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一緒で、手作り
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いつからだったか。お昼ご飯を一人で食べるようになったのは。
いつからだったか。食べるときに音楽を聴きながら食べるようになったのは。

少なくともちょっと前までは誰かと食べていた。他愛のない会話に適当な相槌をしながらそれなりに楽しく昼休みを過ごしていた。もうそれは懐かしい記憶だ。

今はただ一人でイヤホンを耳に突っ込み、黙々と食を取るだけ。周りの笑い声など不快なだけで、ノイズキャンセラーを入れて聞こえないようにする。

食べ終われば、時間が来るまで携帯をいじる。昼休みはずっとそれの繰り返しだ。
見るものなんて限られていて、正直言ってしまえば飽きてしまった。けれどこれといってやることもないし、部長の言葉を借りてしまえば無駄な時間を過ごしている。

(おもろない…)

携帯を閉じ、頬杖を付きながら教室を見渡す。皆グループを作り、楽しそうに食べている。羨ましいとかは思ったりしないが、釈然としない気持ちもある。
そうなるのならば初めから先輩達の誘いを受けるべきだったか。しかし放課後に嫌と言うほど会うし、金太郎に関しては運が悪いと一緒に帰る羽目になる。
昼休みぐらいは自分の時間を、と思ったのが一人のきっかけだっただろうか。

(んなのどうでもええけどな)

ふと携帯を見たとき、タイミングよくサブディスプレイにreceiveingと表示され、少し間を置いてからバイブがなり、イルミネーションが白に光りながら、忍足謙也と表示された。
少し怪訝そうな顔つきで携帯を見つめたが、バイブもうるさいし(ノイズキャンセラーで聞こえないが)、この人の場合、昼休み中だとすぐに返さないと嫌がらせの如く5分に1回のペースで返信はまだかとメールを寄越してくるので(昼休み以外だと全くそんなことはないのだが)、少し嫌々ながら手に取った。

(調理室に来い?なんの呼び出しや)

返信内容はもちろんやだ。そしたらどうだろう。まだ1分も経っていないのに返信が来たではないか。どんだけ携帯を握り締めていたんだ。
溜め息を吐きつつ内容を読む。

(早よ来い?どんだけ話が噛み合ってないんや)

そして今度はメールではなく、電話が掛かってきた。10秒くらいなったら切れ、またすぐに掛かってを繰り返した。
どんだけ待てないんや。
通話料をかけるのは嫌なので着信がなったら、しょうがなく出た。

「なんすかうざったい」
<調理室や!早よ来ないと白石公認今日一日金ちゃんの世話係やで>
「ちょおなんすかそれ」
<確か宿題で古典出されておったなぁ。でも財前やったら安心して任せられるな>
「…行きゃええんやろ」
<おん!待っとるで〜>

行く気は全くなかったが、金太郎の世話なんて嫌だし、好きでもない古典をやるなんてもっと嫌だ。
渋々と席を立ち、怠い体で調理室へ向かった。シカトをするという選択肢もあったが、したら直々迎えに来て余計面倒臭そうになるので、自分自身にしょうがないと言い聞かせる。
古典、やだし。

階段を降りて、廊下を曲がれば、ちょっと奥に調理室が見える。
野性の勘か、なにかは分からないが、タイミングよくドアからぴょこっと金太郎の顔が出てきた。

「ほら!やっぱり財前来たでっ」

中にいる、大方レギュラーメンバーだろう、に知らせ、勢い良くこちらに走ってきて、腕を引っ張る。

「おはよ、財前!早よ行こな!」
「はいはい、分かったから、引っ張んな」

そのまま金太郎に引き摺られる形で、そのまま調理室に入った。案の定、思った通りのメンバーがいた。
その中ににこにこしている謙也がいた。この顔、めっさ腹立つ。

「さっきはメールと電話をドウモ。お陰さまで有意義な昼休みを過ごせそうです」
「なんそのトゲと皮肉たっぷりな言い方は」
「ぶちょー、なんすか、いきなり来いって」
「そしてスルーですか」

やたらツッコミをする謙也を無視して、なにかを調理している白石に問い掛けた。

「うん?あぁ、理由?」
「わいがな、財前と食べたい言うたからや!」
「追加の説明お願いします」
「金ちゃんがな、しばらく財前とお昼食べてない言うてな、じゃあ一緒に食べようなって。な」
「おん!」
「昼はもう食べました」

ぴしゃりと言ってのけたが、小春がチッチと指を振る。
どうやらここの人たちはイライラさせることが得意らしい。今知ったこっちゃないが。

「お昼はみんな食べたわよ。だから今はデザートを作ってるんや」
「はあ、よかったすね」
「いや、お前も食べるがな」
「へえ、よかったですね。じゃ」
「いやいやいや!キャッチボールしようや!」

帰ろうと思ったが、変なアクションを取るユウジにより妨げられる。
教室に戻っても特になにをするわけではないが、気分的にこのメンバーといたくない。
そんなことを思っていたら銀がやんわり笑ってきた。

「まあそう言わんて。みんなでぜんざい作ってたんや」
「ぜんざい?」

つい、ほんとについ反応してしまった。その反応に白石と謙也が笑ったのは気のせいではない。

「そうだばい。みんなで粉こねて、丸めて、ぐつぐつって」
「ほら、出来たで」

お椀を渡され、拒めない自分が嫌だ。小さな声で、ドウモと呟き、空いている席に座った。隣には直ぐ様金太郎が座り、お椀を両手に持ってにこにこしている。

「…なに?」
「財前の隣や〜って思って!」
「はぁ」
「じゃあアタシも光の隣に座るわ」
「ダメや!ならオレがこいつの隣に座ったる!」
「反対側にユウ君座ればええやん」
「オレも財前の隣さ座りたいとね」
「わいは絶対避けへんからな!」
「財前はモテモテやなぁ」

いや、ちょ、なん?なんでこんなに屯られん?
気にはなったが、特には追求せずぜんざいに口を付ける。
おいしい。
まだ周りはぎゃいぎゃい騒いでいるが、心はなんとなく穏やかだ。誰かとご飯を食べるってこんなにも楽しくって、暖かかったけ?

「な、な?美味いん?わい頑張ったんやで?」
「…おん、美味いで」

そう言うとみんな顔を見合わせ、満面の笑みを浮かべた。
これからまた、この人たちとお昼を食べようかな。


――――――
今の状況が最初の状況です。誰かと手作りのお昼を一緒に食べるのって美味しくて、楽しくて、暖かいよねってお話です。


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