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ま た ね
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時期はもう2月の終わり。寒さが和らぐことはまだないけど、確かに春を告げようとしていた。

春が来れば、オレ達は卒業。いつも煩い教室も少しずつ寂しい空気を帯びるようになってきた。
オレ達も例外ではなかった。進路は綺麗に別れた。オレは薬剤を学べる高校へ、謙也は医学大学に入学しやすい高校へ、小春は頭のいい名のある高校へ、ユウジはデザインを中心とした高校へ、銀は東京へ千歳は熊本へそれぞれ帰る。
テニスを続けるかどうかはまだみんな決まってはいないようだ。

自分で選んだ進路なのに、何故か後ろ髪を引かれる。みんなとはずっと一緒に居れるような気がしていたから。

そんなことを考えていたら謙也が教室に入ってきて、周りに挨拶をしながら、オレの前の席に来て無造作に鞄を置き、椅子にどかりと座る。座ったと同時に外の香りがした。

「おはよ!今日も寒いなぁ」
「ん、おはよ」
「なんや浮かない顔して」
「なんでもあらへん」

はぁー、と盛大に溜め息を付き机に伏せたら、謙也が焦り気味で大丈夫か聞いてきた。手をひらひらさせれば、話し掛けてくることはなかった。

まさかここまで感傷的になっているとは思ってもいなかった。どこの女子だか。だけどその位ここには大切な思い出と大事な仲間達があるんだ。

ポケットに入れっぱなしの携帯が着信を知らせた。顔を上げれば謙也が心配そうに見ていたので、平気だと伝えたら安心した顔をした。朝っぱらから誰だと思いつつディスプレイを見る。

(財前?)

内容を読むと話したいことがあるから昼休みにこっちに来るとだけ書いてあった。
財前からメールがくるのは大抵事務的な内容が多いので部活の関係かと目星を付け、分かったと返信をした。

「昼休み財前来るって」
「ホンマ?じゃあご飯どうする?」
「話の長さにもよるな。謙也には付き合ってもらうけど」
「当たり前のこと聞くな」

にししと笑う謙也に釣られオレも笑顔になった。千歳達に連絡しておくといって携帯をいじりだした。
いい親友を持ったな。染々思う。……卒業、か。





昼休みに直ぐなった。どの授業も終わっていたので、授業という授業はなく、卒業した後の心得や今から思い出を沢山残すようにとか、そういう内容ばかりだった。

「分かったで!白石はおセンチなんやな!やたら溜め息付いてたし。やろ?」
「うっさいわ、アホ!」
「怒んなって!ほら、財前来たで」

見ると、学年違いの教室なのに堂々と入ってくる財前がいた。相変わらずのポーカーフェイスで。

「こんっちは、白石部長、謙也さん」
「オレはもう部長ちゃう言うてるやろ、財前部長」
「オレん中では部長は白石部長だけっすわ」

顔色一つ変えずに、かっこいいことを言ってくれる財前は相変わらずだなと思った。そんな風に思われてるなんてちょっとこそっばゆい。
今日はここで食べると言って周りの目を気にすることなく空いている席に座ってご飯を食べ始めた。財前に倣ってオレ達も食べることにした。

「で、どうしたんや?」
「金太郎のことっすわ」
「金ちゃん?白石いなくて言うこときかへんとか?」

金ちゃんで相談といえば、確かにそれしか思いつかない。けど違うのか財前は溜め息を付いた。

「暴れてくれんならええんやけどな。先輩らに心配掛けたくない思って、相談するか悩んだんやけど、手に負えないっすわ」
「ん?暴れなくてええんとちゃう?」

謙也がそう聞くと、一瞬だけ俯いた、というよりは目を逸らした。どうやら話すことに対し少し躊躇があるようだ。意を決めたのか重い口を開いた。

「元気ないねん。その……卒業が近づくにつれて」

こればかりはオレも謙也もなんとも言うことが出来なかった。いや、なんと言ったらいいか分からなかった。ただ目を伏せるしか出来なかった。

「部活やみんなと一緒に居るときは元気なんや。けど最近は部活でもケアミス多いし、1人で居るとめっちゃ元気ないねん。心配で休み時間金太郎の教室覗きに行ったら机に座って俯いてるだけねん。ユウジ先輩みたく泣き喚いてくれればなんとか出来んのに」

みんな推薦で入ることが出来たので、ユウジの事はもう4ヶ月前のことだ。小春と違う進路になって、小春なしでは生きていけないと3日ぐらい泣き叫んでいたのだ。小春に大変やねって言ったら苦笑いをしながら言ったことを今でもはっきり覚えている。

『ユウくんはね、頭いい子やからね。ああやって泣き叫べばみんな気楽に慰めの言葉を掛けることが出来るって分かってるんや。陰でめそめそ泣かれたら言葉なんて掛けられないやろ?心配してほしくないから、ユウくんなりのみんなへの気遣いなんや』

確かにって思った。ユウジは本当に大人だ。やっぱり金ちゃんはおバカだなぁ。

「……財前は立派な部長さんやな。後輩の心配をちゃんと出来るんやから」
「…部長として当然っすよ」
「はは、卒業かぁ〜。いつか必ず来るって分かってたけど…、切ないなぁ…」
「謙也さん、涙目ですよ」
「欠伸じゃ、ボケ!」
「してなかったやん」
「噛み殺したんや!」

こんな風景ももう少しで見れなくなるんだ。うん、謙也が言った通り切ない。

「ホンマすんません。卒業前に心配事を言うつもりはなかったんやけど、金太郎、みんなの前では元気やし、言うてもはぐらかすからどうにも出来なくて…。見てるこっちが辛いんや」
「気にせんて。金ちゃんね…どうするのが一番ええんやろな」

多分、解決方法は金ちゃんの口から聞くこと。そしてそれを受け止めてあげること。これが得策だと思う。
時間の流れは誰も止めることは出来ないから。


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