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ケガをしました
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「あきれすけんえん?」
「そう」
「なんそれ」
「金ちゃんの足が起こしてる炎症や」

この足痛いこと?
今金太郎は忍足クリニックにお邪魔している。2、3日前からなんとなく右足が痛いと思っていて、まだ痛みが続いていたので今日白石にそれを伝え、軽い診断を受けたらどうやらアキレス腱を痛めているらしい。
アキレス腱はさすがに心配だということで、部活を休み謙也に連れられ今に至のだ。

「なんやろな、きっと金ちゃんの場合は使いすぎなんかなぁ。運動ちゃんとしとってそれ起こすんはおかしいもん。切れてるわけでもないしな」

謙也が淡々と親父さんからもらった診察表を見ながら呟く。
ただ一つ心配していることを聞いてみる。

「部活は出来るん?」
「なん言ってるんや。歩くだけでも痛くてやっとなんやろ?しばらくは安静や」
「えー!?イヤや!部活出る!」
「ダ メ !今安静にしてないと、むしろこの先テニス出来なくなるかもしれんやで?それは嫌やろ」
「…おん」
「痛み止めと湿布処方すっから、ちゃんと飲んで貼るんやで」

はい、と手渡されたのは1週間分の薬と湿布。結構な量に見えるのは自分だけだろうか。
取り敢えず白石に報告するために謙也と部活へ戻りに行く。しかしそれだけでも一苦労でぴょっこ、ぴょっこと変なリズムで歩いてしまう。

「おぶろうか?」
「大丈夫や。湿布して包帯ぐるぐるしてくれたから、そこまで痛くなくなったわ」

右足は丁寧に包帯が巻かれ、足首があまり動かないようになっていた。そのお陰で痛い筋を使わないようになり大分痛さが和らいでいた。

「なぁー、ほんまに部活しちゃダメなん?」
「やから歩くのもやっとなのに、走れるわけあらへんやん」
「ちぇー…。じゃあランニングは?」
「走れん言うてんやん」
「なら筋トレ!」
「その筋を痛めてんやって」
「う、腕相撲…」

そんなことを言うと謙也は呆れ、ポケットに手を突っ込みながら溜め息を吐いた。

「あんな、オレやから聞くだけ聞くものの、白石に言ってみ?なんも聞いてくれへんで」
「千歳に構ってもらうからええもん」
「まずは歩けるようになったらな」

相変わらず変なリズムで歩いていることを指摘され、少しだけ頭にくるものがあった。わざと走ってやろうかと思ったが、筋が少しでも張るだけで激痛が走り、その抵抗は虚しく終わった。仕舞には一人コント?だなんて言われる始末だ。

普段の倍掛けて学校へ向かう。その間も謙也はペースを合わせて歩いてくれる。これが財前だったらどうだろう。我関せずと言ったように一人で先に行ってしまうだろう。

校門が見えてきて、やっと着いたか、とい気持ちが大きかった。白石に報告するのはとても気が進まなかったが、ここまで来てしまったらもうしょうがない。大人しく謙也の後に続く。

部活はみんなラリーをしており、見ているだけでこちらがやりたくなってくる。
白石が金太郎達が帰ってきたことに気付き、ラリー相手のユウジに片手を上げ、一端中止の合図を送る。すぐにこちらに向かってきた。ユウジはそのまま小春のところへ走っていった。
どうだった?と聞いてくる白石は汗一つかいておらず、さすがだなと思った。

「アキレス腱炎やって」
「は!?そんな重傷なん!?」
「原因は分からんけど、取り敢えず安静第一や」
「わい部活に出るで!」
「ダメ、安静や」
「なんでな!やってちゃんと薬ももらうてん。飲んだら平気や!」
「金ちゃん、あんな、あの薬は痛み止めであって、あれを飲んだからって治るわけやないんやで」
「そ、そうなん…!?」

てっきり治る薬をくれたと思っていた。治らないんだ…。いや治らなくても意地でも部活に出てやる。

「しら――…」
「ダメや」
「なんも言うてへんやん!」
「心の声がはっきり聞こえてきたで。部活に出てやるってな」
「出来るもん!」
「じゃあ…、部室にタオル、置いてあんねん」
「へ」
「取ってきてほしいなぁ。金ちゃんなら走って30秒ぐらいで取ってこれるやろ?」
「お、おん…」

走ろうとしたが、もちろんそんなことは出来なくて。変なリズムで頑張って歩く(気持ちは走っているのだが)。行くだけで1分近く掛かり、白石にタオルを渡すことが出来たのは30秒どころではなく、2分掛かった。

「はい、タオル」
「なぁ金ちゃん、歩くのもやっとや。今は部活は出来へんよ。頼むから大人しくしといてや」
「…はーい」
「うし、いい子や。今日は帰ってええよ」

頭を撫でながらそんなことを言われた。いつもなら嬉しいなでなでも今日はすごく嫌に感じた。帰っていい?やだ。

「帰るのはイヤや」
「でもな、そのペースで歩くんなら、今から帰らんとかなり遅くになるやん」
「んー…じゃあ一人で帰るのイヤや」
「なんもー…、ほんま我儘なやっちゃなー」
「ほんなら」

丁度横を通り掛かった財前が会話に参加してきた。彼が途中から会話に入ってくるのは珍しい。特に金太郎絡みだとなんとなく避けている(ように見える)ので、正直驚いた。

「オレ、金太郎と一緒に帰りますよ」
「わー、ほんまにっ?」
「だーめーや。なんそのサボれてラッキーみたいな本心は」
「ええやないすかー。やないと金太郎帰らないって言うてますし」
「お前って人利用するよなー…」

謙也の一言にツンと顔を背き、親切心やとぼそりと言った。その間にも金太郎は、一人じゃ帰らへん!と騒いでいる。そんな金太郎を見て白石は腕を組んで考え始めた。

「…わかった。金ちゃんは謙也と帰り」
「オレ?」
「ほんまっ?」
「そ。なんなら謙也はそのまま帰ってええから。てか帰ってええわ」
「なんでオレはダメで謙也さんはええんすか」
「謙也はお前と違うて疾しい気持ちがないからや。財前は部活に戻る、二人は早よ帰りや」

白石はそれだけ言って彼自身も部活へ戻っていった。財前も渋々と戻る。残された二人はぽつんとして白石の背中を見ていた。有無を言わせぬ感が漂っており、顔を見合わせ苦笑った。

「…ほな、じゃあ帰りますか」
「おん、よろしゅう」

謙也は部室に行って制服に着替え、ラケットバックを持って出てきた。ぴょっこり歩くペースに合わせて歩く謙也は、良心の固まりの人間だとつくづく思った。

帰路を歩くが、お互い無言で微妙な空気が流れている。こういう時に限って話題が思いつかないのだ。

「あー…、あん…、あ!」
「なんさっきから変なん言ってんや」
「謙也、あれ?別れ道、あっちやん」
「おん、それが?」
「なんでこっち来てるん?」

一瞬驚いた顔をしたが、すぐにニカッと笑う。

「金ちゃん家まで送り届けるんや。一人では帰らんのやろ?それに心配やからな」

当然と言ってのけるので、なんとなく罪悪感が残る。なんせ我儘を言って、無理矢理部活を中断させ一緒に帰っているのだから。それに多少方向が違うのにわざわざ家まで送ってくれ、歩くペースも合わせてくれる。
もしもなれるのなら、謙也みたいな人になりたいものだ。

「おおきにな」
「あと金ちゃん、自分の症状もよお分かっとらんやろ?ちゃんと親に言わなきゃな。薬も」
「心配しすぎや〜。ちゃんと分かってるで!」
「じゃあなんて症状?」
「ぁ、足痛い痛い病…」

なんやそれ、と笑いながら、オレ行かなきゃダメやん、と付け加えた。
なんか、ほんとに申し訳なくなってきた。

「…謙也のために早よ足治すな」
「なんそれ。自分のためやろ?」

これから気ぃ付けんやで?と頭を撫でられ、家に着いた。すでに親は帰ってきており、謙也が症状と薬について説明してくれた。
ご飯を食べていくかと聞いたら、謙也らしく断り帰っていった。

(部活禁止かぁー…。ま、なんとかなるやろ)

不味い薬を飲み、湿布を取り替える。明日から千歳に沢山構ってもらおう。猫と一緒にお昼寝して、だらだらしてよう。
きっとそんな日もいいはずだ。


――――――
痛いです。私がガチでなりました。素で歩けませんでした。薬は不味いし、走れないし…。頑張って治療中です。


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