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騙し騙され天の邪鬼
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「わいは、お留守番」
「ぷり」
「わいは、置いてきぼり」
「ぴよ」
「わいは、お荷物」
「……」
「わいは、お邪魔虫」
「………」
「わいは、お陀仏」
「もう違う」

あぁクソ、なんでオレなんだよ。
それが嘘偽りのない本心だ。こんなときに無駄に使えるブン太がいないとか。いや自分の選択を間違ったというのが正解なのだが。
からかうのは好きだが、遊ばれるのは嫌いだ。

「じゃあ、おたまじゃくし」
「何が言いたいんじゃ…」
「むうー、なら、お愛想?」
「アホじゃの」
「お生憎様!」

これは『お』が付くゲームなのか?判ったところで参加しないがな。

ほんの少し前の事だ。それこそ5分も経ってない。一体どんな繋がりか知らないが、立海と四天が強化試合をしようとなった。四天がこちらに来るという形で合点し実現した。幸村の我が儘というのはなんとなく分かるが。

一通り練習が終わって休憩になり、近くのスーパーに何か買いに行こうとなった。オレは面倒臭かったので一人残ることを選択した。

これが間違った選択。

『仁王くん残るん?なら金ちゃんの面倒見といてくれへん?』
『い――』
『えーっ!?わいも一緒に行くんやけど!』
『いや、何やらかすか分からん。四天(うち)ならええけど立海(こっち)はあかん』
『仁王は適任だからいいんじゃないかな。じゃ頼んだから』

となるわけだ。久しぶりに貧乏くじを引いた。こんなのジャッカルの役目だ。やっぱり行くと言えばよかったのかもしれないが、それは多くの人の手前、なんとなく言い出しにくかった。
正直を言えば、幸村が含みのある笑いをしていたから。

「な、な!詐欺ってジンクスって云うか、先代の詐欺師の教訓?あるんやろ?」
「……人を騙して金を巻き上げる方はな」
「におーは金は取らんの?」
「犯罪じゃろ」
「わいも財前あたり騙してみたい!」
「お前さんは無理じゃろ」
「やってみなきゃ分からへんやろ?なーなー」

やらなくても答えは見えきっている。なのに懲りずにぎゃーぎゃーと。本当嫌いなタイプだ。

「…白石って実はオレの従兄弟なんじゃ」
「えっ!?そうだったの!?でも言われてみれば髪のハネとか似てるかも…?」

バカだ。

「お前さん、そうだなぁ、オレを騙してみ?」
「ええよ!コシマエて実はものごっそいキバとか爪を――」
「そりゃ嘘だろ」
「ほんまやでー。えとえと、財前のピアスってな、力を制御するもんで、1個外す毎――」
「や、なんかもうちょいまともな事言いんしゃい」
「ほんまなのに〜」

少し不満げに言っているが、どう考えても本当のことではない。嘘を言っているというよりも、本人はそれを本当だと思っているので、むしろ残念な人に見える。オタクとかそういうのじゃないけど、残念。
世間では、素直ねー、とか単純ねー、とか言われるかもしれないが、素直にそれを信じるということは、知ることを放り投げたこと、考えるのをやめた事と同じ。責任を他人に押し付けて生きている奴。無知と無垢は違う。
信じるとか任せるとか響きは格好いいが全てを放棄しているだけだ。

「あ!炭酸をね、飲むと、歯ぁ溶ける!」
「お前さん、きっと赤也といい会話出来るぜ」
「もしかして、わいと話すの面倒?」
「ぷり」
「分からへんわ」

まあぶっちゃけ、面倒。
だが声には出さない。何と言おうが、今の暇潰しはこれしかいないのだから。しかも幸村に任されている。それも他の学校の預かりもの。機嫌を悪くされたり警戒を持たれたりしたら、後々厄介そうだ。

「におーて、あんま人信じなそうだよね」
「人を見かけで判断しちゃいかんぜよ」
「ふふ、ねえ、わいのことちょっとバカにして見てるやろ?」

ちょっとというか、かなりです。
なんだか楽しそうに笑っているがなんでだろう。

「人を見かけで判断しちゃいけないんやで」
「ほう?」
「におーて確かに信頼しとる人はおるけど、わいらみたいなよそ者にはまずせんよな。自分をほんまに分かってくれたら、それから初めて信頼する感じや」

正直この言葉には驚いた。見るからに頭が悪そうなのに、人の心理を察するのは長けているようだ。かなり意外だ。変なところで長けている、というのがぴったり。

「ふふふっ、びっくりした?」
「確かに、見た目で判断しちゃいかんな」
「なんとなく分かるんや。本当に、なんとなく。やから、白石とかと仲ええのかも。でもそこはにおーと同じでちょっと騙してるんや」
「それはなかなかの悪魔やのぅ」
「バカなのはほんまやけどな!」

バカな事が誇らしいのか、朗らかと笑い胸を張っていた。それはもうすごいギャップだ。
無知を装っているのではなく実際に無知で、だけども違う現実を見据えてる様だ。

「でもさ、ほんまは、わいはじ――」
「戻ったでー」
「わーっ、おかえりー!わいのたこ焼きある?」

コートの入口を見るとぞろぞろと御一行様が入ってきた。遠山は直ぐ様白石の元へと走っていった。
なんだか重要な事を聞きそびれた感じだ。
幸村がにこにこと笑いながらこちらにやってきた。

「珍しくちゃんと子守りを出来たようだね」
「ぷり」
「えー、オレん時はちゃんとしてくんないのにぃー」
「アホだからのぅ」
「えーひどいっすー」

珍しく本当にへこんだのか、影を背負いながらブン太の元へ歩いていった。軽い嫉妬みたいなものだろう。
一通り白石との話が終わったのか、遠山がまたこちらへやってきた。お役目はもう終わったのだがな。

「あんな、無知と無能、無垢がちゃうっつーのは、わいもちゃんと解っとるで」
「は」
「わいはそんなんじゃなくて“純粋”におバカなの!構ってくれておーきにな!」

にへらと笑ったと思えば、ぺこりとお辞儀をしてまた白石の元へ戻っていった。
かなり話が深いのだが。

「えっと、仁王?今のはどういう意味?」
「あー…、そのまんま?」
「なんでもいいけどさ、他校の子なんだから変なこと教えないでよね。オレ、怒られるの嫌だし」
「なんも言っとらんけどな」
「はいはい」

分かったからと適当にあしらわれ、幸村もまた、白石の元へ歩いていった。
自分のとこの後輩には嘘やら適当なことを教えるのに、他校には謝罪しに行くとかなんだか少し癪だ。いや、言われてもらえば、騙してもないし、嘘の知識も教えていない。嘘はついたが。

なんだかよく解らんのぅ。

(一種のブラックボックスなり)
「におー先輩」
「ん?」
「あっちむいてほいしましょ」

横を見ればいつの間にか戻ってきたのか、にこにこしている赤也がいた。ブン太がどうにかこうにかして機嫌を取ったのだろう。

「赤也は単純でええのぅ」
「んん?ありがとうございます?」

もちろん暇潰しに付き合った。圧勝したのは言うまでもない。

「純粋より単純な後輩の方が可愛くてええのぅ」

この言葉も後輩の耳に入ることはなかった。


―――――――――――
テーマは少し大人な金ちゃん。エイプリルフールと金ちゃんの誕生日を掛けたかったのだけど、なんだか違くなった。




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