられる。だとすれば、携帯のほうは案外早く手に入れられるだろう・・。



「どうした?」
レオリオが心配そうに顔を覗き込む。
「いや、何でもありません」
「あぁ、ベッドがデカイって?オレ、こんなだから」両手を広げてみせる。まぁ、フランクリンほどは無いが、かるく190cm超えといったところか。一応、納得しておく。 
 レオリオが先輩、もしくは誰かと住んでいただろう跡は、そのつもりで見ると部屋のあちこちで見つかった。小さな食器棚にはラピスラズリのブル−に金の縁取りのマグカップがあった。
「わぁ!綺麗なカップ」
(かまを掛けてみる)
とりあえず、コ−ヒ−でも・・と、キッチンに向いていたレオリオが反応した。
「あぁ。・・それは・・ちょっとな」
そう言って、マチにはピンクのストライプのカップに注いで渡された。
「で、どんなもんでしょう?」
シェアOKか?という質問だろう。
「レオリオさん。試しに3日間。住んで見て、お返事はそれからでいいですか?」
「それもそうだな。さすが、頭イイなっ?なかなか良い提案だ。いきなり男と住まなくったって、寮をあたってみるとか、3日もすりゃぁ、仲良しの友達だって出来るだろうかんな」
「では、3日間。よろしくお願いしま〜す」

3日のお試しと聞いて、レオリオは何だかホッとした様子だった。そして時計を見、
「じゃぁ、オレ今から研究室のウサギ当番だから戻んなきゃなんねぇんだ。それぞれの部屋には鍵が掛かるようになっているから、リビングとそっちは気にせず使ってくれ」
玄関の鍵と小さい部屋の鍵を渡すと、バタバタ出て行った。



すっかりレオリオの気配が遠くなったことを確認し、マチは自分の携帯を取り出した。
「ああ。シャル?団長は?」

「マチか?ちょうど良かった。今かけようと思ったんだ。団長、まだ戻ってないよ。 寄り道するって言ってた。 でも、気をつけて」
「何で?」

「マチの場所と近いんだ」







「へえ・・この仕事、クラピカが依頼主なの?」
「ヒソカ、気合い入るでしょ」
「まぁね☆」
「連絡は?」
「それがサ、あんまり無いからこちらからしてみたんだ」
「そしたら?」
「違うヤツが出た」
「ふぅ・・ん」


 汗ひとつかかず、眉ひとつ動かさずにあっさり、タ−ゲットを遣った。トリックタワ−を背に完了の報告。本部のマ−メンという男にしてくれ、という依頼だった。淡々と報告を終える。
ヒソカがむずむずしながらとうとう口を開いた。

「そろそろ、教えておくれよ▽」
「あ、金髪の子の話?」
「気になるんだ」
「そう」
「一応、これでも同期だし。細いくせに無理してるところが、たまらなくイイんだ★」
「まぁ。見た目で判断って奴、多いからねっ?」
「それで?」
「ああ。わかったわかった」

今回の報酬はクラピカの情報でいいと言うヒソカに、イルミは大サ−ビスで一言二言、言葉をプラスしてやった。

「これを聞いて、ヒソカがルクソに向かうかどうかは任せるよ。あっちは今、寒いからねっ?ただの行き違いや、待ちぼうけもアリだよ。 あ、それから、情報提供はオレってこと伏せてネ」
「了解」
「じゃ、またね。ヒソカ」

「サンキュ*イルミ。また」

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