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叩けっていうでしょ
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やってしまいました。
一番自分が解ってるはずだった。こうなったらどうなるかとか、後の対処の仕方とか、その怖さは誰よりも近くで見ていた自分が知っているではないか。残りの学生時代はもうやっていけないかもしれない。

「うー…謙也ぁー…」
「え、なん、どうしたん、金ちゃん…。ガチな落ち込みっつーか、半泣きっつーか…」

さすがの謙也もこの事態には少し驚いているようだ。
部活が終わり、メンバーも点々と散っていった後、頃合いを見計らって話し掛けた。

「あ、分かった。小テスト悪かった」
「それもある」
「んー…、今日の部活で白石を結構本気で怒らせたこと?」
「…それもある」
「他校に喧嘩吹っ掛けられてちょっと大きな騒ぎになって生徒指導室沙汰になったあれ?」
「…それも、ある」

これ以上傷を抉らんといて、と呟いた金太郎は、しゅん、という効果音がぴったりだった。謙也はあれかこれかと考えていたが、どれも思い当たる節がなかった(ありすぎるがそこまで落ち込む要素がない)。

「オレに話すっつーことは、白石関係なんやろ?」
「ちゃうよ」
「え、ちゃうの?じゃなんでオレ?こういうの、いつも白石じゃん」
「今日は…、怖いから」
「まあ…、確かに許しをもらってても、その後のんきに話すとか神経疑うな」

そもそも今日1日の白石の機嫌は珍しく悪かった。理由は妹関係、女子のあれこれ、顧問の無責任、更には千歳の苦情に、その上金太郎の悪事がたくさん。これらは爽やかな朝一番に全て起こったのだから、流石の白石も平常心を保ってられなかったのだろう。

「…財前にな」
「財前?予想してなかったな」
「…財前に嫌われた」
「はあ、いつもやろ」
「いや、冗談抜きでほんまに…。ちょっと、調子に乗りすぎたというか、その…」
「そんなん、一日も経てば忘れるやろ」
「甘いで!」

あの目は、本気で嫌いな人に向ける目だった。いつもは呆れながらバカにしている目なのに、あの目は、本物だった。

「財前て、一度嫌いになった人は、もう絶対受け入れんのや…」
「え、嘘だぁ」
「ほんまやもん!ちょっかい出してくる女子とか、嫌いな同級生とかの態度思い出してみぃよ」
「んー…、目線を合わせなかったり、シカトしたり、生返事とか…。基本口きかへんな」
「やろ?」
「……言われてみれば、今日の部活で2人は一度も喋ってへんよな?というか若干財前がシカトしてたような…?」

いつも2人はペアを組んで柔軟をしているが、今日は財前がもう終わらせたとあしらっていたような。おやつの時間は、ぜんざいだったので、珍しく金太郎があげると言ったが返事もすることなく無視していたような(元々もらうような人物ではないが、言葉ぐらいは交わすはずだ)。

「…喧嘩したの?」
「やから、嫌われたの。どうしよう、わい、一生嫌われてもうた…。白石もほんまに怒っとったし、ユウジには地雷踏んでうざい言われてもうたし、千歳にもかったるってぼやかれたし、小春なんか秘密ってあしらわれたし…。散々や…」
「あー…、うん、すまん。というかどこからつっこめばいい?」
「でも、一番の問題はやっぱ財前やな…。どうしよう…」

こんなにもメンバーに迷惑をかけているも関わらず財前を優先するというのは、事がかなり大変なことになっているのだろう。いつもなら率先して白石の機嫌取りをするのに。

「ごめんなさい言うても無視されちゃうから、聞いてくれへんし…。謙也ぁー…」
「事態も把握出来てへんから、なんも言えんよ」
「…先輩なのに使えない」
「こういう時だけ先輩扱いってひどくない?……誠意を示せばええんちゃう?」
「せいい?」
「そう、心からごめんなさいって態度をみせるんや」

唸り始めた金太郎は難しい顔をして考え始めた。どんな内容で怒らせたかは知らないが、大抵の人間は誠意をみせれば、とりあえず治まるはずだ。

「分かった、財前家行って謝ってくる」
「ちなみになにしたん」
「財前の携帯?スマホ?を貸してもらったんやけど、動かんかったから、衝撃与えれば動くと思うて、ぶん投げたら壊れた」
「あぁ…、うん。そりゃ怒るよね。携帯命みたいな奴だし、自腹で機種変したばっかだと思ったし…」

というか投げたら壊れるという概念が何故ない。
多分、この騒動はしばらく治まらないんじゃないかなぁ…。

しばらくレギュラー間の仲がギスギスしたのが続いたらしい。


―――――――――――
どんなに仲良くたって、金ちゃんに怒りを覚えたことは絶対一回はあるはず


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