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□子供だもん
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「なー!りん、凛!」
「あー?ぬーがや」
「もう少しでクリスマスだよーっ!」
ずっと朝からこの調子で騒ぎっぱだ。甲斐の家の前に来ても話をやめようとしなかった。きっとプレゼントをねだりたいのだろう。甲斐は純粋だからサンタクロースも信じている。
「うん、だから?」
「だぁーかぁーらぁ!プ!っレゼントが欲しいんさー!」
「うん。え、何でわんに言うの?」
そういうと甲斐はぷくーっと頬を膨らませた。
おい裕次郎、お前は何歳児だ。見た目は少年、頭脳(精神年齢)は幼稚、だなんて言わないよな。てかまずキモい。
「隠さなくてもいーじゃん!凛はサンタズリトルヘルパーなんでしょ!」
「……は?」
「だって凛、わったーより肌白いし、髪の色も違うし!欲しいものを言ったらサンタさんに伝えてくれるんでしょっ?」
この展開はどう突っ込めばいいのだろうか…。そしてどこまでお前は太陽なんだ…。しかもキモい。そしてわんがいつヘルパーになったんだ。わんも初耳だぞ。
まぁ…欲しいものを聞いて裕次郎の親にでも伝えておくか…。
「ちょっと違うけど、まぁそうかな…」
「じゅんにっ!?欲しいのちゃんと伝えてね!んとね、わんが欲しいのはね!」
甲斐裕次郎15歳、精神年齢推定4歳。只今物凄い笑顔でサンタクロースにお願い事を言おうとしております。太陽より輝いてるかも。けれど、キm(しつこい
「うん、欲しいのは?」
「雪!ちゃんと空から降ってくる雪が欲しい!」
「…………」
この願いは無理そうです。任務失敗。
「あー…、それはやーにプレゼントっつーよりわったーへのプレゼントやし。裕次郎個人のはないの?」
「えー!雪!雪がいいっ!」
それはまるで小さい子供が駄々をねているようだ。まるでつーかそうなんだけど。
そんな時甲斐がぽつりと呟いた。
「だってわん、テレビでしか雪、見たことないんだもん。うちなーも全国大会の時しか出たことないから、本物の雪ってどーゆーのか知らないし…」
そう言った甲斐はとても寂しげだった。しょうがねぇ、この純粋ボーイの願いを叶えてやりますか。
「わぁーった!ちゃんとサンタクロースに伝えといてやるさー!」
「じゅんにっ!?にふぇーっ!」
そう言うと、じゃあねっと言って家に入った。
同情をして伝えると言ってしまったがどうしたらよいのだろうか…。流石に困った。大方今の話も信じて、クリスマスまで1週間も前なのに、もうわっくわくで寝付けもしないんだろうな…。
そう考え家に着いた。部屋に行きベッドに仰向けになった。
よし、この賢い頭で考えた!
木手に相談しよう。
電話、電話
「知りません」
「…………」
事情を話すとこの一言。しかもあからさま不機嫌な声。
「平古場くんが勝手に引き受けたんでしょ?」
「でもっ裕次郎があまりに可哀相で…」
「うちなーに雪を降らすなんて無理です。神じゃあるまいし。自分でどうにかしてください」
そう言われたら一方的に切られた。
あっはー…。どうしようか、わん。絶望させる訳にもいかないし…。
でも確かに木手の言う通りだ。人工的ではない、自然の雪を降らせられる奴がいたら1億円をあげてもいいぐらいだ。それほど夢の話だ。
どうするか悩んでいたらケータイが鳴った。ディスプレイをみると『甲斐裕次郎』と表示されていた。
プレゼント追加とかじゃないよな…。
「もしm「凛!凛!大変ばぁっ!クリスマスに部活があるさーっ!」
「はぁ…お前確認しないで電話に出て、間違ってたらどーすんだよ」
「もー!そんなのはどーでもいいの!クリスマスに部活…」
それだけを言うと甲斐は電話を切ってしまった。一体何を言いたかったのだろう…。てか今は一方的に切るのは流行なのか?
クリスマス大好きボーイにとって、その日に部活があるのはかなり最悪な事だろう。
クリスマスに部活……。
今度こそ、この賢い頭で考えた!時間はかかってしまうけどいいプランだ。
こうなれば即行動!
クリスマス前日、部活の自主練があったので顔を出しに行った。部室のドアを開ければ膨れっ面をした甲斐が椅子に座っていた。副部長なので強制参加なのだろう。
「あー、凛ー…。マっジ最悪やっし…。知ってるー?イブとクリスマスに合宿だなんて…」
「連絡網で来たから知ってるばぁ」
「プレゼント貰えないー…。サンタさん来ないー…」
「合宿場所、知ってる?」
「知らん!わん、合宿休む!」
あー、来ましたよ、我儘裕次郎くん。クリスマスが近いとこんなにも幼くなるものですかねぇ?
「我儘言うなしー。わんも行くんだからやーも来い!それにサンタはちゃんと裕次郎のやーるにプレゼント置いてくって言ってたさー」
「当日パーティーをして9時までに寝ないとサンタさん来ないもん。いい子にしてなきゃ貰えないもん。ツリーないと置いていってもらえないもん。目ぇ覚めたときにプレゼントないとやだもん」
合ってるけど多少違うところがあると思うのはわんだけか?どこまで信じてるんだよ、それ。少しは疑うことを覚えないとその内詐欺に引っ掛かるぞ?仁王あたりに。
わがままっ子だなぁ、本当に。
「裕次郎!そんな我儘だとサンタ本当に来ないさー」
「えぇっ!?それはヤダーっ!うぅ…、じゃあちゃんと合宿行くさー…」
「大丈夫やし。ちゃんとやーるにサンタは来るさー。ヘルパーのわんがいっちょーさに!」
「わかったー…。けどプレゼント雪だもん。その時降ってても、わんが帰ってきた時には太陽が燦々としてるんだろうな…」
「…………」
取り敢えず、裕次郎が帰ると言ったのでわんも帰った。
クリスマスになり合宿の日。甲斐はブーたれながらラケットバッグを持ち、渋々集合場所にやってきた。
「全員揃いましたね。…確認のために聞きますが、甲斐くん、あなた長袖持ってきてます?」
甲斐を見れば、いつものジャージだった。
「あい?バッグの中にパーカー入ってるさー」
「ここがそれなりに暖かいだけで世の中は冬です。凍え死にますよ?特にオレ達は寒さに弱いんですから。どこに真冬にそんな薄着のバカg」
「永四郎、大丈夫やし。そんな事だと思って裕の分も持ってきたさぁ」
木手は溜め息をつき、過保護ですねと言った。甲斐は状況を掴めていないのか一人きょとんとしていた。
「さ、空港に行きましょう」
「ねーえ、合宿場所って何処?」
「知らないのかよ。じゃあ着くまで楽しみにしてろって」
「えー!知りたいっ!高知とか?」
「…やーだけ行けばいーさ」
そう言うと裕次郎は、うー…と唸りだした。お前はどこの動物だよ。その内腹へったー、てなのは勘弁だからな。
取り敢えず裕次郎をバスに乗せた。
「あっ、そだっ!今日はイブだよっ」
「うん、そーだな」
「だからケーキと鶏さんのチキンと子供用シャンパン食べなきゃね!」
まるでそれは夢見る子供の様な満面の笑顔で言っている。実際夢を見てるし、まだ子供なんだけど。それに鶏さんとチキンは同じ意味だろう。言うなら七面鳥だ。
「あなた最近知能落ちました?どこにそんなお金があるんですか」
「え゙っ!?で、でもちゃんと食べて祝わないとプレゼント…」
「それに他校もいるんです。遊んでられませんよ」
あ、ヤバい!裕次郎、泣きそうだ!てかホント、どんだけ幼稚化すれば気が済むんだ…。
しかもこれ以上永四郎に話させたら純粋ボーイの夢が壊れる。
「裕次郎、わんに任せろ。特別にわんの特権使ってやるやし!」
「やったーっ!凛だぁーいすき!永四郎だぁーいきらいっ!」
「勝手に言ってなさい」
男に大好きと言われるのは気持ち悪いが、この際許してやろう。
それから裕次郎はハイテンションで、そこで体力を消費したのか飛行機では爆睡をしていた。
目的地に着き、飛行機を降りてからの一言。
「さっっっむぅいっ!寒い!さむ、寒い!さ・む・いーっ!」
そりゃそうだ。こんな場所で薄着でいるバカは普通はいない。しかも夕方ということもあり、余計に寒い。
「り、凛…さ、寒い…」
「これでも着てな」
「うー…、あったかい…。ここ、どこ?」
「ん?北海道」
「…………えぇーっ!?」
まぁビックリするよな。南の島から北の国へ来たんだから。
「だから長袖持ったか聞いたでしょう?バスが待っています。合宿場所へ行きましょう」
「はーい」
バスに乗れば甲斐は窓にへばりつき綺麗に飾られているイルミネーションを楽しんでいた。それはもう幼稚園児のように。
「なー、凛」
「んー?」
「北海道って何処にあんの?」
「…はい?」
この子は今なんとおっしゃいましたか?きっと聞き間違いで『ほっかいろって何処にあんの?』って言ったんだよな!
「だから、北海道って何処にあるのって」
あれ……裕次郎ってこんなにもバカだったっけ?普通、北海道と沖縄の場所って誰もが知っているような…。さっきのビックリは何に対してのビックリだったのだろうか…。
「日本で一番北にある県でカニとラベンダーが有名な場所…」
「あぁー!一番おっきな県ね!雪国の!……えぇっ!?端っこから端っこに来ちゃったの!?わったーすげぇっ!」
…遅。
それからの裕次郎と云えばもうハイテンションで落ち着かせるのが大変でした。
バスから降りると寒いと連発していた。しかしぽつりと「雪、ないや」と呟いていた。
「…あれ?そーいえば合宿って明日までだよね?今日は泊まるだけでしょ?練習してる時間なくない?」
「練習しないさぁ」
「あい?それじゃあ合宿は?」
「だーから、今回は練習じゃなくって遊びに来てんだっつの!」
「??」
そこまで言っても理解できないのか、ちょっと待ってねと考えていた。しかし4秒後にはまた「寒い寒い」と連発し始めた。
「わぁーったから、合宿場行くぞ!」
そんなオレ達を余所に、木手は先に行っていた。
「おー、他校いっぱいいるやし!」
「まぁ正直気に食わないけどな」
入ったらフロントに沢山他校がいた。まぁ大勢の方が楽しいから今回は感謝をしよう。ここの持ち主さんにも、ね。
「さ、裕次郎リビングに入ろうぜ。そこのでかいドアの先らしいからさ」
「あい?わったー一番乗りでいいんばぁ?」
「いーのいーの、さ、行って」
少し不満そうにドアを開けるとパァーンとクラッカーがなった。甲斐は驚きながら中を見ると、甲斐が望んでいたクリスマスツリーやリース、おまけに赤い靴下も下がっていた。長机にはケーキや七面鳥、ピザなどの御馳走がずらりと並んでいた。
「うっわーっ!ツリーもある!本物ーっ!御馳走やしっ!な、な、凛、早く食べよーっ!」
「いや、みんなを待て…」
いい終わる前に甲斐は御馳走を食べ始めてしまった。
他校生が入ってきたら「先にずりぃーっ!」とか「なくなる前に食うぜぃ!」などもうどんちゃん騒ぎが始まった。
ちらりと甲斐の横顔を見ればとても楽しそうで幸せそうな顔をしていた。
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