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奴にだけ使えるはぐらかし術
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奴はずっとこっちを見ている。こちらは目を合わせないで視界の端で見ているのだが、視線がうざったい。うざい上に面倒くさい。だがこれはこちらが話さなければずーっと見続けるパターンだ。

「……………なん?」
「   」

何故だか口ぱくでしゃべってきた。風邪を引いているわけでも、はしゃぎすぎて喉を潰してるわけでもない。つまりはわざとだ。読み取れたのは、あのね、だ。

「…分からへんわ」
「なんもー、分かってるくせに。財前って意地悪だよね。あのね」
「さっきも聞いたわ」
「ほらもう!白石にチクったろ」

いや何をだよ。
さっきから何かを伝えたい奴、金太郎はまた視界の端っこでまた凝視し始めた。
目障り極まりない。

「だから何」
「財前からプレゼントもらってへん」

早口で告げ、少しむっとした表情をしたが、その視線は外されることはなかった。

「…今なんて言ったん?」
「もう!やから財前から」
「さっきも言ったわ」
「え、なん。そっちの方が面倒やん。なになに構ってほしいん?」

いえ違います。微かな嫌がらせです。口には出しませんけど。
というか何故そんなに嬉しそうなんだ。

「お前やないんやしちゃうわ」
「むむ、ならちゃんと聞いてよ」
「で、なんのプレゼント」
「わいの誕生日」

4月の話か。今はさあ何月だ。とっくに自分の誕生日も過ぎている。何故今そんな話を掘り返す必要があるのか。

「財前から、もらってへん」
「…驚くなかれ、オレももらってへんわ」
「え、あー、うー。うん」

お互いの誕生日を考えれば、祝いの言葉や物をもらったりとは他の人と比べて少ない。
話の流れは予想がつく。誰かが誕生日の話を振って、そういえば、と思い出したのだろう。
前は寂しそうにそんなことを言っていたものだから、たこ焼きをあげてたりしたがここ最近はあまりあげていない。あげる義理もないというのが最もな理由だが。

「やってー…、今年親以外におめでとうとプレゼントもらってへんのやもん」
「オレも言うたやん」
「あ、後日ね。でも、んん。白石達におめでとう言われたかったな」
「そりゃ、しゃーないやろ。入ってきたときゃ、年食ってるわけやし、そんな話題になるんも大分後やし」
「来年は当日にちゃんとおめでと言うてな」

部活の時でいいからと、またガン見始めた。自分の誕生日にそんなにも執着する金太郎はまだまだ子供だなと感じた。
だが金太郎の誕生日は確か部活も休みだった気がする。今は言わないが。

「…気ぃ向いたらな」
「いつかは沢山の人におめでと言われたいなぁ。教室に入ったら、気付いた人からおめでとーって言ってもらえて、こだまのようにおめでとーって言ってもらうん。ちょっとした夢やな」
「社会人になりゃ言ってもらえるやろ」
「分かってへんなー。セイシュンの思い出がほしーの。財前も考えたことあるやろ?」

残念なことにそれはない。毎年部活だったものなので。それに仲良くもないのに祝いの言葉なんていらない。勝手にプロフィールが一人歩きするものだから、全く知らない人までいきなり声を掛けられ祝いの言葉を投げられたこともあった。正直、不快だ。

「オレは知り合いだけで十分やから、考えたことないわ」
「えー?みんなからハッピーバースデー歌ってくれたり憧れやん」
「お前、色々勘違いしすぎや」

一体どこの幼稚園だ。そんなことをやっている小学校や中学校などみたことない。クラスにいてもそんなことに気付けないのか。
分かりやすく言ってしまえば、よく日本文化に憧れのある外国人の間違った知識に近い。

「なんかもうちょい普通な日に生まれたかったなぁ。5月とか」
「オレは今の誕生日がお前に合ってると思うがな。…あぁ、そうだ。あの人…、千歳先輩も祝ってもらえない口やん。謙也さんも。部長だって1年の時は祝ってもらえへん人やろ」
「むー…。だからと言って、わいは納得しません」

いや何を?
この話を終わりにしたかったが、また少し拗ねる気味にガン見を始めた。
もうほんとなんだよ…。

「話し聞くからガン見やめてくれへん」
「あんな、財前、わいに対してちょい冷たくなったよな」
「はい?」
「学校上がる前までは、なんかもうちょっと……、ゎ…ゅ……」
「あ?聞こえへん」

急にお真面目モードになったのでなんとも言えない雰囲気が漂う。まるで自分が金太郎を泣かせた的な。いや、激反省してます的な雰囲気だ。

「まぁええけど…、もうちょっとわいを構ってね」
「………は?」
「テニス部や白石達が好きなのは、わいだって一緒や。でもな、わいの方が先に財前に知り合ってんやからな!」

あぁそうか、つまり。

「嫉妬?」
「ちゃいますー。ただね、わいの知らない財前になるんはちょっと嫌だなぁって」
「複雑な心理なことで」
「てかもう知らん財前やけどな。ま、今までわいが見てたのが嘘で、今のが本当の姿かもしれんし。よお分からんわ」

腕を組んで首を傾げてうーん、と唸る様子は本当に分からないと云ったようだ。
なんだか面倒なことになった。

「なにを勘違いしてるか知らんが……、やっぱええわ」
「え、なになに気になるやん」
「たこ焼き」
「は?」
「忘れてもうたわ」
「え?」
「買おうもってたんやわ」
「はぐらかそうたってそうは…」
「食わんの?」
「…食べる。ならそれで勘弁したるわ」

ふふんとご機嫌そうに笑った金太郎は帰宅準備を始めた。それと同時に部長らが入って来た。
やっぱり。気付いてよかった。みんな半笑いでキショイ。
こちらの心境も知らずに謙也さんが絡んでくる。

「で、何が勘違いなんや?」
「謙也さんがアホでうざくてほんまこんなんが先輩とかありえないすわとか思ってんのは勘違いじゃありませんしたスミマセン」
「勘違いじゃないんかい」

そろそろ解放をしてほしい。部活が終わったのだから絡まれる必要性が分からない。この人達といると楽しいが(絶対言わないが)、疲れているのでさっさと帰りたいのだ。
でもまあ煙に巻けるわけもなく部長が腕を組始めた。

「ふむ…気になるなぁ。ここは洞察力のあるユウジにお任せやな」
「おーおーご指名どーも。けど小春以外は興味ないわ」
「あら、私は光に興味あるけど」
「小春ーっ!」
「つーか盗み聞きとか悪趣味すわ」
「いや、シリアスそうだったし?なぁ?」

いつも通り部活が終わり、さっさと帰りたいので大抵一番に部室に戻る(体育会系を完璧に無視してるが気にしない)。そこへ金太郎が来たのだ。いつもなら部長と一緒に最後ら辺に戻ってくるのに。
そして冒頭になるわけだ。

アホな謙也さんが焦らして、こっそり窓を覗いてくれたお陰で気付いたのだが。

「シリアスでもなんでもないすけど」
「いや金ちゃんの様子から察するにあれはじ」
「ざいぜーん!帰るで!む、白石達なんしてるん?財前はわいと帰ってたこ焼き食べるの!」
「金ちゃん、オレも一緒にたこ焼き食べたいなぁ」
「へっ?」

何故だか部長が参戦し出し、金太郎は何度か瞬いた。部長の顔は怪しく笑ってて、悪巧みしてるな、と呆れながら感づいた。もうややこしくしないでよ。つか先輩ら溜め息ついてないで止めろ。

「ダメ?」
「ダメも何も、わいが最初に言うたから、わいが一緒に行くの」
「だから3人で」
「だ、だって白石道反対やん」
「まだ時間も早いし平気や」
「そ、れに、えーと…、そのー…、わいと行くの!」
「なんで?」
「白石、そろそろやめ」
「白石のドアホーっ!剥げてガブリエルと一緒にお陀仏してまえっ!」

叫ぶと共に部室を出ていった。荷物も置きっぱ。
いやもう何してくれんの。

「物騒なこと言うなぁ」
「や、もういいすわ。帰るんで」
「オレも一緒にええん?」
「…金太郎が拗ねるんでやめてください。お疲れした」

置きっぱの奴の荷物を持ち、溜め息混じりに部室を出る。

分かってるし、気付いてる。あれが金太郎の自己表現で甘えだって云うのも、解ってる。自分の話しを持ち出して興味を向けさせようとしてたのも、知ってる。部長が変ちくりんなやり取りしなくたって、最初からわかってる。

部長らと自分。もちろん先輩後輩の関係。年齢が違うわけだから、これから繋がりがあってもこのレッテルは絶対に変わりようがない。なので金太郎から見れば“知らない自分”なのだろう。

金太郎とは、先輩後輩の前に知り合っているわけで、正直、金太郎に対し後輩と思ったことは一度もない。
近所の子、腐れ縁、おしゃれに言うと、幼馴染み。それが奴に対する接し方でお互いの立ち位置。

何を不安に思ったか知らないが、接し方なんて変わってないし、これでも十分構ってやってる方だ(現に荷物を持ってやってるのだから表彰ものだ)。

絶対本人には言わない。癪だし、少なからずプライドもある。
でもこの言葉だけはくれてやろうか。

住宅街をとぼとぼ歩く赤毛に声を投げてやる。

「お前といるとほんま退屈せんわ」

振り返った顔は舌を出していた。
腹立つ。けどしゃーないか。

――――――――――
構ってちゃんな金ちゃん。白石達が全く知らない人と話してても嫉妬しそう。
本当は誕生日ネタだったんだけどな。

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