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大抵幼少時は食べる
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息をするたびに白い煙があがり、何重にも巻いたマフラーに口を埋める。袖から少し出た指は既に冷たく、手袋をしてくるべきだったと後悔をした。

深々と降る雪は穏やかだが確実に町を白に染め上げ、今歩いている道も既に足跡が残っている。目的の場所までほんの少しの距離なので、傘を差さずにジャケットについているフードでそれの代用をしていた。あまり雪が降らないため、甘くみていた。十分に濡れつつある。周りを見れば自分同様傘を差している者はあまりおらず、少なからず安堵した。

目的の場所に着き、軽く雪を払いフードを取ったら犬のように頭を降った。

自動ドアが開き、暖房が効いた店内にほっとする。店内は控えめに有線が流れ、時おり店の宣伝やお買い得商品の宣伝が流れていた。

どこから回るか考えたが、取り敢えずカゴを持つのが賢明だと思い、彼、白石は溜め息を吐いた。

(自分の買うものだけやったらええんだが、姉ちゃんと友香里のもんも買うとか…)

薬局へ買い物に行くと告げたら、待ってましたと言わんばかりに最近生意気になりつつある妹がメモ書きを2枚とそれを買うためのお金を寄越したのだ。

1つが姉の。1つが妹の。流し目でメモを見たら細々とリストアップされていた。

もちろん断ると云う選択肢もあったのだが、薬局へ行くのは変わらないしついでに用件を済まそうと思ったのだ。我ながら優しい兄(又は弟)だ。

と言っても正直自分の物よりお使いの物の方が多いので、どちらかと云うと自分の用件の方が、ついで、になっていた。

(まずは端っこの目薬からかな)

これが正しく自分の用件。安いものにするか、少し値は張るが気になる新商品にするか。

(まあ薬はころころ変えん方がええからな。安いやつ)

カゴに無造作に放り込み、溜め息混じりにメモ用紙を取り出す。

(面倒くさ…)
「しらーいし、こんにちは」

ぴょこりと視界に現れたのは、ダッフルコートを可愛らしく着こなし、マフラーをこれこそぐるぐる巻きにし後ろでぎゅっと結び、イヤマフを付け、よく見ればミトンもしている完全装備な金太郎だった。

「あ、金ちゃん、こんにちは。買い物?」
「ん、謙也と来てんの。なんか白石の気配感じたから来てみたらほんまにおった」
「さすが野生の勘はすごいなぁ」
「おった、おった。よう、白石」

声のする方を振り向けば片手を挙げながら謙也が来た。ダウンコートを来ており、フードに付いているファーは謙也が動作をするたびにふわりと揺れ動く。あれは何かの毛皮だろう。きっと狸あたり。フェイクファーの自分が悲しくなってくる。

「二人で薬局て珍しいペアやな」
「雪遊びついでに買い出し終わったとこ。白石も買い出し?」
「そ。オレは目薬だけなんやけど、上と下のパシリっちゅーのかな」
「白石も大変やな…。ちなみに何買うん?重くなるようなら手伝うけど」

個人的にはいくら重くなろうが、そこそこ体力をつけているから持ち帰る自信がある。しかし他に自信がないものがある。

「買うのは、ええと。シャンプー、歯磨き粉、歯ブラシ、化粧水、メイク落としに、あとシャドウにラインにブロウにマスカラ」
「うわー、めっちゃ女子な内容やな」
「しかもメイク用品以外二人分やし」

なぜか白石家の日用品はみんな使っているものがそれぞれ違うのだ。無駄過ぎる。さすがに好みの物があるからしょうがないのだろうが。
金太郎はよく分かっていないのか、取り敢えず笑って頷いているだけだった。

「で、手伝ってほしいのが、姉ちゃんからのこのメイク用品、ブランドはなんでもよし、値段も変わらないからナチュラル系で任せるって書いてあんねん」
「男のオレらには厳しいやろ」
「……?分からんもんは店員さんに聞けばええんちゃう?なあなあ、シャンプーとかはブランド書いてあるんやろ?なら、わいそっち取ってきてる」

ん、と手を差し出され、つまりはメモ用紙をくれといっているのだろう。多分メイク系は分からないから自分の分かるものをやろと思っての行動だ。ここは素直に好意に甘えよう。

「じゃ、任したで」
「おん、任しとき」
「手袋外すんやで」
「ん、また後でな」

手袋を外しながら恐らくシャンプーのコーナーだろう、そちらに歩いていった。外では適温かもしれないが、店内であの格好は暑くないのだろうか。

「金ちゃんて寒がりやっけ」
「や、あれは全部クリスマスプレゼントでもらってたやつみたいやで。ばあちゃんがくれたみたいでさ。こっちって雪は滅多に降らんから、使う機会がきたってはしゃいとったわ」
「へぇ。ま、確かに外は寒いもんなぁ。まあ東北や北海道に比べりゃマシやろうけど。さて、金ちゃんが戻る前にオレらも探すか」

謙也は軽く頷き、普段は素通りかその通路を避けて通る場所へ行く。男二人が化粧品コーナーとはさぞかし滑稽なんだろうな。

「…めっちゃあるな。え、何が違うん?メーカー?同じやん。つーか高っ」

コーナーに着いた謙也の感想はこれだった。確かに男所帯ならばメイク用品を普段から見ることや買うことは無さそうだ。よくよく思えば謙也に手伝ってもらうのは意味がなかったかもしれない。

(まあこのコーナーで一人よかええよな)
「これだけで女は化けるんやなぁ…。はあぁ…、すごいな。なんこれ、初めて見るわ。うわぁ、ラメすごいな。どこに使うん?」
(…一人の方が、よかった、かも?)
「え、これ目に塗るん?すごいな。目に入ったら痛そう…って白石、オレに聞かずともカゴに入れてるやん」
「いや…、聞くだけ無駄かなぁって。というかいつものブランドでええかなって」

使う用途すら分からない謙也に聞いてもそれの善し悪しは分からないだろうし、何を聞いても首を傾げるだろうから、それならいっそのこと自分の判断で決めた方が手っ取り早い。

「…なあ、オレ、付き合う意味あったか?」
「すまん、ないわ」
「ですよねー」
「おったー、白石お待たせー」

ここにいたと言わんばかりの顔をして、用件を済ました金太郎がカゴをガチャガチャと鳴らしてやって来た。

「あれ、早いなぁ」
「お姉さんにメモ見せたんや。そしたら一緒に回ってくれて、カゴに入れてくれた。これで合ってる?」

ひょいと出されて中を確認してみると、見慣れたメーカーの物がごちゃごちゃ入っていた。店員と確認しながら入れたのなら確認するまでもないだろう。

「おん、合ってるで。おおきに」
「うん。白石は終わったん?」
「終わったというよか打ち切りな。じゃ会計してくるわ」
「付いてく」

謙也は入り口で待っていると告げて、白石は金太郎と共にレジへ並んだ。意外にレジは混んでいたが、店員は慣れているのか回転はとても早い。

「薬局ってお菓子安いな」
「安売りのだけな。他はほぼ原価やな」
「げんか…?あ、わいらの番や」

金太郎はレジが空くや否やさっさとカゴをカウンターに置いた。店員はマニュアルの通りの言葉を述べ、一定のリズムで商品をスキャンしていく。

「以上で12407円になります」
「…高いね、白石」
「…まあ、お金は預かってるから…」

預かったお金があるにも関わらず、直ぐ様出す気にもなれず渋々と諭吉と樋口を出し、ついでに2円も出す。にこやかな店員から返ってきたものは野口だった。

律儀にも金太郎が袋を持ってくれてゆったりとしたペースで謙也の元へ向かう。
お待たせと声を掛ければ短く、ん、と返ってきた。

「こっからさ、レジぼーっと見てたんやけど、白石、随分高い買い物したなぁ」
「まあオレん買い物やないけど…。なんで買った時期はバラバラなんに、無くなるときは全部同時なんやろな」
「さあ…。きっと日常のあるあるや」
「なー、雪合戦しながら白石の家行こー?」

返事を聞く前に金太郎はさっさと自動ドアに行ってしまった。

「うちに来ること決定事項かいな」
「まー、それもうちらのあるあるや。はよ行かないと金ちゃん雪食べ始めるで」
「は、雪!?」

白石は慌てて自動ドアを潜っていった。これはきっと白石の家に着くまで雪のなんそれを金太郎に教えるのだろう。

けれど、謙也はそれに対する金太郎の答えを知っている。

『もう食べてもうたよ』


―――――――――――
謙也と二人でいた時にすでに食べてた金ちゃん。
なんで日常品って同時に無くなるんですかね。迷惑ですよね。
最近オチがつけれない。


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