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大 好 き
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あの日約束した夏祭り―――
それはもう2年前になってしまう。それ以降みんな揃って逢う事はなかった。

―今ワイは高1になった。誰の後を追うわけでもなくテニスが強豪のところへ推薦で入った。

財前は情報系の高校へ進学していた。相変わらず変わらない。ワイとの関係もそうだ。財前が卒業した後も今現在も、アポなしで財前宅に遊びに行っている。嫌な顔をされるが、なんやかんやで構ってくれる。変わったと云えば、立海の切原赤也とよく連絡を取るようになった事だろうか。部長同士でそのまま仲良くなったらしい。それ以外は何も変わらない。

他のみんなは、分からない。

本当は毎年夏祭りにみんな集まる予定だった。だけど、去年の時はワイが受験生で、いくらテニスの強みがあっても、成績がアレだったので、卒部をしたあとは学校の講習に強制的に入り浸りだった。白石達に勉強を教えてもらったことが、いやに懐かしい。この時ほど自分の成績を恨んだことはない。そのお陰で夏祭りさえも行けなかった。財前がたこ焼きを買ってきてはくれたけど、その場の雰囲気とみんな(千歳と銀は来なかったみたいだが)に逢えなくては、たこ焼きはただのたこ焼きでしかなかった。

今年の夏祭りは白石達が大学受験で、みんなそれぞれの試験対策で忙しく、来れなかった。財前と一緒に行ったが、明るい祭りも何故か少し物悲しかった。
文化祭もすれ違って逢うことが出来なかった。

もう2年…。みんながいない日々はあまり思い出には残っていない。ただ平凡に音もなく過ぎていくだけだった。

時期は11月の半ば。肌寒い日々が続く。軽くヒーターを付け部屋を暖め、自室のベッドにごろんと寝転がる。天井を見つめ、いつもながらのことを思う。

(みんな…逢いたいとか思わへんのかな…)

電話番号もアドレスも知っている。だけど暫く連絡をしていない。というか、携帯を好んで使わないのだが。
時間があまりに経ってしまって連絡するのが怖いのだ。自分だけそう思っていて、拒絶されるのが何よりも怖い。メールを送っても返事が返ってこないかもしれないと思ってしまう。

(そんな風に思う自分も、うじうじの自分も嫌やわ)

ごろりと今度は壁を向く。
別に逢えないのはしょうがないが、近くに居るのに2年も逢っていないのだ。流石に逢いたいと思ってしまう。
いや、逢えなくなったのはテニスを選んだこともある。みんなバイトをしているらしいが、みんなほど休みに融通が効かない。

(やっぱワイだけかなー…。だって財前だってワイが赴かないと逢えへんもんな)

そう思っていたらバタンとドアが開いた。おかんが何かしに来たのだろう。今は気分ではなく、そのまんま背を向け寝たフリをする。

「なんや、もう寝てるんか」
「んー、財前?」

ごろりと壁に背を向ければ、珍しく制服姿の財前がいた。手にはビニール袋を持っている。

「たこ焼き買ってきてやったで」
「たこ焼き!?おおきに!」

起き上がりビニール袋を受け取る。出来たての香りがする。財前は椅子に座り、携帯をいじりだす。たこ焼きを口にしながら訊ねた。

「財前から来るなんて珍しいやん」
「バイト休みやったから」


あぁそう、と相槌を打ったが、本心はかなり嬉しかった。それだけの理由で遅くに、しかもたこ焼きまで買ってきてくれたのだから。

「なー、白石達と連絡取っとる?」
「ん、あんま取っとらんけど、ブログの方でみんなコメくれるわ」
「最後に逢ったんは?」
「千歳さんは謙也さんの誕生日の時やけど、他はオレの誕生日やな。白石さんと謙也さんは結構逢うけど」
「ふーん…」

ごちそうさま、と言ったら、ん、と返ってきた。
財前は高校にあがってからはみんなのことをさん付けで呼ぶようになっていた。
ワイだけか、逢ってないの。しゃーないけど。テニスを選び強豪の学校へ行った。レギュラーの座なんて直ぐに取れて、その分休みも余計になくて。ただ一つ、約束したコシマエとの再戦を望んで。

「お前は?逢ったの」
「2年前」
「は?」
「財前以外には約束した夏祭りっきり逢っとらん」

この時ばかりは携帯をいじるのを止めて、驚きを隠せないと言わんばかりにじっと見てきた。

「ホンマに言うてんの?」
「おん」
「お前の誕生日とかは?」
「中3は旅行行ってて、今年は推薦で行ったから、部活に参加してたん」
「…てっきりオレんちみたく押し入ってんのかと思ったわ」

うんともすんとも言わずに、ベッドに仰向けになった。

「連絡は取ってるん?」
「んーんー。携帯は好かん。それに今はなんかの試験とかで忙しいんやろ?」
「相変わらず強がりやな」

強がり―…。違う、意地張りなんだ。何時までも甘えてられない。だけど、それが自分の性なのか、正直言ってしまえば、甘えたい。

「お前が逢いたい言うたら逢ってくれるやろ」
「多分、な。でもな、我儘言わへんって約束したんや」
「それ我儘ちゃうやん。ちゃんと言いたいこと言わへんと。もっと逢えなくなって後悔するで」

何となく聞き覚えのある言葉だった。いや、ちゃんと覚えている。卒業してほしくないと云うことを言えなかった時に、似たようなことを言ってくれた。
もう苦しい言い訳はやめよう。腕を顔に覆い被せる。

「…ホンマ言うとな、逢うんの、めっちゃ怖いんや。あんなに信じとったのに。自分が嫌になるわ…」

何度も何度も確認をした絆。けれど逢えなくなるにつれて、ゆっくり解けていく絲。紡ぎ合わせるものが無く、解けていくのをゆっくりと見守ることしか出来ない。
気付けば涙が頬を伝っていた。

「大丈夫やけどな。白石さん、逢うたびお前のこと聞いてくるんや」

立ち上がる音がして、頭をぽんと撫でてくれ、ほなな、と言って出ていった。
逢わないとこんなにも不安が募るものなんだね。

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