長編   水の誓約

□水の誓約 色は匂
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「よう、来た」

本部での会合、大まかな表向きの題目が済み、一旦、解散となった。昼食はそれぞれが自由に、大小6つほどあるホ−ルで好きにとるシステムだ。俺はなるだけ目立たぬように、隠を決め込み、午後からは退けようと企んでいたところだった。とりあえず空港まで行き、その時の便で近くの大陸までひとまず飛び、庵に帰るのはおそらく半年かそこいらでいいと踏んでいた。 ところが、ネテロ、一番、捕まりたくないのに話しかけられた。

 まず、視線を合わせないことが肝心。一瞬でも眼を会わせれば最後、裏の裏まですべて読まれる。まぁ、今の俺は、そこらへんの事務職あたりからも、可哀想がられる存在だろう・・。ネテロも、お愛想で気楽に声をかけたのかも知れないが・・。

「人を探している。会長と話すことは今のところ、無い。失礼する」

足早に、立ち去ろうとする背中から、思ってもみなかった直球、ズバリ俺の中で封印したはずのその名を呼ばれた。

「今のクラピカでは殺ることも、逃げることも出来まい」

「なにっ!?」

しまった! 俺は、ネテロの眼を見てしまった。





「何を、どこまで知っているのか?知りたいのじゃろう?遠慮は要らん。それから、意地も要らん。」

 そら来た。 掛かるかっ、誘導尋問。ネテロの十八番だ。心的操作ならば、今ならまだ振り切れる。
それなのに、俺の足は既に動かない。くそっ!瞳術も掛けやがったかっ。



 
「そもそも、クラピカを、お前さんのところに送り込んだ事が、間違いじゃったと、そんな声は聞こえるじゃろう。しかし、あの性格をあつかえるのは、お前さんだけじゃよ。今でも、それは間違っていなかったとハッキリ言っておく。」
「そんな、昔話はもう、いい。」
「それもそうじゃな。」



 「しょうが焼き定食、ふたつ」


まさか、ランチを軽く食べながらする話でも無いのだが、表向き、こうするしか、しかたがないってことだ。
一番奥まった席に腰掛けながら、ポツリポツリと話が進む。ハッキリ言って、この話し方は苦手だ。いったん耳に入れた言葉を、頭の中で順番を入れ替えたり、裏の考えに変換しなくてはならないからだ。
(クラピカは、これが得意だった)

「ところが、これには、裏技が無いことはない」

はあっ?
 それこそ、強化系の直球で、そこんところもう一度お願いします。 俺はもう少しでホントにそう言いたいところだった。





なんだって?

【誓約の変換】

・・・俺は耳をうたがった。
と、同時に、裏試験の時のクラピカの質問に、似た様なのが確か、あったような記憶・・。俺は最速で、頭ん中をほじくり返してみる・・「蜘蛛以外には使わない・・これでは、弱いだろうか?」戸惑い、迷いのクラピカの声が蘇える。苦しんだ結果、自分の心臓にも念の鎖を刺しやがった。しかし、何度やっても、緋の眼を使った後は反動がクラピカの身体を襲った。「なるべく使うな」見かねた俺が言うと、だまってうなずいた。

・・その時点では、とにかくギリギリの間に合わせの力。それ以上の何が出来ただろうか?・・しかし、今ならそれなりのキャリアも積み、そろそろ、次の段階へ導いてはどうか? 簡単に言えば、そういうお誘いってわけだ。
 しかも、俺もクラピカも天涯孤独。失敗しても、親族が無いのであれば、下手な恨みをかうことも無い。それに、断る理由も無いだろう〜的な、上から目線も多少含まれている。正直、イラッとした。だが、ここは、我慢だ。
 教えるためには、まず俺がそいつを会得しなければなるまい。 これまで、知っているのはふたりほど。持っている技が二段階に変化する。実際見た事があるのはそのうちのひとりだけだが・・。
 しかも、その後、クラピカをどうにか奪い返し、本人を納得させ、伝えなければならないのだ。気が遠くなるような長い道。それでも、昨日までの八方塞がりの穴蔵にいる気分よりは、ずいぶんマシな気がする。要するに、地味にあきらめないってことなのだろう。短くまとめれば、そうゆう話だった。

 当初の計画とは、ずいぶん変更になったが、先の見通しが立ったところで、まずは一歩から、歩いてみることにする。

「あまり、時間も無いと考えよ。敵の中に弟子が、息を潜めておるわけじゃ。わかるな」

それを言うなっ!再び、胸を雑巾絞りのようにしめつけられる。しかも、俺が教えていないのだから、二段階に変化する素質がありそうな事も、本人は知らない。今、持っている力で、あせって蜘蛛退治にとりかかるのだろう〜。無理な緋の眼の後、崩れ落ちるクラピカを、抱きとめるヤツはそこには居まい。




最悪の場面を、ネテロの瞳術により無理やり見せられる。

 クロロとクラピカの身体が重なったまま、クラピカの鎖が二人分の胸を突き刺し突き抜けて行く。その状態にあっても、クロロは不敵な笑みを浮かべているのだった。クラピカは背を向けていて顔は見えない。なんという細さ!その後姿が、壮絶な時間を物語る。食べていないのか?寝ていないのか?数々の拷問の傷跡。肉体的にも、精神的にもじわじわと破壊されていったのだろう。白い首筋が次第に青く血の気を失っていく・・。

 
  やめてくれっ!!


「では、健闘を祈る」

俺は、本部を後にした。









「何だか、コル、シズク、クラピカの3人で居ることが多いねっ?」
「しかも3人居るのに、静かだし、世話もかけないから別に、助かるけど?」

 こちら側では、自然とマチ、シャルの組み合わせになる。
「もし、喋っていたとしても、あの具現化3人組の話には、僕はついて行けない気がするよ。イメ−ジ修行なんてガラじゃないし」
「そういえば、シャル、もう、気が付いてるんだろ?緋の眼の後、クラピカが寝込むこと・・」
「うん。単なるメモリの使いすぎじゃ無いと思うんだ。そこら辺を知らないと守り様がないんだな、これが」
「団長も、ハッキリとは分らないらしいよ」
「食が細いのも、心配だよね」
「そうなんだ」
「案外、シズクあたりになら、話すかもしれない。聞いてみるよ」







「ミカエルはさぁ〜、未来の時間軸を先に使うタイプなんだよねっ?私は過去だけど。それって、不安じゃない?」
何をどう、考えたら、この言葉が出てくるのだろうか。前置きもタイミングも全く関係なく、本題のみをいきなり喋り出すシズクに、驚いた。しかも、それは直球でクラピカの胸にストンと収まる。
「どうだろうな。過去があってこその私だから、とでも答えておこうか」
コルが、小声で「かっこいい」 と、つぶやいた。






「ってさ。団長、何の事かわかる?」
「よく、わかった。下がれ、シャル」
「あいよ」

【時間軸】
この3人には、世界はどんな風に見えているのだろう?











本部では、午後の部の会合が始まった。
念の講義なんぞ、今更、聴いても始まらない・・。ヒソカは、何だかふけたくなって来た。 ここに寄ったのも、何か手がかりとなる情報の一つでも拾えるかと考えてのことだった。 いや、あまり考えていないか。帰る途中のただの寄り道。 席を立とうとした時、「生涯の心拍数と、発の関係」などと、めんどくさい題目が妙に気になり、しかたなく座り直した。
 どうせ、今から戻っても、飛行場で待ちぼうけだ。


 堅苦しく話しをしているのは、ドクタ−なんとか・・。。(人が一生に打つ心拍数ってだいたい決まっているんだ?へぇ。おもしろい。誰が数えたんだろう?訊いてみようか?多分、困るだろうねぇ・・。収穫は、これ以上居ても、多分、無いねっ)
「念医学は、これからの分野です。どうかみなさまの体験談を気軽にお聞かせ願いたい」
ククッと笑えた。
 何処の誰が、自分の念タイプや、経験をペラペラ他人に喋るだろう?みんな秘密主義サ☆ とたんに、つまらなくなり、会場を後にした。
(とりあえず、闘技場に戻り、ひとつだけ戦ってからのんびりしようかなぁ★)






待ち時間。ヒマだなぁ・・。ダメもとで、電話でもしてみようかなぁ〜。
「やぁ▽」
「ヒソカか?」
「おや?   本人かい?」
「そうだが」
「ワイシャツのお兄さんとは、別れたのかぃ*」
「・・・・ああ」
「おや。哀しいねぇ・・じゃぁ、ボクが慰めてあげるよ☆」
「用件はなんだ?」
「そう、せかすなよ★久しぶりに手合わせ願いたいと思ってね。天空闘技場で、まってる」
「ああ。すぐには動けないが、必ず」
「いいよ。急がなくても。じゃ、まってる」
 

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