短編   色硝子

□色硝子  5
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・3日目
 夕方だった。
「で、どうする?」
なぜか、そわそわしているマチルダを4日目に突入するのか?シェアごっこは終わりにするのか?話し合いをしようと、リビングの椅子に座らせたところだった。

「カチッ」  という玄関のドアが開く小さな音がした。・・・しばらく無音。

この感じは・・まさか!

「ちょっと、まってくれ。頼むからじっとして。声を出さないで!」というジェスチャ−をした。
ただならぬ様子に、マチルダもうなずく。





玄関のドアノブを握ったまま、クラピカが立っていた。
下を向いている。

ジャポンびいきのオ−ナ−の嗜好で、靴はここで脱ぐシステムのアパ−トだ。

何も言わず女物の靴を見つめている。

「クラピカ?」

呼ばれて、ゆっくりとレオリオの顔を見上げた。正真正銘、本物だ。その瞳は紺碧。うっすらと涙がにじんでいたが、一度ゆっくり瞬きをすると、ウソのように氷の視線に変わった! そして、まるで他人が、部屋を間違えただけだ、とでもいう素振りで向きを変えた。
(じゃましたな!)
今度は、ハッキリと、レオリオの頭に直接声が響いた!

 今、夢にまで見たクラピカが風のように目の前から居なくなる。レオリオは4階から駆け下りた。滑るように先に降りていくクラピカには、どうしてももう少しのところで追いつけない。通りに出る通路まで来ると止まるかと見せかけて、振り向きざまに鎖を繰り出した!
 シュルシュルッと螺旋を描く不気味な音。生きている蛇のようにぬめぬめと光る。レオリオの左胸を直撃!殺意すら感じた。
(来るなっ!!)
その瞳は既に緋色。  激昂。  全身から出されるオ−ラは、レオリオにも見えた。 ものすごい錬。これほどまでに本気でキレたのを、見たことが無かった。
 全身で拒絶され鎖まで出され、あまりの衝撃でその場にひざまずく。



「誤解だ!クラピカッ! 行くなっ!!」

クルリと背を向け、肩を怒らせ歩き出した。

「行くなっ!」 (行くなっ!オレのクラピカ!)

一度も振り返ることなく、大通りに歩みを速める。
通りに出た途端、バサッと黒い影がクラピカを攫って行った。
(旅団!?)


はっとして急いで部屋に戻る。
マチルダの姿も綺麗に消えていた。・・無理も無い。
元、カノジョが登場したと、こちらも勘違いしたのだろう。
!?
オレの部屋が開いている!

しまった!

クラピカのハンタ−証と携帯が やられた!





呆然自失・・。守るべきは信頼。失ったものの大きさに愕然とした。

レオリオは、ベッドに長々と身体を投げ出した。

目を閉じると、脳裏に浮かぶのは、ハンタ−試験の時のクラピカ、ヨ−クシンのクラピカ、カプセルの中の標本のようなクラピカ・・いろいろなシ−ンがフラッシュバックする。しかし、最後に見た緋の眼のクラピカは壮絶だった。
 どうやって、どんな気持ちで、ここまできたのだろう。どんな仕打ちにもじっと耐え、ゆっくりと体力を回復させ、除念を果たし、クラピカからレオリオのところへ来たのだ。 ひとりになるチャンスなど・・千に一つも無い確率だったにちがいない。



「センリツか?」
「まぁレオリオ君?久しぶりネッ?」
「ああ」

「どうしたの?」

「・・・なんでもねぇ・・」

嘘。何でもないのに、かけて来ないでしょう〜。

「喋らなくていいから、ちょっと、携帯を胸にあててくれるかしら?」

「!!!」

クラピカとの別れ。  そう。
「レオリオ君。クラピカも、あなたの事を考えてのことなのよ」
「センリツ・・なんでもいい。クラピカが言っていたどんな小さなことでもいいから、オレに聞かせてくれ。・・あいつ・・オレを見ても、何も言わなかった。一言もだゼ?オレは、クラピカの声を聞いていないんだ!」

「どんな様子だった? クラピカ」

「ああ。髪を切って、サッパリした身なりだったゼ。気の強そうな顔だった。そして、今まで見たことも無い氷の視線。追いかけるオレを鎖で制しやがった・・しかもオレに緋の眼で胆ときたもんだ!完璧、嫌われたってことだよナ・・」ははっ・・と、乾いた笑い声
「鎖が出たの?」 除念が叶ったのねっ?
「ああ」
「鎖は威嚇だけ?それとも、あなたに触ったのかしら?」
「触ったなんてもんじゃネェ!左胸を直撃だ。マジで殺されるかと思ったゼ」

左胸?
「レオリオ君、その時、あなたが着ていた服装を教えてくれるかしら?」
「服? TシャツにGパン。薄いジャケットだが、それが何か?」
「ジャケットには左胸にポケットが付いているのかしら?」
「ああ」



 最後の優しさだろう・・。レオリオにも鎖を見えるように具現化し、彼の目が追える速さでそれを振り回して見せた。ポケットには、クラピカに関する物が入っていたにちがいない。軽く触れる位に、かなり手加減している。 エンペラ−化したクラピカの繰り出す鎖を目で追えるのは能力者でも極僅か。当たれば重症、かすっただけでも記憶が飛ぶほどの威力なのだから・・。
 そして、この電話も、クラピカの予想通りなのだ。レオリオが知らずに代弁しているのだ。「やっと除念した。」との報告を。しかし、これだけではまだ解らない、なぜ?レオリオ君に緋の眼の必要は無いはずだわ?
 

 

 





「クラピカって、大事に思っている人ほど自分から遠避けるでしょ?巻き込みたくないのよ。自分が生きているだけで、精一杯なの。わかるでしょう?」
「あぁ、どうだかな?いつまでも念を覚えないオレに、愛想が尽きたのかも知れないゼ? でなきゃ、黒い奴と二人で仲良くサヨナラなんて!!」
「旅団も?!レオリオ君、あなた、よく無事で!」
「・・そうか!?来るな!ってのは・・そうゆうことか!?」
「何?」
「アイツ、ものすごい錬だったんだ。ピンク色の。バリア張ってるみたいな・・」
「レオリオ君、あなた、それが見えたの?」
「壁みたいだった。クラピカがマジで怒って、恐ろしくてそばに寄れなかった」

なんてこと!これは・・実際、危なかったのだ。多分、クラピカはレオリオ君に気をとられて判断が遅れた?言葉で伝える時間も惜しいほどに。緋の眼で制する他、手が無かったのだ! センリツの背中をつめたい汗が伝った。もしも背後から一撃を食らえば、クラピカの命は・・。 しかも、仲良くサヨナラな訳がない!また、何かされたのだわ。除念の条件!?


「レオリオ君・・もう、わかったでしょ?クラピカは、あなたを全力で守ったのよ。背後に旅団が居たんだわ」
「ああ・・」

「内側から崩す・・って言ったのよ。クラピカ。決して蜘蛛側に堕ちたりしないわ。信じてあげて!今度、もし怪我でもしたら・・頼る所は、レオリオ君、あなたのところよ。」
「センリツ・・」
「バショウも、リ−ダ−からの要請があれば、いつでも駆けつけるって言っているわ。クラピカは、私たちにとって、今でも尊敬するリ−ダ−なの。お願い。しっかりして。待ってあげて・・」

センリツは泣き声になっていた。







服か・・。


ジャケットのポケットに入れていたクラピカのイヤ−カ−フ。ピンクの石は、クラピカ自身の鎖によって大きくヒビが入り割れていた。(これで、心臓直撃から守ったのか?念って・・いったい何なんだ)
 机の上に出す。オレが触れると、さらに粉々になった。あわてて、アスピリンが入っていたガラスの小瓶に注意深く入れ、キュッと蓋を閉めた。なぜか、カプセルに閉じ込められたクラピカを連想した。

 

  明るい窓辺に置く。

     色硝子のように 
          にぶくやわらかな光を放っていた。



  
             完

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