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恋しい季節
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「白石白石白石白石白石っ!」
「なんやうっさい」
「んーとね、用は無いけど構ってほしいなぁと思って」
「………」
「金ちゃん、空気読んであげて。今白石ガチで部長業やってるから」

本来いないはずの金太郎がここ、3年2組にいるのは昼休みの為である。いつも制服をちゃんと着ていない彼だが、だんだんと肌寒くなってきているので前は閉じられていた。

白石はというと、試合に向けてのオーダーや、移動手段や道のり、更には部費の計算などの業務を放課後だけでは補えない為、昼休みを使ってまでやっているのだ。
謙也は自主的な手伝いで書類の整理や、簡単な計算などしていた。

「部長業?えー、後ででええやん。わい、こっちでご飯食べようと思うてお弁当持ってきたの」
「他のメンバーは?いつも食堂か屋上で食べてるやん。見ての通り、白石はちょいと忙しいから」
「みんなは食堂で食べてるけど、真面目な進路の話とかで、わいにはちょっと解らへん話してたから。やから、こっちにいるかなーって」

金太郎と謙也の会話が飛び交う中、白石は金太郎には悪いが無視という形を決め込んだ。どこかの無責任の顧問のせいで、本当に時間がないのだ。幸いにしても謙也がいるわけだから、そちらに頼むことにした。その事に気付いているのか作業していた手を止め、体は金太郎の方に向いていた。

「ううーん…。じゃ、オレとご飯食べよう。それで堪忍な」
「…別に、白石とご飯食べたいわけじゃない」
「へ、そうなん?」
「おん。ああは言ったけど、白石にだけ構ってほしいわけやないし…」

だんだんとそわそわとしてきた金太郎はどこか心ここにあらず、という感じだった。一瞬違和感を覚えた謙也だったが、でも謙也と食べる!と言った顔は元通りだったので深く追求しなかった。

空いている席を借りてご飯を食べ始めた金太郎は、一度白石を見たが、すぐに視線はお弁当に戻された。

「謙也はさ、今月、レギュラーとどのくらい一緒に過ごした?」
「うん?えーと、白石とは常にやけど、他はぼちぼちやな」
「だよね。わいもそんな感じ。いや、それ以下かな。部活以外で全員て、しばらくあらへんよね。あっても3人とか2人とか。全員で雑談って、やってないね」

可愛らしく切られたタコさんウインナーをつんつん弄りながら、軽く肩を下ろした。謙也はというと学生の味方、焼きそばパンを食べていた。もちろん、違和感は先程の倍になっていた。

「せやなぁ。各々忙しくなってきてるからなぁ」
「わいさぁ、難しい話は解らへんし、むしろ進路とか全くやからアドバイスも出来るわけないし、部長の仕事を手伝えるわけでもないし…。出来ることは後輩らしく構ってーて言える位で。結局はみんなの邪魔してうざがられてるっていうのは解ってるんやけど…」

ぱくり、とタコさんを食べた。一体どのような味がするのか、謙也には検討がつかなかった。いつもと変わらないタコさんなのに美味しくない、というのはなんとなく分かった。

「それでも、みんなと一緒にいたいんや。お話にも混ざりたいし…。みんなとは、もう少しでお別れやもん。ちょっとでも同じ時間を過ごしてアホみたいに笑って、そんでもって思い出の中でも一緒にいたい。仲間外れは、嫌やなぁ」

ちょっと前までは、金太郎はお弁当ではなく学食か購買でお昼を済ましていた。お弁当に変えたのは単に節約の為かと思ったが、もしかしたら少しでも長くみんなと一緒にいたいからなのかもしれない。

「…みんなも」
「う?」
「みんなも、金ちゃんと同じことを思ってるで。けどみんな、余裕がないから、どうしても相手が出来ないんや。でもな、これが終われば前以上にバカ騒ぎ出来るから」
「でもそれ卒業目前の話やろ?」
「う…、まあ…」
「それでもオレらが仲間っちゅーことは変わりないで」

黙りを決め込んでいた白石が会話に参加をした。しかし視線は机に向かったままだ。さらさらと紙に書き込んでいるが、それが部活関係なのか進路関係なのかは金太郎には分からなかった。

「今は確かにみんな自分の事でいっぱいいっぱいや。時間が取れないのも事実やし、気が立ってる奴がおるのも事実や。金ちゃんに話しても分からないことだから、話さないこともあるのもほんまや」
「…おん」
「でもさ、みんなが金ちゃんと話す時、どんな事よりも楽しそうに話してる事、気付いてる?」
「…ううん、知らない」
「仲間外れなんて誰もしてないよ」

金太郎は数回瞬きをし、謙也を見た。彼は軽く笑い、白石の言ったことに同意していた。もう一度白石を見たが、やはり視線が合うことはなかった。

「な…、なぁーんてね!構ってほしいからこんなこと言っただけやもん。肌寒くなってきたから人肌恋しくなったんかなぁ」

まだ残っているのにお弁当をぱたぱたと片付け始め、へらへらと笑いながら立ち上がった。

「お邪魔しました」
「え、金ちゃん?」
「あの、忙しいのにわざわざおおきに。白石も、おおきに」

それだけを言うと足早に教室を後にした。残された謙也は状況を掴めず、取り合えず食べかけのパンを食べ終えた。
白石の作業を手伝うべく、元いた場所に戻り書類を手に持つ。

「なんか、どうしたんやろ」
「さあ、知らんわ」
「知らんてお前…」
「分かるのは、恥ずかしくなったんやろなぁ」
「そう認識させたんは白石やろ…。でもまあ、誤解が解けたんならええのかな。あれやろ?つまりは金ちゃんはみんなと沢山話したいし、一緒にいたいし、輪の中に入れてほしいってことやろ?」
「謙也がそう認識したならそうなんやない?」

本当に時間がなくて、他には手が回らないんだなぁと思った。ここまでの投げやり発言はあまり聞かない。だからこそ謙也も手伝っているんだが、内容を見る限り、明らかに顧問の仕事も入っている。絶対に部長だからやるという内容ではない。

「……なあ、なんで一度も金ちゃん見なかったん?」

そう聞くとぴたりと止まり、この作業に入ってから初めて顔を上げた。心なしかジト目で睨んでいる。

「あんなクサイ言葉、顔見て言えるわけないやろ」
「詰まる所、白石も恥ずかしかったっちゅー話やな」
「うるさいヘタレ」

普段言っている言葉の方がよっぽど恥ずかしいだろうに。そんなことは言えるはずもなく、ただ単に、はいはい、と聞き流すだけだった。

きっと今は、みんな人肌恋しい時期なんだ。


―――――――――――
取り合えず私の金ちゃん像はおかしい

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