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填まった二人
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「ねえ、わいってなぁに?」
「…はい?」
「自分自身ってなぁに?」
「…どしたん?」
「分からんなった」
「厨二病やな」

しらっと言った財前に顔をしかめる。白石と金太郎が話している時に割り言って入ってきた。こういう時はいい事がない。

「病む年頃っすよね」
「余計な事は教えんといて」
「全部嫌で、生きてんのも面倒なって。全部に対して意義を無くすんすよ。まあ部長は無縁やと思いますけど」

白石の言葉に聞く耳を持たずに、あまり理解できない事を言った。
確かに自分はそんな風に思ったことは一度もない。けれどこれは大問題ではないか。生きているのも面倒、だなんて野放しにしておくわけにはいかない。

「ちょお二人、部室に集合」
「えー、なんで?」
「ええから」
「面倒っすよ」
「少しお話しするのと一週間校定100周、どっちがええ?」

にっこりそう言えば二人は顔を見合わせ、渋々部室に向かっていった。職権乱用だが、この際しょうがない。

「謙也ー」
「おー、何?」
「しばらく部室使うから、誰も入らんようにみんなに言っといて」
「うん?分かった」

気になりつつも察してくれたのか、なにも聞かないでくれた。世の中みんな謙也の様な人間だったら苦労はしないのだが。

部室に入れば、億劫そうに座っている財前と、嫌々座っている金太郎がいた。
溜め息を吐き、まずは事情を聞くことにした。

「無理にとは言わへんから、話してくれへん?金ちゃん、どうしたんや?」
「んー…、わいも分からんのや。なんか、ふとわいってなんか分からんなった」
「財前はまだ全部面倒って思っとるん?」
「……まあ基本的は。てか、こんな経験ない部長は何もアドバイスとかそこらの出来へんと思いますけど」

冷たい目線で睨まれ、あぁ、こういうのを厨二病というのか、と納得した。

「確かにそこらのは出来へんで。けど今思ってることを言うだけでもすっきりしたりするやろ?」
「するんやったら最初から面倒とか思わんっすよ。言ったところで答えが返ってこないって分かってるんで」
「そんなことないやろ」
「偽善者とか頭のええ奴、それに分からん奴は綺麗事しか言わん。部長もその類いやろ。んなので納得もクソもないわ」

なんとなく彼の本心が見えてきた気がした。いつも彼は何を思って過ごしているのだろうか。常に本心を隠しながら過ごしているのだろうか。

「…そうやろうな。じゃ、なんて言ってほしいん?」
「は?」
「なんて思われたいん?同情がほしいん?」
「意味分かんないすけど」
「答えをいらんとか言う割りには、やたら面倒とか、ブログとかで主張しとるやん」
「別に……なんとも」

頬杖をつきそっぽを向く彼は、口ではあんなことを言ってるが、実際は何かしら思っているはずだ。
金太郎は難しげに頭を傾げる程度で会話には参加してこなかった。

「誰にも言わへんから、思ってることを言ってみてくれへん?」
「……嫌すわ」
「そ…。うーん、ならさ、今は全国制覇っちゅーのを生きる理由にせえへん?」
「…は?」
「言ってくへんから分からんが、存在理由がほしいんやろ?存在意義というか」

その問いに対して財前は答えなかったが、変わりに金太郎が口を開いた。

「わいは…ほしいかもしれん」
「金太郎、言わんくてええよ」
「でもな、テニスを取ったら、わいは何になるん?生きてる意味は?」

まさか金太郎がそんな事を言うとは思っていなかったので、それはもうとても驚いた。あの無邪気で元気な金太郎の口から、生きてる意味は?、と出てくるなんて。

「オレらは…まだそんな悟れてないやん。そんなんオレかて分からん。でももっと簡単に考えてええと思う。たこ焼き食べる為とか、友達に会う為とか。まだそれだけでええと思うで」
「………夢とかやりたいことがない奴は?ほんま人生どうでもええと思ってる奴はどうするん?そんなんで生きてる意味なんて見出だせんすけど」

そっぽを向いたまま、財前が言った。これは彼の本当の本心だとよく伝わった。そっぽを向いたまま、というのが何よりの証拠だ。

「今は全国制覇、やな。誰かに必要とされてるっちゅーのが分かれば、少しは意味、見つけてくことが出来ると思う」
「…ほら、綺麗事しか言わへん」
「やから、なんて言葉掛けてほしいん?財前らが求める答えっちゅーのはどんなんなんや?誰かに与えてほしいん?自分で探したいん?」
「わいはね、よお分からんけど…、白石がほんまに心配して、こう話してくれんはめっちゃ嬉しいな。でも、なんていうんかな。それだけじゃ根本的な解決になってないねん。最終的に、自分で納得する答えを見つけんと、なんか、意味ない」

首を傾げ、金太郎らしからない事を言った。本当に難しい事で悩んでいるのだ。今まで、彼からこんな難しい解答をもらったことなんてないのだから。

「つまりまあそういうことっすわ。確かに誰かに思ってほしい気持ちはあります。少しでも興味を示してもらいたいみたいな。綺麗事な言葉をもらいたいのも、まあムカつくけど若干事実です。でもそれは只の気休め。答えなんて自分で見つけないと意味ないんすよ。だからこうやって順繰りするんです。で、ドツボに填まる。まあ部長には一生分からんと思いますけどね」
「そう…。なら、最後にさ。オレらと一緒におる時、自分らは“楽しい”?」
「楽しい!」
「…暇はしませんね」
「なら今はそれでええやん。楽しいと思える事があるうちは、な。話してくれておおきにな」

解決には至らなかったが、少しだけ彼らの本心を知ることが出来たのでよかったとしよう。自分達で答えを見つけないといけないならば、こちらは何かをしてあげることは出来ない。なら、せめて一緒にいる時は、楽しいと思えるようにしてあげよう。

席を立ち上がり、二人だけにしてあげようと部屋を出ようとしたら、財前は何かを呟いた。金太郎は財前の腕を掴み、俯いている。

「なん?」
「………いえ。なんでも」
「………きっとこれから楽しいで。まだ14やろ?まずは一緒に全国の夢、見よう」

財前は答えはしなかったが、曖昧に頷いた。分かった、というよりも面倒臭いから頷いておこう、という感じだ。
彼が何て言ったかは分からない。けれど何か言葉を掛けなければと思った。

「白石?」
「うん?」
「わいもね……、財前と同じこと…、ううん、なんでもない。おおきに」

部屋を出た後、二人が何を話したかは分からない。けれど金太郎の呟きが聞こえた気がした。

ほんまは死にたい

と。
それには何も答えなかった。
聞き間違いであるようにと思いながら。


―――――――――
助けてほしいけど、結局は自分との戦い。解らない人には理解されないんです。
金ちゃんの呟き分かりますか?

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