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□寒い今日の日
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「え、ちょおほんまに言ってんすか」
そこには珍しく焦っている財前がいた。
今日は今年一番の冷え込みの日。ニュースでは1月上旬だとも言っていた。今はまだ11月下旬だというのに。
さすがに今日の部活は室内でなにかかと思ったが、そうもいかないらしい(当たり前だが)。
「外はめっちゃ寒いけど、テニスしてたら暖まるやろ」
「そりゃそうやけど…」
「分かったら部活や」
白石に促され、仕方なく部室を出る。一歩出ただけで冷たい風が頬を叩きつけ、元々高くない体温を奪っていく。自然と手はポケットに入る。
「…さむ」
「やっと来おったか。ストレッチするで」
謙也が寒さを気にすることなく、笑顔で片手を挙げた。返事の代わりに溜め息を吐いたら、白い煙がたった。部活はもうしょうがない。その腹いせに謙也の背中を押すとき、いつもより少し力を強く入れてやった。
「痛い!痛いやん!」
「あぁ、さーせん」
「てかお前手ぇ冷たいなぁ」
押していた背中から冷たさを感じたのかそんなことを言われた。財前自身も背中暖かいな、など口が裂けても言えないことを思っていたのだが。
なんとなく知られたくなかったので、背中から手を放し、そのままポケットに突っ込んだ。
「そりゃこんな寒むけりゃ冷たくもなるでしょ」
「まあな。それにしても冷たくあらへん?」
「なんー?財前、手、冷たいん?」
ひょっこりどこからか出てきた金太郎は興味津々そうに尋ねてきた。
「普通や」
「ん」
「なん」
「あくしゅ!」
なぜ握手などしなければならないのだろうか。嫌だと態度で示したら、無理矢理ポケットから手を出され握手された。
「うわー、ほんま冷た!」
「…やからなんや」
「わい暖めてあげたる!」
金太郎は小さな手で一生懸命擦って手を暖め始めた。それがなんだか余計恥ずかしくて。しかし金太郎はにっこり笑って顔をあげた。
「あんな、白石や謙也、あと千歳とかな、めっちゃ手ぇあったかいねん。わいもよおこうやって暖めてもらってんねん」
「…はぁー。オレんは冷え症なんや。結局意味ないねん」
「ひえしょう?」
「財前が?意外やな」
謙也と金太郎は顔を見合わせて、なにかアイコンタクトで会話をしていた。
そして手をぎゅっと掴んだまま何かを閃いた顔をした。
「あ!そや!わい聞いたことあるで」
「生姜関係の話はいらんから」
「ちゃうよー。あんな、手ぇ冷たい人は心があったかいんやって。で、手ぇあったかいと心が冷たいらしいで!」
「なるほど!じゃあ財前は心があったかいええ奴なんやな!」
そんなことは決してないけれど。だけど金太郎はさっき何て言った?
「…金太郎の説がほんまなら、部長や謙也さん達は冷たい人っちゅーことになるやん」
そこで初めて気付いたのか、財前の手からやっと離れ、自分の口に慌てて手をあてた。謙也も、あ、みたいな顔をしている。
「あん、ちゃうよ!コトバのアヤや!ただ財前を励まそ思て…」
「そうか、オレは冷たい人んか…」
「そんなことあらへん!あうう、ごめん〜」
「…アホらし」
とにかく寒いので早く体を動かそうと思い後ろを振り返ったら、笑顔の白石がいた。
「ウチの部は基本自由やけど、部活してへんと怒るで。なんせオレは心が冷たいらしいからなぁ」
「ちゃう言うてんやんか!もうええ!部活千歳んとこでサボったる!」
「なん金ちゃん、言うこと聞かへんなら―…」
「白石なんて大っ嫌いやもん!」
そこには確実にショックを受けて言葉が出ない白石と、唖然とそのやりとりを見ている謙也と財前、そして回れ右をしてその場を走って千歳の元へ行く金太郎がいた。
さあ被害者は誰だ。
冷え症ということを隠していたのにバレてしまった財前か。
悪怯れもなく無邪気に心が冷たい人と言われた謙也か。
謝っているのに聞き入ってもらえない金太郎か。
少しからかっただけなのに本気で大嫌いと言われた白石か。
無関係なのに金太郎を宥める羽目になる千歳か。
今年一番の冷え込みの日に、それぞれに色んな感情が生まれた。
後にぐずった金太郎が千歳に手を引かれ白石に謝りに来た。その後は普通の部活になったとユウジは語った。
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昨日今日と急に寒くなりましたね。それだけで書いたネタ。
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