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ひだりきき
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「出来た!」

部室のミーティング机に座っている金太郎は威勢よく終わりを告げ、満面な笑みを浮かべている。ところで何が終えたのだろうか。気になる白石、謙也、財前は次々とプリントを覗く。
最初に口を開いたのはもちろん白石だった。

「…なんこれ」
「宿題の紙やで」
「ちゃう、この文字」

本来日本語が書き込まれているであろう場所には謎の文字。ミミズ文字の様な、解読不可能な文字がつらつらと書かれている。
次に口を開いたのは謙也だった。

「名前すら読めないんだが。金ちゃん、これどうした?」
「ん?頑張ったんやで」
「うん、何を?」
「宿題」
「アホちゃうか。この文字について聞いてんねん」

流石は財前といったところか。オブラートに包むだなんて言葉は知らない、と言ったように思いっきり単刀直入で聞き出す。金太郎本人も然しては気にしてないようで、へらっと笑っている。

「これなー、左手で書いたねん」
「なんでいきなりまた…。あ、脳トレ?」
「金ちゃんに限ってそりゃないやろ」
「わいな、気づいたんや」

ふふん、と鼻を鳴らし、少しだけ自慢気にしている。大方どうでもいい事なのだろうなと分かりつつも、気になってしまうものが人間と云うもの。焦らすことが好きなのか中々に話し出さない。相槌を出せとの事なのだろう。

「うん、何を?」
「あんな、左利きってイケメン!」
「………はい?」
「よかったですね、謙也さん。今目の前で全力否定食らいましたよ」
「いやいや世の中半分以上否定したからね、今」

そんな会話を他所に白石は呆れていた。全く何故この後輩はくだらないことを考えるのがこうも得意なのか。その頭があるなら勉強の一つや二つ、覚えればいいものの。無駄が多すぎる。

「だってな、白石と千歳、ユウジに財前、銀は…まあ渋いとして、コシマエにえーと、向日に、佐伯に、仁王に、木手、甲斐に一応手塚。おっとこ前でみんなイケメンやん」
「そんなん覚えてるんやったら勉強覚えてくれ…」
「ようし金ちゃん一緒に頑張ろう」
「白石と財前、コツ教えてな」
「素晴らしいね、このスルー」
「てか今頃すけど、うちらって左利き多いっすね」

財前の言葉ではたと気付いた。謙也は、ほんま今更やわー、と呟いていたが、白石は確かに、と思った。自分が左利き故に特に何の違和感も持っていなかったのだ。当たり前すぎて何も思っていなかった。

「わい知ってる。B型も多いよね」
「あー…、多いわな」
「左利きでB型ってめっちゃイケメンやなぁ」
「白石部長とユウジ先輩か」
「オレ、ほら、右利きやけどB型!イケメン?」
「わいだって右利きB型や」
「金ちゃんA型っぽいんにな」
「A型は財前と千歳だもんな」
「財前ってB型かAB型っぽいのになぁ」

だんだんと血液型の話にずれてきたが、でも待て、と言わんばかりに話を戻し始めた。

「わいが思うに左利きB型且つ神奈川出身だと完璧イケメンやわ。もうブランド。AB型だとプラチナやな」
「テニス部レギュラーだとおらんな」
「やからせめてイケメン男子に」
「金ちゃんは可愛い系男子やと思うけどなぁ」

謙也がそう溢すとちょっと小馬鹿にしたように鼻で笑い、やから謙也はイケメンやないのや〜と冗談で言っていた。

「あんな、オトコはイケメンでなんぼ!イケメンで有りたいのは当たり前なんや!」
「…金ちゃん、それ誰に吹き込まれた?」
「謙也の従兄弟」

あんの変態眼鏡、とかクソ侑士、とかそれぞれ思ったことは金太郎は知らない。財前に至っては、どうりで、という納得した顔があった。

「金ちゃん、ええこと教えてあげる。ありのままの自分が一番イケメンなんやで」
「えーと…。ナルシスト?」
「なあ謙也、オレ、今ええこと言ったよな?」
「そうやけど…」
「人選ミスっすね」

きっと謙也が言ったら、何格好つけてるんだよ、と茶化されたり、逆に財前だったら決まっていたに違いない。白石が言うとナルシスト発言に聞こえるようだ。

「白石は憧れのイケメンやけど…、ナルシストにはなりたくないなぁ」
「ちょおま、誤解やから!」
「やって跡部と同種なんやろ?」
「ちゃうわ!誰が言ったんや」
「謙也の従兄弟」
「なんの恨みや」

適当に注意しておくから、と謙也が口を挟んだが白石は聞く耳持たずといった感じだ。

「純粋な金ちゃんに余計な事を教え、その挙げ句嘘の情報まで擦り付けるとか…。四天宝寺と全面戦争する気か!」
「若干嘘ちゃいますよね」
「氷帝と戦争したらまずお笑い四天宝寺は即負けるわな。てか学校自体この世から無くなるわ」
「あんな、ひょーてーはイケメンおらん。跡部はただ玉の輿っちゅーだけや。四天の方がイケメン多いねん、わい的に」
「……その氷帝のこと、誰から聞いた」
「幸村!」

白石は盛大な溜め息を吐く他なかった。取り合えずまずは金太郎に疑うことを学ばせた方がいいのではないか。

「でもな、左利きイケメン方程式はわいの意見やで」
「なあ、他に誰と話ししたん?」
「んー、不二と菊丸、謙也の従兄弟におかっぱに、幸村、仁王に丸井にー、んあと切原」
「ダメだ終わった…。他校に接触させたのが間違いやった…」
「ねこさんがじーっとこっちを見てたらそれはわい達の脳みそを見ようと超能力使ってるんやって!気を付けないと脇腹擽られるって…」
「………どんまい、部長」

騙されやすい切原に騙されてる金太郎は相当に騙されやすいのだろう。

コミュニケーションや見聞を広める為、遠征試合に連れていったがそれが間違いだった。人見知りをしない、というよりも人懐っこい金太郎は、他人だろうが見知らぬ人や第三者、赤の他人、つまりは面識のない人でも直ぐに仲良くなる。それはもう幅広く、友達の友達からおじいさんおばあさん、ジャンル問わず。

長所だが欠点だ。人徳からいい人に恵まれるが、悪徳を企む人には直ぐに騙されるであろう。仲間内でもそうなのだから、それはもう確実だろう。仁王とか雅治とかペテン師とか辺りに(毒手で騙している白石も同類だが)。

「でもほら、わい左利きなれたらコシマエみたいになれるやん。わいの方が強いけど」
「…イケメンどうこうの前に、まず勉強出来ような」
「えー、関係ないやん」
「絵に描いたイケメンは、顔良し頭良し性格良し運動神経良しやで」
「えと、うん。それって」
「自分自身を言ってるわけやないからな」

白石が言ったのだから、金太郎が言おうとしたことが誰もが分かった。
多分白石は程よい距離を保っていればかなりのイケメンの部類に入るのだろう。あの口癖とか聞いてしまうと大抵の人は一歩下がってしまう。

「ふぬぬ…、ならべんきょも出来なあかんのやな。白石みたいなイケメンになるためには…」
「白石うまいなぁ」
「ならなんなくてええわ」
「え」
「よく考えりゃわいモテなくてええし。よーしテニスしてこよ」

言うより行動早しの金太郎はプリントなどほったからし、ラケットを持ってさっさと出ていった。
なんとも云えない空気が流れる。

「えーとまあ誰かさんの入知恵だし、金ちゃんは金ちゃんのままっちゅー…」
「きっかけどうあれ勉強に励んでくれると思ったのに…」
「そんなことしてもどうせすぐ忘れますよ。要はあれですよね。真似っこして尊敬してる部長に少しでも近づきたいっちゅー子供ならではの発想」
「へ」
「じゃあテニスしてきます」

さっきの金太郎と同じくラケットを肩に担ぎ出ていった。

「…うちの後輩は奥が深いなぁ」
「財前もよお分かったなぁ…。甥っ子相手でもしてんのかな」
「これって喜ぶことなんかな」
「うーん…そうなんやない?てか金ちゃんが絡むとこうも事が大事になるんやなぁ」
「四天(ここ)には手の掛かる後輩しかおらんわ」

その顔は笑っており、みんなが部室に集まってから15分後にコートに集合した。

――――――――――
間違いなく金ちゃんはイケメン要素を持ってる。2年なんていい感じに髪伸びてイケメンだー


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