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後輩は皆可愛い
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最初は一体どういう子なのだろうというのが第一印象だった。だって頭を下げて、性格や態度に問題あるけど多めに見てくれとか、暴れたら殴っていいとか、全くイメージを掴めなかった。取り敢えず金ちゃんとは違った問題児なのかな、と思った。

けど実際会ってみたらそんなことは全くなく、第二印象は犬となった。
今もぱたぱたとこちらへ走ってくる姿は、犬の他ない。

「白石さん、白石さん!」
「どうしたんや、そんな慌てて」
「さっき野良猫いたんすよ!」

金ちゃんとは違った問題児と言ったが、寧ろ中身は金ちゃんと千歳を合わせたようで。まぁ、つまり、可愛い後輩だという感想だ。
特に返事を待つことなく赤也は続けた。

「写メ撮ろうと思ったんすけど、直ぐにどっか行っちゃって、でも携帯持ってないことに気付いて、結局撮れなかったなーって。見せたかったっす」
「残念やったなぁ。けどほら、運がよかったらまた会えるかもしれへんよ。そん時撮ればええやん」
「そうっすよね!」

ふと思えば、きっと後輩らしい後輩はうちにはいないから、可愛いのだろうと思う。
慕ってくれても敬語なしの挙げ句呼び捨て、先輩呼びでしょうがなく敬語だが慕う気配なしの生意気。それも2人とも他校でも関係なし。
しかし切原は先輩も他校生の先輩にも敬語をしっかり使い、教育がなっているなと感心する。

「切原君はしっかりしてるなぁ」
「え、ほんとっすか!?初めて言われました!」
「おん、敬語はちゃんと使えるし。偉いことや」
「あ、え、そこ?あ〜、まぁ最初は大口叩いてたんですけど、もうきっちり真田副部長と柳先輩にこう…、鉄拳制裁やノートの角っここうげ…げ!丸井先輩…!」

切原が来た方向とは別の方からポケットに手を突っ込み、ガムを膨らませながら丸井がやってきた。白石は一喝入れようと思ったが、他校生だし多めに見ることにした。

「なーんだよぃ、げって。先輩に向かってよ」
「いや、別に、丸井先輩はかっこいいなって!」
「ははっ!そーかそーか!嘘っけ」
「…あは、バレちゃいました?」
「大方真田の愚痴…と言うよりもなんかの話題だろぃ?悪いな、白石。こんな後輩で」

丸井は切原の頭を無理矢理下げ、首!首痛い!と騒いだ。その図は先輩後輩という図より、仲の良い兄弟という図に見える。少し羨ましい。

「切原君はええこやで」
「ほーら!心配しすぎなんすよ。オレはどこでもいい子なんです」
「調子に乗るなっての」
「わっ!」

今度は首に腕を巻き、空いている手で頭をぐりぐりし始めた。もちろんそれは本気ではなくて、戯れている。2人とも心から笑っているのが見て取れる。

「仲えぇなぁ」
「良いっすよね!」
「そうだなぁ、悪かぁねぇな。ま、こいつは弟分だし」
「丸井先輩が兄貴っすか。んー、ま、嬉しいっす」
「こんなええ後輩欲しいわ〜」
「そうか?」

丸井は腕を組んで首を傾げた。やはり他人の芝生は青く見えるのだろうか。

「やってオレんとこの後輩は、こう…後輩後輩してないっちゅーか…、うーん、ごっつう我儘の後輩と生意気な後輩しかおらん。や、2人ともめっちゃ可愛いんやで?でもこう、切原くんみたいな、うん」
「あー、バカで単純、そんでもってアホでちょっと小生意気で多少手の掛かる先輩大好きっ子の後輩が欲しい、みたいな?」
「普通オレの前で言います?」

丸井は軽く切原の頭を叩き、仕返しに軽く肩を叩いた。うちの後輩達にはこんな可愛らしいリアクションは望めないだろう。

「そんな感じの後輩欲しいわ」
「あ、思い出した。真田と一緒にいる赤毛でちっちゃい奴がお前んとこの後輩だろぃ?」
「そうやで。金ちゃんって言うん。あとこの合宿辞退したんやけど財前っちゅー後輩がおるんや」
「はぁーん…。もやっと分かるかも」

天井を見て指を顎に当て軽く頷いた。確かに財前は印象が薄いかもしれない。なぜならとにかく彼は単独行動派だし、屯されるのや干渉されるのを嫌う。更にお世辞にも社交辞令が上手いとは言い難い。先輩後輩他校生関わらず、それは容赦無く発揮されるのだ。

「性格に問題がある後輩や」
「財前ってそっちの次期部長の人っすよね?」
「おん。なん、知ってん?」
「はい。全国大会の時オレ自販機で飲み物買ってたんすよ」
「そりゃ自販機だもんな」
「もう!先輩は黙ってて。んで、そしたらふらっと現れて、いきなり立海の次期部長でしょって聞かれて、アドレス教えろって言われて、教えたらドウモって言って去っていったんです」

…我が無礼な後輩ごめんなさい。もう恥ずかしいです。何してくれちゃってんだ。どう考えてもそれ、印象悪いだろ。

「あー、ごめんな?あいつに代わって謝るから」
「いいっすよ!気にしてませんし」
「そーだよ、バカ也に頭を下げて得なんざしねぇぜ?」
「先輩って毎度一言多いっすよね、全く…。白石さん、でもオレ、すっごく嬉しかったんっす」
「そうなん?迷惑やなかった?」
「全然!同じ次期部長の人と知り合えたし、これから先気楽に相談出来るじゃないですか。普通の部員に相談したって分からないだろうし、先輩もいないし」

単純でかわいい奴だな、と丸井が言い、切原に戯れた。
財前の場合はしっかりしているし、切原もいるので大丈夫だろう、と言える。もし億が一、金太郎が部長になったとしたら?大丈夫なのだろうか。2年も経てば少しは物事を考えたり、人をまとめたり出来るようになっているだろうか。心配だ。

「…ちょっとクセのある後輩やけど、財前のことよろしく頼むな」
「はい!仲良くさせていただきます」
「こんなバカで、迷惑掛けまくるけど、よろしく伝えといてくれ」
「もー、心配しすぎです」
「そんぐらい可愛い後輩って思ってる証拠だろぃ、バカ也」

切原は一瞬驚いて目をぱちくりさせたが、すぐにへらっと笑って、知ってます、と言った。
本当にその関係が羨ましいなと思いながら、微笑んだ。

「さぁーてと、幸村くんのとこでも行ってくっかな」
「部長の?なんで?」
「天才様のご事情だよ。あんま白石に迷惑掛けるんじゃねぇんだぞ」
「はぁーい」

ひらひらと手を振りながら幸村がいるであろう方向へ歩いていった。

「切原くんは丸井くんのことどない思っとる?」
「へ?丸井先輩?うーん…。本人ってか、立海の人には内緒にしてくださいよ?」

周りをきょろきょろ確認して、人差し指を口に当て、ジェスチャーを取った。

「おん、大丈夫やで」
「面倒見がよくて、悪ノリもしてくれて、後輩を大切にしてくれる先輩です。めっちゃ尊敬してます」

今の言葉は、はにかみながら言う切原を見れば本心だろうと誰もが感じるだろう。

「オレは二人にどない思われてんやろなぁ…」
「ん?なんか言いました?」
「いや、なんでもあらへんよ。せや、そろそろご飯食べ行こな」
「やった!肉〜」

ルンルンな彼を見て、今我が後輩たちがどうしているか気になった。

(…色んな意味でみんなに迷惑掛けてるんやろなぁ)

自然と口があがってしまい、心配するのも彼らは無用すぎて馬鹿馬鹿しくなってしまう。

(ま、それが四天宝寺のレギュラーっちゅーことやな)

今だけは彼らのことを忘れよう。そう思えばすぐに頭はチーズリゾットへ切り替わった。


―――――――
白石と赤也の組み合わせはかわいいよなってだけで書いただけでした。面倒見のいい兄貴二人に、弟くんです。
ブン太は赤也の報告をしに行ったという設定


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