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基本考えなし
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たまにこいつはイラっとするピンポイントをとことんと突いてくる。日頃こいつに嫌なことをしてるかというと、宿題は見せてあげてるし、ヘルプもしてあげてる。それに放課後も付き合ってあげてる。寧ろ感謝をされてもおかしくない位だ。なのにデリカシーがないのかお構い無しに言ってくる。

「うみたんけど…、無駄金多いね、凛」
「失敬な」
「やって、私服、着なくない?学生」
「わんはそれでも買うの」
「美容もそんなかけなくても、よくない?」
「美容は命やし」

というかこいつはわんを全否定したいのか。存在意義を否定するのか。最早存在否定ですか。って全部同じ意味だ。

「わからんばぁ」

いやこっちとしては毎日佐世保を買って美容にも手を付けずに全放置をしている方が分からないぞ。一張羅さえあればいいとかほんとどこの田舎な考えなわけ?いや一張羅も大切だけど日々のファッションも大切でしょ。そりゃ家とか近所とかだったらTイチでもいいけど、街中とか都会とかはそうもいかないでしょ。つか無理歩けない。それだけで勝手な印象を許しちゃうし、況してや性格までもが勝手に作られる。美容、ファッションに気を付けないとこんなにも損なのに、食べ物に金を掛けるとか。

「そりゃ食べモンも大切やけど」
「凛、今の沈黙一分間をちゃんと口で言ってくれないと分かんない」
「でもやーはそれでもふらでアホで間抜けでドジで抜けてて天然でヘタレでのっつぉで美容手抜きでセンスもなしで寧ろその言葉が世界で一番縁がないというか一番遠くというか無くても全く生きていけるような奴だけど人気だし」
「え、なんの話?」
「そうやってとぼけても許されるキャラで寧ろそれは養殖じゃなくて天然記念物でどんな皮肉言ったって軽く流すというかガチで気付いてなくて怒る気も失せるというかなんでそこでそんな言葉が出せるのかとか見事なまでのスルーだなとか思ったりするんだけどやっぱりうざいなって思ったりするんだよね、わんは」
「うん。よかったね。で合ってる?」
「合ってねーよ」

話聞いてないじゃん。よかったねってなんだよ。超簡潔に言えば、お前に腹が立っていますって話だってのに。それでよかったねって火に油じゃねぇか。

「知ってたけどさ、やーはちゃんと人の話を聞いた方がいいよ」
「うん、そうなんだよね。だから今晩は親子丼にしよっかなって」

なんの話だ。

さて、今の状況を説明しようと思う。放課後に少しお洒落な喫茶店で喋っている。もちろんこいつ、裕次郎のチョイスではない。ファーストフードは飽きたというか、美容に悪いというか、子供じみた反抗です。
裕次郎はというと外を間抜けな顔で眺めながらたまにオレンジジュースを飲んでいる。あまりにぼけっとしすぎているせいで、話が右から左へと抜けているのだ。
というかどうやれば今の流れで親子丼に繋がるんだ。

「凛ってマシンガントークする人だっけか」
「しねーよ」
「だよねー。うーん、凛はモテたいの?」
「はあ?別に考えたことないけど」
「ふうん、美容とかファッションにこだわるのってモテたいのかなって思って。ああ、それともナルシスト?」
「やーはそれで友達多いって謎だよねー」

本当になんの仕打ちだ。100歩譲って物凄くプラス思考で言えば、裕次郎は包み隠さず思ったことを素直に言っているだけなのだ。悪く言えば、他人の気持ちを汲み取れないでなんでもかんでも言えばいいと思って発言をしているだけ。
つまり今こいつは、何も考えていない。

「友達ねー。うわべだけじゃん?」
「まあな。男ってそんなもんだろ」
「うん、そおもう。でも凛とはずっと友達でいる予定です」
「え、何その微妙な発言」
「友達宣言」
「やだ」
「え、嘘」
「仕返し」
「あそ」

また裕次郎はぽけーとしだし、追加オーダーをしてくる、と言い席を立った。
もちろんさっきの裕次郎の言葉は嬉しいと感じるものがあった。
が、正直この天然っぷりには付き合っていけないような気がする。なんかい殴ってやろうかと思ったことか。

「戻ったー。チョコスコーンだけど、いる?」
「いらん」
「まだケーキあんもんね」
「んー…、成長が楽しみだな」
「なんの?」
「ゆーじろー」
「まだ身長は伸びるよ」

もちろんそっちの意味ではなく、人間としての成長だ。少しでも天然要素がなくなってくれれば。そうなったら、良き親友になってくれそうだ。それも悪くない。
チョコスコーンを食べながらにっこり笑った裕次郎は、そう思うに十分な理由だった。

「凛はもうアウトかなー。身長伸びなそう」

が、一瞬でも親友になれたらいいかなって思った自分が大いに間違っていた。

こいつとの親友なんて、無理。


―――――――――――
でもきっと気付いたら親友になってるんだよ


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