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先輩自慢トーク
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「んとな、完璧なんやで」
「ならこっちは神様だし」
「天才の方がいいでしょ」

なんとなく珍しい組み合わせのルーキーが談話室に揃っていた。その才能からはそれぞれ注目と信頼が寄せられ、それは誇りであり自慢でもある。
そんな彼ら3人はそれまた珍しく自分ではない誰かを自慢していた。

「てかコシマエ、それ部長じゃないやん。な、切原」
「副部長でもないしな」
「…だって顔ぶれ的に手塚部長より不二先輩の方がいいじゃん」
「んまー…老けてるよね。うちに手塚や真田みたいなのがおらんくてよかったわ」
「オレ何も言い返せないわ」

それに加えて越前は、部長の二つ名なんて知らないし、と呟いた。

彼らは何故その話の流れになったかは知らないが、自分の部長の自慢話が始まっていた。始まりは金太郎の白石への絶対の信頼と仲間想いの発言からだったと思う。そこに切原が幸村の偉大さと格好良さを語りだし、更に負けず嫌いな越前が部長ではなく不二の適当な良さをぼちぼち呟いた。
面白味もない流れだが、意味もなく彼らは部長の美化した長所を語っている。

「白石はな、めっちゃ優しいんやで。厳しい時はほんま怖かったりするけど、とにかく優しいんや!」
「幸村部長だってそういう優しさとは違ぇけど見守っててくれて、いざという時すっげー頼りになんだぜ」
「てかわい、白石だけやなくてみんなに可愛がられてる自信あるもん」
「んあ?オレだってあるよ。なんやかんや構ってくれるし」
「わいの方が上やもんね。…あり?コシマエって誰に懐いてるん?」

金太郎と切原が熱弁していると、特に口を挟むわけでもなく黙って聞いていた。
そしておや?と思い青学との少ない記憶を掘り出してみたところ越前が誰かと一緒にいた記憶がないのだ。
大抵一人か、うるさいトリオがしょうもなく取り巻いているような気がする。

「オレ?…さあ。最初の頃は桃先輩だった気がするけど」
「気がするって…。可愛げのねぇ後輩だな。オレが先輩なら放置モンだわ」
「ふうん…。可愛がってもらってへんのな。でも、んん。青学って、こう兄貴分っちゅーか面倒見があるっちゅーか…そんな人おらへんな」

金太郎の言葉に、むむむと天井を仰ぐ切原。明るく楽しい先輩方はいるが、確かに兄貴分はいないと思う。みんなかなりの真面目というイメージだ。菊丸、桃城は兄貴分ではなく、楽しい先輩、という言葉がぴったりだ。

幸いにも切原の先輩は、部長はおちゃらけているし、真面目と見せかけつつ悪ノリもしてくれる先輩もいる。バリバリな兄貴分もいるので、かれこれ素を出しまくっている。

そんな人がいないとなると、ふうむ、楽しさ半減というか素を出せなくて大変ではないだろうか。

「な、お前の自慢の先輩って誰?」
「白石!」
「お前ぇじゃねぇよ」
「え、いないけど」
「いやいや文頭で不二先輩挙げてただろ」
「流れと顔ぶれ的に」
「白石ダメなら謙也やな〜」
「話聞こうか」
「じゃ聞くけど、アンタには自慢の先輩いるの?」

答えられないから話を反らしたのか、純粋に気になったのかは分からないがターゲットを切原に変えた。金太郎は振らなくても語るのでパスの方向なのだろう。

振られた切原は、ふむと軽く考えてから口を開いた。その顔はこのメンバーの前では珍しく無邪気に笑っている。

「みんなだな!誰が一番とかはねぇけど、強いて云うならやっぱ幸村部長」
「……ふうん」
「わいもな、ぶっちゃけはみんなやで。白石と千歳、銀はお兄さんやけど、謙也とユウジ、財前は兄貴や。小春はお姉さん。でも、えへへ、一番の自慢は白石」
「そんな風に考えたことないな。自慢の先輩ねぇ…」

ここは手塚と挙げておくべきか。先輩沙汰になっていない自分にとって部活の先輩以外なんでもない。この考えが可愛いげのない後輩に繋がっているのだろうけど。

あぁでも笑顔で先輩を語る2人を見ていると、なんだか少し羨ましいなと思ってくる。

「じゃあオレもみんなでいいよ」
「なんやそのついで買いみたいな言い方は。だから自分先輩に可愛がられへんの…。んん?もしかして、コシマエは財前タイプ?」
「なにその分かんないタイプ」
「クールなんやで。ちょっと素直じゃないっちゅーか…」
「あー、いるいる。日吉とかそのタイプだよな」

どうもしなくても越前は話を振られないとしゃべらないんだなぁと染々感じた。聞いている方が楽というのもあるが。

「安心せぃコシマエ!財前あんなんやけど、めっちゃ白石達に可愛がられてるから。…わい程じゃないけど」
「自意識過剰すげぇな」
「…言っておくけど、可愛がられてないわけじゃないからね」
「…んん?ないわけじゃないわけ?んん?つまり?」
「察しろよ遠山。こいつなりに今の環境がすっげー気に入ってるって話だよ」

くくく、と笑う切原に反して金太郎は、はて、今の言葉で何故そういう意味合いに取れるのか。財前ビジョンに置き換えたら分かるだろうか。財前なら。

『ここが気に入ってるとかほんまありえんすわ〜』
とか
『まあ嫌いじゃないすよ。テニスは』
または
『通天閣から叫ぶよりクサくて罰ゲーム以外のなにものでもないことなんて口が裂けて頭蓋が出たとしても言わんわ』
とかとか。なるほど。

「ははーん、ふぅーん。ふふっ、コシマエ照れるなぁ〜」
「待って、今の間に何があったの?」
「免疫あるってすげぇな」
「でもわい知ってるよ。そういう人な、案外面倒見よくて、優しいんやで」
「分かる分かる。からかうのが楽しいらしくって、思いの外構ってくれるんだよな」
「なんでさ、コシマエは一人っ子なのに、甘えん坊さんやないの?」

なんでときても。先輩の自慢話じゃなくて自分の事を話す会なのか。
でもなんだか予想が出来た。これを聞いて、甘えの手口でも教えようという魂胆なのだろう。

「ま、なんでもええわ。甘えちゃえば先輩喜ぶで」
「振っといてどうでもいいってひどいね」
「奢ってもらったりな。先輩いるうちしか出来ねぇし」
「それもあるけど、やっぱ一緒にいれるっちゅーことが何よりも嬉しいなぁ」

何故だろう、青学にはそういうのがあまりないような気がすると越前は感じた。
団体よりは小さなグループで動いているような。…この響きは女子っぽくて嫌だな。

「お前、先輩大好き過ぎだろ」
「だってな、勉強が解んなければ白石と小春が教えてくれる。何か困ってると謙也と銀が助けてくれる。暇だなぁって感じたら千歳とユウジが遊んでくれる。少し寂しいなって思ったら財前が一緒に帰ってくれる。落ち込んでたらみんなが励ましてくれる。ほんじゃそこらにゃこんなええ先輩はおらん。つまりわいは、幸福者なの」

先輩の事をここまで言い切れる後輩は一体どの位いるのだろうか。本当に幸せそうに笑う金太郎を見ると、互いの信頼関係が見えてくる。

そこに負けじと参戦してきたのはやはり切原だった。

「オレだって勉強なら真田副部長と柳先輩と柳生先輩に教えてもらってるし、仁王先輩と丸井先輩、ジャッカル先輩に遊んでもらって、幸村部長は全部なんだぞ!」
「ふふん、張り合わされてもわいの方が上やもんね。えへへっ。わい四天宝寺でほんまよかった!」
「くっそー、なんだろう、言い返せない何かがあるぞ…」

純粋に好きという感情をありのままに出しているからそう感じるのではないかと越前は思う。
普通はなかなかにいないものだ。いや出来ない。それは金太郎の性分からか又はその環境によるものか。

「オレ、戻……、いやもうちょっとここにいよっかな」
「ん?立ったり座ったりコシマエは忙しいな」
「よし、なら幸村部長の素晴らしさを教えてやろう!」
「ちゃうよー、白石の!」
「ていうかオレ白石さんいい人ってよく分かってっから」
「…凌げればなんでもいいよ…」

越前が立って見えた風景とは。不二と白石、幸村が仲良く話しているところではないか。しかも微かに聞こえてきた言葉は、うちの切原はあんな可愛いことを言ってくれるんだよ、とか、いやいや金ちゃんがかなり可愛えこと言ってるから。よお出来た後輩や、とか、越前にも見習わせたいね、とか…。

あちらでは後輩自慢が始まっているらしい。なんか聞かれていたと思うと恥ずかしい。目の前に座っている2人は気付いていないからそれなりの音量で話続けている。

「やっぱ手っ取り早いのは白石と話すことやな!呼んでくる!」

席をすたっと立った金太郎はくるりと後ろを向いた。見えてくるのは必然とあの3人な訳で。
あっ、と声を上げた金太郎に何事かと思い、倣って後ろを向いた切原は、げっ、と声を上げた。越前同様、少し恥ずかしいようだ。

「白石おったんやーん!」
「おお、金ちゃん。どなんした」
「2人にな、白石のすごいとことか自慢とか教えてたんやで」
「へぇ、そりゃ嬉しいわなぁ」
「良さをもっと分かってほしいから、是非2人と話してぇな」

全てを曝け出した金太郎に誰もがさすがだなぁと感じた。
ぐいぐいと白石の手を引く金太郎は元いた自分のテーブルに戻るわけで、自然と幸村と不二も同席することになる。少し切原と越前の肩身が狭くなる。

「ふふっ、随分楽しそうな話をしてたみたいだね。なんの話をしてたんだい?」
「えーと、ルーキー同士の意気込みっていうか…」
「なん言ってるや。みんな部長の…、ああコシマエは不二か、の自慢してたやん」
「ちょ、お前!」
「いや、知ってたけどね。そんな恥ずかしがることないじゃないか」
「越前なんか手塚どころか僕の自慢も出てきてないんだから、そんなリアクションも拝めないよ」
「…すんません」

本人を目の前にして堂々と白石の自慢トークをする金太郎に尊敬の念を送れる。寧ろ白石の方が少し恥ずかしそうにしていたが。

トークが落ち着いた頃に、幸村が金太郎にうちにこない?とか不二が越前と交換しようよ、とスカウトを受けていたが、白石達がいないところなんて嫌だ!と頑なに断り続けた。

その言葉に軽くショックを受けた切原と越前は、少し金太郎を真似てみようかなと思ったり思わなかったり。

どうやら四天宝寺は先輩後輩共に相思相愛らしい。

と、その風景を何気に見ていた忍足侑士は語った。


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金ちゃんの可愛さを全面に出したかったお話。ルーキー3人の組み合わせ好きです。


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