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平古場と甲斐と辞書
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「知っちょーさに?まぶやーってこっちの方言なんだって」
「あい?まぶやーはまぶやーで、共通語やし」

いつものお間抜けの顔とは違って真面目な顔で甲斐は話を振る。
バリバリ沖縄っ子で沖縄を出たことは全国大会しかない甲斐と平古場は信じがたいものだった。

「永四郎がそうあびたんさ。わったーが使ってる言葉って、やまとんちゅーに伝わらないんやって!」
「ゆくしっ!だって全国の時普通に…、え、じゅんに!?」

こくりと神妙に頷く甲斐も、顔には信じられないと書いてあった。丁度手元に辞書があったので調べてみよう、と平古場はま行を引き、探し始めた。

「…ない」

目縁と真冬の間に、あってほしい単語は載っていない。ならば。甲斐に目線を送る。

「がちまやー」
「ない」
「でぃきやー」
「ない」
「ぬるんとぅるん」
「ない」
「もーあしび」
「ない」
「やっさん」
「…ない」

ぼすんと辞書を閉じた。これらの言葉は標準語ではなんというのだろうか。だが正直のところ。

「ショックさぁ〜…」
「ねー…」
「全国んとぅき、うちなんちゅー丸出しだったあんに…」
「ねー…」

2人で盛大な溜め息を吐く。あの時、あまり会話が伝わっていなかったのか。基本木手にしゃべってもらってたから何も思っていなかったというのが実のところだ。

「決めた。いつ東京出ても平気なように今から標準語でしゃべる。裕次郎もな」
「…でもさぁ、どれが方言とか…解んの?」
「…解らん」
「だよね」

辞書なんて役に立たないし、と言い平古場は頬杖をする。甲斐もうなだれたように平古場の机に俯せる。

「甲斐、それに平古場」

2人はびくりと肩を揺らす。目を合わせ会話をする。“や ば い”。

「自主的に調べるのはいいことぅばぁが、今が授業中ってことぅを忘れちゃ困るさぁ。なぁ?」

そう、2人は授業中にも関わらず、こそこそせず、堂々と後ろを向いて会話をし、授業をそっちのけていたのだ。

「こいで何度目ばぁ?木手に伝えとくかんな」

顔が引きつる他なかった。これはもう完璧に。

((ゴーヤの刑ばぁ……!))

今日の部活は逃げ回る甲斐と平古場の姿が目撃された。


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ずっと地元にいると何が方言とか解らないですよね



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